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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第五章  三人と一人のはねっかえり娘 とある貴族達と関わる  の話
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01  『それは ちょっとした巡りあわせ』

大変長らくお待たせいたしました!

これより、第五章の開始です。

 古来より、河川を有する土地というものには人口の密集した地域が出来上がるもので、三人の元中年達がスズと共に暮らすここ王都イズクモも、ご多分にもれず幅の広い大河を抱いていた。大きな川沿いに作られた街のあちこちには運河が掘られ、人々の生活のために利用されている。


 露天の立ち並ぶ中心街より少し離れ、屋号を掲げた看板を吊るす土地持ちの店舗がひさしを並べるこの一角にも、大通りの真ん中を抜くような形で運河が通っており、今も幾つかの小船が行きかう姿を見ることができた。

 ここ数年の補整事業によりいくらか整ってきたとはいえ、固い石畳の道路などは遠い先の話。物の行き来を賄うには、いまだ馬車よりも船が主流であるのが、この王都イズクモなのである。



 そんな運河にかけられた小さな橋の上を、見覚えのある姫騎士姿の少女が歩いている。冒険者ギルドでの用事を済ませたこの元三十台独身男は、冬の陽気も心地よいこの日、特に目的のない散策を楽しんでいたのだった。

 まだ昼を少しまわったばかりの運河に流れる冷たい水は透明度も高く、川底の藻が緩やかに水流に身をゆだねる様子がキラキラと楽しげだ。冬の寒さの中だからこそ感じられる日の光のありがたみを横目で見ながら、ツルギは外套の袖から腕を抜き、懐手に差し込んだまま川沿いの道を歩いていた。

 普段のガサツ極まりない言動からすれば不思議なものだが、これくらいの風情を楽しむ素養はコイツにも存在する。元の世界では都会と呼ばれる地域に住んでいたツルギにとって、このような自然の季節を感じられる町並みは、何度目にしても見飽きることのない楽しさに満ちているのだった。



(せっかくここまできたのだ、ついでにヤツラに、甘い物の一つも買っていってやるとしよう……)


 中央市場の辺りでは、甘味と言っても果物ぐらいしか見当たりはしないが、この店屋街まで足を伸ばせばその限りではない。現代日本に比べようもない素朴なモノだが、それでも立派に菓子だと言い張れる嗜好品を、この辺の店でも取り扱っていた。

 飲み屋の女性に手土産として持っていくに、ちょっとした甘味ほど喜ばれるものは無い。ツルギがこの手のみやげ物を取り扱う店に詳しいのも、むべなるかなと言うところである。


 秋口に取れる果実を蜂蜜漬けにしたものを、たっぷりの砂糖にまぶした菓子を扱う店の場所を思い出しながら歩いていると、なにやら人だかりが出来ているのが目に入ってきた。

 声を荒げる男達の粗野な言い回しを耳にし、


(喧嘩か? 面倒だな、遠回りをするか……)


 と、ツルギが考えたのはおかしな話ではない。そもそもコイツは他の二人ほど争い事は好まないし、ちょっと人だかりがあるからといって自らのぞきに行くほどの野次馬根性が染み付いてもいないのである。


 ――だが、


「お、おやめ下さい! こちらはきちんと謝ったではないですか」


「それですむと思ってんのか、爺さん。ひと様にぶつかって怪我させておいて、ちょっと頭下げた程度で許されるはずがねぇだろうよ」


「そんな……。確かにこちらが不注意でぶつかってしまったのは認めますが、それでも少しよろけてしまっただけで、怪我なんてするはずが……」


「あぁ!? てめぇ医者か? 医者でもねぇのに他人様の体がどうなってんのか、見ただけでわかるってのか? こっちゃあテメェにぶつかってこられたせいで、古傷が開いちまったかも知れねぇってのによぉ!」


 などという、いかにもなやり取りを耳に入れてしまっては、知らぬ顔をして通り抜けるワケにはいかない。ツルギは騒ぎを遠巻きに眺める一人の男の肩を叩き、事の次第を訊ねた。


 どうやら、この辺りの商家で買い物をしていた老人が地面に足を取られ、たまたま通りがかった男の一人にぶつかってしまったらしい。老人は両手に抱えるほどの荷物を抱えており、前から来る男達にも気がつかなかったのであろう。

 これだけ聞けば、確かに非は老人の方にある。だが、即座に頭を下げ謝罪を入れたにもかかわらず、数人で取り囲むように恫喝を続けている人相の悪い男達を見れば、コイツ等が他者のちょっとしたミスに付けこもうというハラであるのは言うまでもないことだ。

 野次馬の一人から事情を聞いている間に、事態はお定まりの展開に移行していた。


「とりあえず慰謝料だな。仲間が大怪我させられたんだ、金貨五枚は置いていってもらおうか」


「もし手元に無いってんなら、爺さんの家まで付いていってやってもかまわねぇんだぜ?」


 たとえ世界が変われども、こういうやり取りに変わりばえはしないものだ。ツルギは、目の前で繰り広げられるなんともわかりやすいタカリの現場を前に、思わず苦笑いを浮かべては肩をすくめるのであった。



§§§§§


§§§


§



「――とまあ、そんなことがあったわけだ」


 数日後、リビングのテーブルに着いたギョクたちの前で、ツルギは少しだけ照れくさそうに視線をそらしている。

 いつものようにギルドの掲示板を偵察に行っていたツルギであるが、その日は夕食の時間になっても戻ってこなかった。ヤツに限って万が一など起こりはしないと思いつつも、少しだけ心配し始めていた一行の元へ帰ってきた姫騎士少女は、事情を尋ねる三人の仲間たちの前で、数日前に起こった出来事を話し始めたのだった。



「なるほどッス。で、その時のお爺さんが実は貴族のトコに勤める使用人で、助けてもらったお礼を言いに、わざわざギルド経由でツルギ先輩を探してたってワケッスか」


「そういう事だな。思えば確かに、あのご老人は身なりもしっかりとしていた。あのならず者達も、その辺りでカモだと目をつけたのだろうしな」


「しっかし、良くもまぁ探しおおせたもんだな。……まさかお前、その四六の裏どもに向かって『我こそは……』とかやったんじゃねぇだろうな?」


「やるか、そんなもん。たかだかゴロツキ数人程度に、わざわざ名乗るわけが無かろうよ。……だが、そいつらもオレ様たち同様冒険者だったらしくってな。面倒にならぬよう、こちらも冒険者だとだけは言っておいた。恐らく、ご老人もそこから辿ったのだろうよ」


「ほぉ……。そんだけの情報でお前にたどり着くとは。なかなかやるもんだな、その爺さんも」


 などと、感心したように頷くギョクとツルギ。

 だが一方、カガミとスズは、


(いやいや……それだけわかってれば、先輩ならすぐ特定されるッスよ)


(むしろ、冒険者って名乗ってなくてもたどり着かれちゃいそうだよねぇ)


 自分達がどれだけ目立つ存在であるのかを未だに自覚していない二人の様子に、揃って苦笑いを浮かべる。

 黙っていても目立つドレス姿のギョクや、神殿以外ではなかなかお目にかかれない神官姿のカガミと違い、ツルギの服装はそれほど珍しいわけではない。男女比で言えば圧倒的に少数の女性冒険者ではあるが、それでもある程度の数、女性冒険者は存在しているのだし、そんな女性達の装いはツルギの姫騎士姿とそれほど大きな差はなかった。

 もちろん品質には天と地ほどの違いがあるものの、例えば以前三人が依頼を共にしたモネーなども、シルエットだけで言えばツルギと同じ装いをしていたのである。当て革付きのスカートに胸当てというのは、女性冒険者達にとって一般的な装備なのだ。


 だがそれでも、ツルギは否応なしに人目を引く。もちろんそれには『絶世の』が頭に付く面立ちや、現代日本にいればトップモデルとして充分に覇権を狙えるプロポーションも一助となっているのに間違いは無い。

 しかしコイツの場合は、そんな外付けのパーツだけではなく、その立ち居振る舞いにこそ理由があるのだろう。幼い頃より武術に傾倒してきた人間の姿勢というものは、ただ立っているだけでも惹かれてしまう美しさがあるものなのだ。



 そんなツルギの肉体美とは対極にあるかもしれないギョクは、無作法にもテーブルの椅子に逆向きに腰掛け、背もたれにあごを乗せたまま訊ねる。


「まぁそれはそれで良いや。んで、その爺さんがわざわざギルド経由でお前さんを探してたのはわかったがよ、それだけでおしまいなのか? ここまで時間がかかったってことは、なんか続きがあるんだろ?」


「うむ。確かにその通りでな……?」


 ツルギが聞いた話によれば、件の老人が仕えている貴族は、この国でもそれなりに由緒のある大家だったらしい。そしてその貴族が、自分の信頼する使用人である老人から話を聞き、是非一度、自分もツルギと会ってみたいと言ってきたのだそうだ。

 自家の人間が助けられたのであれば、主人として礼のひとつも言っておこうというのはもっともな話。さらに、ツルギが老人の見立てどおりの人間なのであれば、ひとつ仕事を依頼したいとのことだ。


「なんでも、家に仕える女性従業員達に、護身術を仕込んでもらいたいらしい。このところ世間も物騒だからな。いざという時に自分と主人の身を守れるような備えをしておきたいというのは、わからなくもない話だ」


「それって、私がみんなに教えてもらった『すぐ死んじゃわない為に……』みたいな事?」


 三人と生活を始めた当初、自分が受けた教えを思い出してスズは口を挟む。だがツルギは、長いすに腰掛けて自分を見上げる少女の頭に手を載せ、ポンポンと叩きつつ首を横に振った。


「いや、もう少し突っ込んだところまでだな。相手はスズよりも年上の者たちという話だし、簡単な体作りなども教わりたいらしい。定期的に屋敷に赴いて、武術指南のような役について欲しいとの事なのだ」


「なるほどッス。確かにツルギ先輩なら、そういうのもお手の物でしょうからねぇ」


「街中で出来る仕事で、かつ定期収入が入る仕事という訳だ。もちろん、おぬしらと依頼を請ける時にはそちらを優先させてもらえる。悪い話ではないと思うのだが……」


 基本的には三人で行動することが多い一行。単発の仕事ならば誰かが単独で請けることはあれど、今回のように継続した仕事を一人で、というのは初めてのケースだ。丸っこいスズの頭をぐりぐりと揺らしながら、ツルギは二人の仲間たちの顔を窺う。



「別に良いんじゃねぇの? お貴族様のトコってんなら、それなりに見入りも良いだろうしな。まぁお前のこった、何時ボロ出して追い出されねぇとも限らねぇ。それまでキッチリ毟り取ってやれよ」


 いつもより殊勝な態度のツルギに少しだけ面白いものを感じつつ、ギョクは気楽な様子で言葉を返していた。だがカガミは、何かに気付いたように口元に手を当てる。


「いやお二人とも、ちょっと待ってください。それ大丈夫なんですか? 今の話って、つまりは貴族からの依頼ってことッスよね? ギルドの規約じゃ、オレ達中級は貴族の依頼は受けられないはずッスよ」


「あぁ、それに関しては問題ない。たまたまその話をしていた時に、例のギルド職員も近くに居てな。貴族の主人からの依頼ではなく、そのご老人からの依頼という形にしてくれたのだ。あのご老体は平民だからな。規約には引っかからんのだ」


 自分の出した当然の疑問に、詭弁とも取れる強引なやり方を、実にあっけらかんと言い放ったツルギに対し、カガミは口の端をひくひくさせている。


(良いんスかねぇ……。表沙汰になったら、絶対面倒なことになりそうだけど……)


 とはいえ、あのギルド職員が関わっているというのなら大丈夫なのだろう。もしも問題になるのであれば、この件を処理した職員も責任を取らさせられるはず。何かにつけて知恵働きの働くあの女性が、こんな事で自分の立場を悪くするとは思えない。

 それに、万が一の時にはあの職員を矢面に立たせ、責任を取らせれば良いだけの話。自分達が不利益を被ることは無いだろう。

 一人納得したカガミは、


「そうッスか。ま、それなら大丈夫ッスかねぇ」


 と、新たな稼ぎ口に盛り上がる仲間たちに混ざっていた。




「ところで……さっきのお話に出てきた、お爺さんをいじめてたって悪い人達だけど。ツルギさん、その人達はどうしちゃったの?」


「む? あぁ、あいつらか。ちょっと声をかけただけでオレ様に向かって来たからな。そのまま全員、用水路に投げ込んでやったぞ。あんな程度で叩きのめすのもどうかと思ったし、ちょっと頭を冷やせ、というヤツだな」


「ふわぁ……やっぱり凄いねぇ、ツルギさんは。でも、逆に恨まれちゃったりしない? 大丈夫?」


「問題なかろう。その後、冒険者ギルドで鉢合わせたことがあったが、オレ様に気付くとペコペコ頭を下げておった。きっと改心したのであろうよ」


 凄いすごいと囃し立てるスズに、かんらからと笑うツルギ。そして、


(こんな冬の最中、冷水の中に叩き込むなんて鬼畜なマネをした先輩に、純粋に恐怖しただけなんじゃあ……)


 と思いつつも、口には出さないカガミなのであった。

お読み頂きありがとうございました。


本日より、毎日投稿再開いたします。

イロイロとご報告もございますが、

それらは活動報告で纏めて行わせさせて頂こうと思います。



お気に召しましたら、ブックマーク等いただけると嬉しいです。

皆様の一票に、この作品は支えられております。


もし宜しければ、何か一言だけでもけっこうですので、

ご意見、ご感想などもいただけると嬉しいです。

基本的にはその日の内に、

遅くとも数日中には、必ずお返事させて頂きます。




↓↓宜しければこちらもどうぞ↓↓

 ※※短編※※

トイレでアレする花子さん

http://ncode.syosetu.com/n5439dn/


 ※※完結済み※※

つじつま! ~いやいや、チートとか勘弁してくださいね~  (旧題【つじつまあわせはいつかのために】)

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