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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第四章  三匹の黙ってれば美少女 暗い闇の中に潜る  の話
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10  『それは 蛋白質を主成分とした健康食品の総称』

 魔物には、魔石を持つものと持たないものがいる。それは魔物を知る者全てにとっての共通認識であるが、冒険者達の常識だと少しだけ変わってくる。

 彼らは知っている。どの魔物が魔石を持っているかはわからないが、遺跡の中に出る魔物は、例外なく魔石を有しているという事を。



「さて、じゃあ早速解体といくか。きついところスマンが、メイズも手伝ってくれ。アカザは少し休んでもらって構わんぞ。さっきの戦闘、お前さんの負担も大きかったろうからな」


 ゴースがそう言うと、各々が小ぶりのナイフを取り出して、しとめた四体の腑分けを始めた。

 一番重要なのは概ね心臓の近くに存在する魔石だが、それ以外の部位も状態によっては換金対象となる。今回の獲物であるリザードの場合、硬い背中の皮や四肢の爪などにも値がつくようだった。ゴースらは両腕が血まみれになるのも厭わず、魔物を部位毎にばらばらにしていく。


「ダメだ……。やっぱこれだけは慣れないッス……」


 仲間達に混ざり、嬉々として魔物の体に刃を入れていたギョクの隣で、カガミは小さな声で呟いていた。

 生きた魔物を叩き潰す分には、どれだけ血肉が飛んでも気にしないというのに、いざ死体に手を入れるとなると強い抵抗を感じてしまうのだ。おかげでコイツは、未だに魚の一匹も満足に捌けないでいる。


 口元に手を当てて青ざめている後輩の姿を見させられては、いかなギョクといえど無理強いすることは出来ない。


「相変わらずしょうがねぇな、お前は。……こっちはやっとくから、部屋の探索でもやっといてくれよ」


 苦笑いと共にそう言うと、カガミを、自分が請け負った獲物の前から遠ざけるのだった。



 冒険者達がナイフを突き立てる度に、先ほどまでは生き物であった存在が、資材と肉の塊とに分けられていく。


 滴り落ちた血が部屋の隅に真っ赤な池を作っているが、それを残酷だと感じる感覚は、カガミの中にすらもはや存在していない。この一年余りの生活の中で、それまでの常識とはまるで違う世界に生きているのだということを、三人の元中年男たちは十二分に理解していた。


 持ち合わせた価値観自体は変わらない。けれども三人は、それを見目麗しい肉体の底に沈める術を身につけていた。三人の渡来人たちは、元の世界で過ごした三十年余の人生までもを、美しい少女の体で包んでいるのだ。


 だからこそ、ギョクもツルギも……そしてちょっと離れた場所で、


「グロはねぇ……趣味じゃ無いんッスよ……」


 と唸っているカガミすらも。それまでと全く変わらない三人のままで、過酷な異世界に順応しているのである。

 それはきっと、コイツ等が一人でも二人きりでも無く、三人であったという事実が大きく影響しているのだろう。三本の矢を束ねたところで力を込めれば折れてしまうが、それでも上手くバランスをとって寄りかかれば、キッチリ互いを支え合う事が出来るのだから。



 そしてしばらく後、全ての解体が無事に終了した。


§§§§§


§§§


§



「ん……? これって……」


 皆が戦利品の魔石を改めている頃、一人この広場の探索を行っていたカガミが、何かに気が付いたようにそう呟いた。そして仲間たちの元へ近づくと、ギョクの耳元に小声で話しかける。


「……先輩。ちょっとこの部屋、探ってみてくださいよ。もしかすると、もしかするかもしれないッスよ」


「んあ? なんだよいきなり……」


 そう言いつつも、体内の魔力をゆっくりと滲み出させ、部屋の探索を行い始めるギョクであった。


 ちなみにこの技術であるが、一般の冒険者はおろか、魔力の専門家とも言える魔術師の中ですら確立していない方法である。ギョクたちは気が付いていない事実だが、この世界の人々にとっての魔力とは『何かを行う為のエネルギー』であって、『魔力そのもので何かを行う』という発想は存在していない。



 始めて身につけた魔力というモノを、果たしてどう有効利用すれば良いのか試行錯誤していた三人は、魔力を細く伸ばせば軽い振動くらいならば伝えられることがわかった。

 そこから例の糸電話じみた利用法を思いつき、更にそれを、壁越しにも行えないかと試してみた。


 その結果、魔力を薄く延ばしていくと、空気中と物質の中とでは、伸ばした時の抵抗が違うことに気が付いた。更には自分以外の生き物には、どうやっても魔力を浸透させられないこともわかった。

 この性質を利用したものが、三人が頻繁に使用している『魔力による周辺探索』である。


 目に見えない範囲すら探索できるという利便性を重要視した三人が、非常に地道な訓練を行った今、もっとも魔力の操作が下手くそなツルギですら、周囲十メートル程度の存在ならば目をつぶっていても認識出来るようになった。ギョクやカガミなら、その数倍の範囲を手中に収めることが出来る。



 そしてギョクは、薄く引き伸ばした自分の魔力をゆっくりと伸ばし、この大広間の隅々までを掌握する。すると、幾つかの面白い事実が判明した。


「ほぉ……壁と天井に開けられた穴が地上にまで延びていて、換気を行う仕組みになってんのか。外の入り口では意図的に温度差が発生させられるようになってて、自然に吸気が行われる設計にしてある。……これ作ったヤツ、かなり頭良いな」


「そこらが血の海だってのに嫌な臭いが篭ってないッスもんね。……って。じゃなくって、もっと下ですよ。ここの地面の下、空洞ありませんか?」


「なにッ!? ……おぉ、マジだ。確かにデカイ空洞が広がってるな。しかもこの感じじゃ、自然に出来た鍾乳洞なんかじゃねぇ。明らかにここと同じ整えられた空間だ」


「オレもここの地図憶えてないんで、はっきりとは言えないッスけど。確かこの部屋が最奥って感じだったッスよね? ……どうしましょ?」


「どうするも何も、答えは決まってんだろ。みんなに教えて一緒に確かめる。俺たちにとって重要な発見があるかも知れねぇ以上、見なかった事にはできん」


「一緒に、ッスか? なんか発見した時、面倒なことになりません?」


「とはいえ、一旦やり過ごして後で戻ってくるってのも、それはそれでダメだろ。ここに潜るにゃギルドの許可がいるし、何か発見したら報告の義務がある。今回はわからなかったけど、後から改めて発見しましたなんて報告したら、それこそ胡散臭すぎるぜ」


「しょうがないッスね。あ~あ、新エリア発見の追加ボーナスって、確か全員で頭割りッスよねぇ。勿体無いなぁ」


「小銭惜しんでいらん恨み買う方が、よっぽど損だろうが」


 そして二人は軽く笑い合うと、改めて冒険者仲間へと向き直るのだった。




「ここの地下に? ギョクお前、本気で言ってるのか?」


 ギョクの発見を聞いたメイズは、実に胡散臭そうな目で見返してきた。とはいえ、この小男が疑う気持ちもわからなくもないのだ。

 ここ『ムーテン』は、確かに発見から十年そこらの歴史浅い遺跡ではあるが、王都近郊という条件もあり、数十日に一度くらいのスパンで冒険者が訪れる場所。発見から今に至るまで、目ざとい事に定評のある冒険者が何十人とこの場所に足を踏み入れているのだ。

 今さら未探索エリアが見つかったなどと言われても、にわかに信じられるはずが無い。



 ……だが。なおも強く頷く魔法少女の姿に、


「一応調べてやるが……。絶対勘違いだと思うぜ?」


 メイズは舌打ちをしつつも、コツコツと地面を蹴り始める。なんだかんだ言って、この口の悪い魔法少女の言葉を無碍に出来なくなっているのであった。

 ところが、そんな微妙なデレっぷりを見せはじめたベテラン冒険者を、ギョクは慌てて押しとめる。


「っと、待て待て。反響音で探せるような深さじゃねぇんだ。そもそもここの壁は、そういう振動に強いつくりになってるからな。……ツルギ、あの辺りだ。いっちょドカンとやってみてくれ」


 と、部屋の隅を指差した。



 ギョクが指し示した場所に膝を突いたツルギは、慎重な手つきで床を撫でる。そして、一つ納得したように頷くと、見守る全員に手を振って距離を取らせた。

 そして――


「ずぇあッッ!!」


 気合一閃。地面に向かって拳を振り降ろした。

 先の戦闘中、リザードが壁を壊した時以上の轟音があたりに響く。ビリビリと肌にぶつかる衝撃と共に、立っている地面からも振動が伝わってくる。気を抜いて見守っていたモネーに至っては、思わずしりもちをついてしまう程の衝撃だ。


 そして、飛んできた砂埃に目を閉じていた一同が目にしたものは、どんなもんだといわんばかりに両腕を組む騎士乙女のドヤ顔と、その足元にぽっかりと空いた大穴であった。


 その超常現象じみた光景に、常識の範疇に生きるゴースは、傍らのカガミに思わず洩らす。


「なぁ……一体ナニ喰って生きてたら、あんな風になれるんだよ……」


「さぁ? ……プロテインとかでしょうか?」


「なんだ、それ。神の遺品とかか?」


「全然違いますけれど、そんな感じです」

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