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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第四章  三匹の黙ってれば美少女 暗い闇の中に潜る  の話
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09  『それは やっぱり埒外な三人』

 続く二匹目。仰向けになって絶命した一匹目を乗り越えてやってきた魔物は、実にアッサリと撃退された。

 死体の上という不安定な足場で、満足に身動きを取れなかった二匹目のリザードは、下から突き上げられた冒険者達の刃の前になすすべも無く命を散らしたのであった。



 順調に進んでいる魔物討伐であるが、ここでひとつ問題が生じる。入り口を塞ぐ形で二つの巨体が死に様を晒しているため、三匹目以降の移動まで阻害してしまっていたのだ。

 とはいえ、これも最初から想定していた通りの状況。ゴースはメイズとツルギに目配せをし、邪魔な死体を広場の向こう側へ押し込むことを提案した。


「完全に押し込んでしまう必要は無い。ヤツラが頭を差し込んでこれるくらいの隙間さえあれば充分だ」


「ボ、ボクは参加しなくて良いんですか?」


「アカザはそのまま待機しておいてくれ。恐らく、中のリザードどもは怒り狂っているだろうからな、隙間が出来れば突進してくるだろう。俺達が体制を整えるまで、少しで良いから時間を稼いでくれ」


 そう言って男達は、物言わぬ肉の塊となった巨大トカゲを押し始めた。……訂正。男二人と、中身だけオッサンの三人が、である。



 ズリズリと音を立て、リザードの体が動いていく。

 頭の部分まで押しやり、最後の一押しと力を込めたその時――重いリザードの口先を押していたゴースの手から、突如として感覚が無くなった。


「なにッ?」


 目の前のリザードが姿を消し、思わずたたらを踏む巨体の冒険者。驚きと共に見開いた目線の先では、既に息絶えた仲間の尻尾を咥えるリザードの姿があった。


「マズイッ! 備えろッ!!」


 姫騎士の物と思われる警告がゴースの耳に届く。

 広場の内側へと引きずり込まれた死体は、尻尾を咥えられたまま勢い良く振り回されている。そしてそのまま、よろけて地面に手を突く冒険者達に向かって叩きつけられた。

 横薙ぎに振り回された死体では、当然ながら入り口の壁に阻まれ、こちら側にいるゴース達に当たりはしない。だが轟音と共に訪れた衝撃によって、バランスを崩していた冒険者たちは、更に体勢を崩されることとなる。


 無様な姿を晒してしまった彼らの目の前で、更に状況は悪化していく。恐るべき魔物の膂力で叩きつけられた大質量が、強固な石魔法で作られた入り口の壁を破壊したのである。

 かつてはリザード達の行く手を阻み、自分達を守る盾となっていたはずの隔壁は、周囲に石片を撒き散らしながら崩れおちていた。


「来るぞッ! みんな、早く立てッ!」


 いち早く持ち直したツルギが周囲の仲間達に視線を送る。今もってきちんと立てているのは、自分の他に、後方で控えていたアカザのみ。メイズもゴースも、衝撃と轟音で未だ頭を振っている。

 特に壁に近い場所に立っていたメイズに至っては、飛んできた破片でやられたのか、体のあちこちから血を流していた。



 そんな、四人中二人が前後不覚に近い状況の最中、ぽっかりと穴を開けた入り口からは、二匹のリザードが同時に押し寄せようとしていた。


「クソッ。アカザッ! 少しで良い、一匹だけでも足止めをしろ。こっちはすぐに片付ける、それまで二人を守れッ!」


 ツルギは、ただ一人しっかりと構えている青年冒険者に向かって檄を飛ばし、片方のリザードへと立ち向かう。自分に向かって凶悪なアゴを向ける魔物を、軽く右足を引いた姿勢で待ち構えた。


 巨大な野生生物にしか見えない魔物達に、仲間との協力という概念が存在するのかはわからない。だが、少なくとも狩りの分散はするようだった。迫り来るリザードのうち一匹は、未だ地に膝をついたままのゴースたち二人を狙っている。そしてそんな二人の前に、件の青年冒険者が立ち塞がった。


 ――――だが。


「う、うわぁあっ」


 大口を開けて突進してくるリザードの前に、アカザの構えた大盾はあっけなく宙へと弾き飛ばされる。そしてそのまま、アカザ自身も通路の端へと倒れこんでしまった。



 額から流れる血が、メイズの視界をぼんやりと滲ませる。不思議とゆっくりになった世界の中で、美しい騎士少女が何事かを叫んでいた。


(ちくしょう……ここまで、か……)


 襲い掛かってくる魔物と自分の間に、大男の姿は見えない。長くつるんできた相棒は、きっと自分の後ろ側にいるのだろう。であれば自分が襲われている間に、ゴースならばこのクソッタレな魔物の息の根を止めてくれるはずだ。

 ……もっともその時、自分がまだ息をしているかどうかはわからないけれど。


 リザードが迫る。巨大な口が開き、秩序正しく並んだ無数の牙が姿を見せた。意外なほど整った歯並びがなんだかやけにおかしかった。

 そして、メイズはゆっくりと瞼を閉じ……自分に向かってくる死を享受した。




「――諦めてんじゃねぇよ」


 だが、聞き覚えのある少女の声に、メイズの瞳がもう一度光を受け入れる。そして今度は、余りの驚愕に見開かれることとなった。

 メイズの目の前では、大口を開けて迫っていたリザードが、分厚い板の様な何かでせき止められていたのだッ!


「お、お前……」


「テメェみたいなキャラは、最後まで生き汚く足掻いてナンボだろうが。殊勝に目なんか閉じてんじゃねぇ」


 そう言い捨てたギョクは、リザードの口にガッチリ咥えられた金属盾を支えている。空中に飛ばされたアカザの盾をキャッチし、そのままリザードの口を塞ぐつっかえ棒代わりに利用したのである。


「そういや、もう一つ気にくわねぇ事があったな。なんだっけ……『炎の魔術は、コイツ等には効かない』だっけか?」


 そして、もう片方の手に握った魔道具を、ぬらぬらと唾液で輝くリザードの口内へと突っ込み――刹那の溜めすら行わずに引き金を引く。眩い光がメイズの視界を焼いた。


 しばらくすると、どこか香ばしくもある匂いが鼻先をくすぐってくる。魔法少女の放った火炎は魔物の体液を沸騰させ、その命までもをグズグズに燃やし尽くしたのだった。

 実に上手に、全身くまなく焼き上げられていた。


 プスプスと煙を上げるリザード。メイズが死まで覚悟した凶悪な魔物の死骸の前で、魔術の余波で熱を持った金属盾をガランと蹴飛ばし……恐るべき魔法少女は、あくまでも不敵に笑うのだった。


「ホレ見ろ。ちゃんと効いてんじゃねぇか」



§


§§§


§§§§§



 戦闘は終わった。

 状況の悪化に気付いたギョクが救援に駆けつけ、魔術の接射という明らかに用法を間違った手段でリザードをしとめた時、もう一匹の魔物も、ツルギの手によって絶命せしめられていた。ちなみにこっちも、強固なはずの鱗越しに体内を叩き潰されるという、軽く意味のわからない倒し方をされていたりする。


 全ての魔物が倒され、周囲の安全を確認した一行は、何はともあれ怪我人への治療を行うことにした。全身を強く打ったゴースはもとより、頭から血まで流しているメイズを、そのままにしておくわけにはいかないのである。



「――のかみたちともに、きこしめせと。かしこみかしこみもうす……」


 静かになった地下遺跡の中に、柔らかくもハッキリと少女の声が響く。淡い光を浮かばせたカガミの手のひらが過ぎると、メイズとゴースが負った無数の怪我は、傷痕すら残らず消え去っていく。



「凄い……本当に神聖術だ。私、はじめて見たよ……」


「あんまし使えるヤツは居ないって話だもんな。とはいえそんなに褒めるなよ? コイツ、す~ぐ調子に乗って自慢しだすからな」


「ウソばっか。お淑やかなカガミさんが、偉そうにしたりするわけ無いじゃない」


 思いっきり騙されているモネーの言葉に、ギョクとツルギはなんとも言えない苦笑いを浮かべていた。この場合、純真なモネーを気遣うべきか、カガミの擬態っぷりを褒めるべきなのか判断に迷う。



 そうこうしているうちに怪我の治療は終わり、一行は改めて自分達の状況を確認し始めた。目に見える怪我は癒したが、それだけで充分というワケではない。戦闘の影響とは多岐に渡るモノなのだ。


「装備がダメになったヤツは居ないか? 特にアカザ。お前もしたたか打ち付けられていたはずだ、鎧や盾は大丈夫か?」


「え、えと……大丈夫です。盾の表面がちょっと焦げてるけど、使えなくなったわけじゃないし……」


 復活したゴースが問いかけると、アカザは金属盾の表面をなぞりながらそう答えた。

 恐らくだが、三人の元中年を除けば、最も金がかかった装備を身につけているのはこの青年。例え依頼を完遂させたとしても、金属盾を買いなおすハメにでもなれば、報酬の半分くらいは吹っ飛んでいくハズだ。ゴースが他の連中より気を使うのも無理は無い。



「私も問題なし。最初に使った矢は踏み潰されちゃったみたいで使えないけど、鏃は回収したからね」


「当然、私も問題ありません。前線に出ていないので当然ですけれど」


「俺も大丈夫だな。魔力の残りもまだまだ余裕だ」


 順番に視線を送るゴースの問いかけに、各々が自分の状況を答えていく。

 そして全員が、すぐにも戦闘を始めても問題ないだけの猶予を残していることを確認し、ようやくゴースは肩の力を抜くことができたのだった。

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