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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第四章  三匹の黙ってれば美少女 暗い闇の中に潜る  の話
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13  『それは 湧き上がる誰かの怒り』

 その夜。二人ずつ三交代で不寝番を廻していた中、メイズはツルギとともに、三番目に見張りを行う予定だった。


「メイズ、一大事だ。起きろッ!」


 その為まだ夜半過ぎだというのに自分を揺り起こす声が耳に入ったとき、メイズが即座に反応することが出来なかったのもしょうがないといえばしょうがない。

 だが、なおもかけられる声の逼迫した様子から、すぐに意識を通常レベルにまで引き上げたのは、やはり、流石というべきなのだろう。


「どうした、ツルギ。何があった」


「モネーの姿が無い、アカザもだ。ざっと庵の周囲を見たが、外から襲撃を受けたという状況では無さそうだ」


「っ!? 二人の荷物は?」


「一応は、ある。だが、二人の装備は一式なくなっている」


 その言葉に、メイズはサッと自分の荷物一式、更に纏めて保管していた魔石を確認する。特に荒らされた様子はなかった。

 一緒に依頼を受けていた冒険者が戦利品を盗んで逃げ出すというのは、滅多にないことではあるが皆無ではない。二人が、発覚すれば確実に命で(あがな)わさせられるそんな外道をやったのではないと確認し、メイズは我知らず胸をなでおろしていた。


「しかし……それならどこに……」


「オレ様にもわからん。とりあえず今は、ギョクが遺跡の様子を見に行っている。」


 ここで、ようやく他のメンバーに意識を向けたメイズは、自分と同じように状況説明を受けているゴースの姿を確認する。あちらの大男への説明は、カガミが担当しているようだった。

 姿の見えないギョクが地下を確認しに行っているというのなら、やはり姿を消したのはモネーとアカザの二人だけに間違いはない。

 だが、盗みを働いたのでもないならば、たった二人で何処に消えたというのか。まさか、依頼を受けている最中だのに物陰にシケこんで……などという、ふざけたマネをするとも思えないし……。



 そこまで考えたメイズは、弾かれるように顔を上げる。そして脳裏に浮かんだ可能性を口にしようとしたその時、地下に向かう階段から、眉間に深く皺を寄せた魔法少女が戻ってきた。

 ギョクは、険しいその表情に相応しく、実にドスのきいた声で言い捨てる。


「間違いねぇ。ヤツラ、二人で遺跡に潜りやがった。寝ていた場所がまだ暖かいことから考えて、そう時間が経っているとも思えねぇ。急げばまだ追いつけるかもしれん」


「クソッタレが! やっぱり二人で、あの仕掛けを解きに行きやがったのかッ!!」


 そして冒険者達は、それでもキッチリと自分達の武器とランタンを携えて、急ぎ遺跡の中へと駆け出した。



 昨日の時点で、既に道中の安全は確認済みだ。それでも、この短期間で新たな魔物が出現するという危険性が無いわけではない。生き物の気配にだけ注意を向けたメイズを先頭に、冒険者達は一群となって石畳の上を走っていく。

 しばらくして、戦闘の跡も生々しい大広間へと舞い戻ったメイズは、ツルギの強力(ごうりき)によって穿たれた大穴の縁に、自分達も利用したロープがかかっていることを目視する。


「クソッ……クソッ……。こんなふざけた抜け駆けなんかしやがって。説教程度じゃすまさねぇぞ」


 血走った目で隠し通路の入り口に駆け寄った一行だが、後一歩で辿りつくというところで、全員が等しく足を止めてしまった。

 怒りとも驚きとも言い難い表情を見合わせる冒険者達。

 彼らの足を止めたのは、階下の暗闇から響いてきた、余りにも聞き覚えのある女性の声。

 それは恐ろしいほどに悲痛な、そして残酷な悲鳴だった……。




 なおも続く苦痛に満ちた叫び声に、真っ先に我を取り戻したのはギョクだった。

 少女は、


「チッ!」


 と一つ舌打ちを入れると、躊躇い無くその身を躍らせる。続けてツルギも、同じようにロープを使わずに暗闇の中に飛び込んでいった。

 二人に後れを取ったメイズも、慌ててロープを伝い下に下りる。先に降りた二人ほど無茶なアクロバットではなかったが、それでもいつものメイズからは考えられないほど乱暴な降下であった。


 そして隠し通路に降り立ったメイズは、腰に下げていたランタンを取り外して道の先を照らした。

 視界の先に、自分の物では無い明かりが見える。

 ――ギョクかツルギ? いや違う、二人はランタンなんて持っていなかったはずだ。

 灯りに照らされているのは、三つの人影。立ち尽くす騎士乙女と、同じく誰かを見下ろしている特徴的な魔法少女。そしてもう一つは、情けなく地面に座り込んだ、金属盾を持った青年の姿だった。



 壮絶に続いていた悲鳴は、今はもう聞こえない。それでもメイズの耳の奥には、先ほどの何かを呪うような悲鳴がくっきりと残っていた。

 わんわんと耳鳴りがする。

 メイズはゆっくり足を進め、光に照らされた三人の元へと近づく。ふと、昼間ここに来た時とは、何かが違うように感じた。

 そして気が付く。視界の先、昼間は小さな小部屋に続いていた通路の突き当りが、今は(いかめ)しく(びょう)が打たれた扉でふさがれている。石造りの遺跡の中で、そこだけ木製の扉によって、謎解きの仕掛けがあった小部屋は閉ざされているのだった。



「オイ……モネーの姿が無いぞ? 何処に行った。それに、さっきの悲鳴はなんだ」


 メイズは少しずつ三人に近き、悲痛な面持ちのギョク達に向かって声をかける。


「オイ、アカザ。モネーは何処だって聞いてるんだ! さっきの悲鳴は誰だッ! その扉は、何で閉まってやがる!」


「ボ、ボクは止めたんですよ……。でも、モネーがやるって聞かなくって……」


「テメェの言い訳なんざどうでも良いんだ! さっさと答えろ! 何がどうして、俺達がこんな形で仲間の断末魔なんざ聞かなきゃならなくなったんだよッ!!」


 叫び続けるメイズに、答える声は存在しなかった。


「クソッタレがッ!」


 吐き捨てたメイズは、未だ堅く閉ざされている扉に向かって手を伸ばす。モネーの悲鳴が途切れたのはほんの少し前の事だ、今ならまだ、助けられるかもしれない。

 だがそんな希望は、扉の表面に届く事無く止められる。横合いから伸びてきたツルギの手が、メイズの腕をしっかりと掴んでいた。


「なんっ――」


「冷静になれ、お前らしくも無い。お前が言ったのだぞ、この部屋に仕込まれたのは毒の仕掛けだと。何の備えも無くこの扉を開ければ、この場にいる全員が巻き込まれることになりかねん」


 聞き様によっては冷たくもあるツルギの言葉に、メイズは頭を殴られたような衝撃を受ける。体がぐらりと揺れ、通路の壁にもたれかかってしまった。

 そして、背後から聞こえる足音に気が付く。振り返れば、遅れて到着したゴースとカガミの姿がそこにあった。メイズはハッと目を見開き、カガミに向かって口を開く。


「そうだ! カガミ、お前の神聖術なら……」


 だが、そんな周囲の視線を一身に受けたカガミは、瞼を伏せながら首を振る。


「ごめんなさい。私の神聖術は、基本的に手の届く範囲でなければ無理なのです。せめて目視できる範囲なら、やりようもあったのですが……」


「それ以前に、この扉が開くかどうかもわからねぇ。もしも中の人間を閉じ込める仕掛けなら、こっちからも開かないようになってたっておかしくはねぇんだ。……おい、アカザ。開くかどうかくらいは試してみたか?」


「あっ……い、いや……」


「それすらもしてねぇってのか。……クソッ。大概だな、テメェは」


 そう言って地面に唾を吐いたギョクは、ツルギに向かってアゴをしゃくり、未だ座り込むアカザとメイズを下がらせた。そして扉に向かって手を沿え、慎重に力を入れる。


「……動き、そうだな。もしかすると、既に中の毒は拡散しちまってるのかもしれん。即効性の高い毒は、消えるのも早いって話を聞いた事があるような気がする。だが、そうなるといよいよ絶望的か。毒の効果時間と扉の解錠のタイミング、調整くらいはしてるだろうからな……」


 あえてそうしていると窺える、ギョクの冷静な声が辺りに響く。

 誰かが歯を食いしばる、鈍く歪んだ物音が聞こえた。




「…………とにかく。何時までもこうしていても始まらない。一旦戻ろう」


 振り絞るように呟かれたゴースの声で、皆が顔を上げた。何処にぶつけて良いのかわからない苛立ちを、必至にこらえているような顔をしていた。

 緩慢に頷くメイズを他所に、カガミがおずおずと手を挙げる。


「あの……。申し訳ないですが、私を置いて先に戻ってもらえますでしょうか。モネーさん、このままにしておくのは忍びないですから」


「あっ……いや、それならば全員で――」


「いいえ、ここは私に任せてください。私一人なら、神聖術の守りで、少しくらい毒が残っていたとしても何とかなりますし、モネーさんくらいの体格なら、つれて帰るのも問題はありません。それに……自分の末期の姿を男の方に見られるのは、モネーさんも嫌だと思いますので」


 伏し目がちにそう言ったカガミに、ゴースは続ける言葉を持たなかった。



 そして冒険者達は、未だ座り込むアカザの両腕を抱え、元来た道へと戻っていく。

 去り際、一度だけ振り返ったギョクは、こちらを見送るカガミに向かって小さく頷いていた。

お読み頂きありがとうございました。


やっぱり夕方になってしまいました。



お気に召しましたら、ブックマーク等いただけると嬉しいです。

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もし宜しければ、「シリアスさん登場(二章ぶり 三回目」

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