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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第四章  三匹の黙ってれば美少女 暗い闇の中に潜る  の話
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11  『それは 意外な人物の提案』

 ツルギが殴り空けた穴の底は、確かに別の通路へと繋がっていた。


 カンテラを下げたメイズが降りてみると、ここまでと同じ硬い石造りの感触が足先に触れる。

 先ほどまでの階層と違い、ここには換気の為の仕掛けは施されていないようだ。すえたかび臭さを感じたメイズは、念のために口先を覆ったまま辺りの様子を確かめていた。

 物音一つ無い暗闇の先に、生き物の気配は感じられない。即効性の罠も無さそうだと判断したメイズは、軽く手を振っては、穴の入り口で待つ仲間達に合図を出した。



「間違いなく未発見区域だな。ここまでの道とはホコリの積もり方が違う。十年やそこらではきかない時間、誰もここに来ることは無かったんだと思うぜ」


「十年以上……ムーテンがまだ生きていた頃か。……どこかに繋がってるという線も無しか?」


「はっきりとは言えないが、多分無い。空気の感じからして、完全に閉鎖されていた空間だぜ。壁のつくりを見ればわかると思うが、ここも「ムーテン庵」だ」


「は、破棄されていた道、ということでしょうか……。例えば、何か危険な物が発掘されたとかで」


 慎重に足元を検めながら進むメイズに、後に続くゴースとアカザは口々に訊ねる。人為的に作られた遺跡と言うのなら、建設中なんらかの理由で一部を破棄することもありうる。

 地上の建造物ならば壊してしまうのが定石だが、生憎とここは地下。再度埋めなおすよりは、単に塞いだだけで処理してしまったのではという予想は、充分に説得力を持つものだった。



 だがメイズは、そんな二人の意見に振り向きもせぬまま否定を返す。


「いいや。多分だがそれも違う。建設中で放置したにしては、地面や壁が整備されすぎてる。大体こういう場所ってのは、最初に目的の区画まで穴を掘って、そういった補整は最後にやるものだ。ここまでキッチリ作っといて、それでも破棄するってのは……ちょっと道理に合わないぜ」


 そして道の先へとカンテラを向けると、ようやく皆の方に振り返りながら続けた。


「つまりここは、最初から隠すつもりの道だったってワケだ。そして隠したかった何かってのが……あの場所なんだろうよ」


 暗闇の中に目を凝らした冒険者達が見たものは、これまでと同じ四方を石壁に囲まれた小さな部屋と、その中央に鎮座する奇妙な石版であった。



 安全を確認したメイズの先導で、全員が小部屋の中に入る。これまでの余裕のあるつくりと違い、この部屋は七人で一杯になってしまうほどのスペースしか設けられていなかった。

 中央の石版は円筒上の台の上に設置されていて、何かが書かれているようである。


「これは……」


「マジか……」


 そこに書かれた文字を目にした冒険者達から、思わずといった呟きが零れる。慎重に積もったホコリを払っていたメイズが口を開く。


「間違いないな。ここはこの遺跡を作った爺さんの隠し部屋。しかもここに書かれてることが正しければ、遺産の隠し場所ってヤツだ」


 冷静さを保とうとし、それでもどこかうわずった声で喋るメイズは、石版の文字を指しながらニヤリと笑っていた。




『――いずれこの場所に立つ者へ告ぐ。僅かばかりの財宝の全てをここに残す。受け取る資格在りし者は、扉を閉めて答えを示せ。そうで無き者は早々に立ち去るか、甘んじて死を受け入れよ』


『――二人の男が旅をしていた。ある森の中に立ち入ると、前から巨大な獣が現れた。一人は慌てて木に登り難を逃れた。だがもう一人は逃げ遅れ、その場に倒れ死んだ振りをする。獣は逃げ遅れた男の耳元に口を近づけていたが、しばらくすると去っていった。やがて木に登った男は安心して降りてきたが……その後、彼らは別の道に分かれていったという』


『――さて。その理由を問われた時、私はなんと言うだろう?』



「なるほど、たまにある仕掛けだな。つまりこのなぞかけを解けば、師の残した財宝が手に入るということか」


「だろうな、ゴース。あっちの壁を見てみろ、薄く線が入っているのがわかるか? おそらくは何かの仕掛けで扉が閉ざされている。正解を示せば開く仕組みになってるんだろうぜ」


「と、とはいえ。これだけじゃわからなすぎです……。ほかに手がかりは無いんでしょうか?」


「たしかにこの文だけじゃ……。でも、なんか引っかかるんだよねぇ。コレ……」


「さて、どうするべきか……」


 悩みこむ冒険者達。だが三人のイレギュラーは、他の仲間に悟られぬよう合図を出し、こっそり別の問題を囁きあっていた。



「どうだ、ツルギ。……いけるか?」


「これはちょっと厳しいな。扉を叩き割る分には問題ないが、それをやるとこの部屋自体に落盤が起こる恐れがある。ここの深さを考えるとお勧めできん」


「管理通路の類も無いッスねぇ。通路の途中なら、大抵メンテ用のルートがあるモンだけど、どうやらこの先は本当にただの物置きみたいッス」


 皆が額を寄せ合い、目の前の問いかけに頭を捻っている時。コイツ等三人は、そんな出題者の意図などお構い無しに、ただ先へ進む方法を考えていた。


 ギョクたちが冒険者として活動をはじめてから、既にそれなりの期間が経っている。そのうえ、受ける依頼の多くは遺跡や迷宮にからんだ仕事であった為、この手の仕掛けに遭遇するのも初めてでは無い。

 だがそれでも、コイツ等はそんな作成者との知恵比べの類に、一度としてマトモに取り組んだ試しはなかったのである。



 そもそも他の者たちであれば、探索担当の冒険者が時間をかけて行う部屋の精査も、例の魔力探索で一気に行ってしまうような連中なのだ。隠し部屋だろうと抜け道だろうと、特に苦労せずすぐ発見できる。

 しかも、立ちふさがる障害の数々を、文字通りの意味で一蹴できる存在もいるのだ。わざわざ相手に合わせて、しちめんどうくさい細かな仕掛けに付き合ってやる必要などまるで無い。


 探索したによって丸裸にした遺跡を、力技で粉砕。そして根こそぎ掻っ攫うというのが、コイツ等にとっての遺跡探索というものなのである。本当に、真面目にやっている冒険者達からすれば良い迷惑だ。


 だが、今回ばかりはそんな無法を行う隙は無いようである。コイツ等三人だけならば、落盤覚悟で無理やり壁を殴り壊していたかもしれないが、他の冒険者達に危険が及ぶ恐れがある以上その方法をとることは出来ない。先ほど地面に大穴を空けたのとはワケが違うのだ。



 さてどうしようと考えていたところで、先ほどから一人うんうん唸っていたモネーが、


「あ~っ! わかった!!」


 と大声を上げた。この場の注目を一身に浴びた女性冒険者は、快活な瞳をパッチリと開けて話し出す。


「これ知ってる。この話って、この辺りでよく聞くおとぎ話だよ。細部が違うから最初は気付かなかったけど……うん、間違いない。このお話、私絶対聞いたことある」


「有名な話なのか? 生憎俺もメイズも、王都には渡ってきた口なのだよ」


「モ、モネー。どんな話なのかな?」


 ゴースとアカザが口々に尋ねる。そんな男達の様子に、少しだけ得意気なモネーが語ったのは、大体こんな話だった。



 物語のディテールには幾つかのバリエーションがあるが、概ねの流れとして、二人の男が森で凶悪な存在と遭遇することから話は始まる。二人のうち一方は何とか難を逃れ、もう一人は運悪く逃げ遅れるところも共通する。そして残された男がやり過ごそうとしていると、猛獣で凶悪なはずの存在に、なにやら耳打ちをされるのである。

 ここから先は色んなパターンに分かれるそうだが、共通するのは、二人が共に旅をする仲間ではなくなってしまうという事。そしてその理由は――


「逃げ遅れちゃった旅人は、獣にこんな事を言われちゃうんだよ。『いざという時、仲間を見捨てて一人で逃げるような相手と一緒で大丈夫か?』ってね。それを聞いた男たちは、もう一緒に旅をすることは出来なくなっちゃうってお話なんだよね」


「なるほど、そういう物語でしたか。そう言われれば……私もどこかで聞いたことがあったような気もします。何処で聞いたかまでは、ちょっと憶えていませんけれど」


「まぁこういう話ってのは、似たようなんがあっちゃこっちゃに転がってるモンだからなぁ。カガミも、どっかその辺りで小耳に挟んだんだろうよ」


「そうかもね、私だって特別な話だとは思ってなかったし……。でも、これでわかったでしょ? この問題の答えは『獣に旅の同行者のことを心配されてしまったから』だと思うわよ」


 キラキラとした瞳でそう述べた女性冒険者は、そのまま仕掛けを解いてみることを提案する。どういった仕組みかはわからないが、この小部屋の入り口に設けられた扉を閉じれば、答えを示すことが出来るようになるのだろう。

 回答方法がわからないのは不安ではあるが、それでも問題の答えはわかっているのだ。挑戦しない手は無い。



 だが、ここまでの話をずっと黙って聞いていたメイズは、ゆっくりと頭を振った。


「…………いや、一旦引こう。確かにモネーの話は確かなんだろうし、答えも間違ってないのかもしれない。だが俺は、この場は手を出さずに、ギルドに報告するに留めておくべきだと思うぜ」


 少し盛り上がりかかった同行者達に水を指すように、あくまで冷静な声でそう告げるのだった。

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