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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第四章  三匹の黙ってれば美少女 暗い闇の中に潜る  の話
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07  『それは 必要な無駄と無用な必須』

 そしてまたしばらく進み、長い廊下の先にある角に差し掛かったその時、先頭を歩いていたメイズがぴたりと歩みを止めた。

 思わず、どうかしたのかと訊ねそうになったアカザの口を塞ぎ振り返った小男は、口元に指を一本立てていた。

 そのまま身振りで一行を後退させると、メイズはかろうじて全員が聞き取れるほどの小さな声で話し始める。


「この先だ。地図によれば、あそこを曲がった先は少し道幅が広くなっていて、そこからかなり広めの場所に繋がってるらしい。魔物の出没情報は、大体そこなんだが……。どうやら今も、バッチリ湧いてやがるようだぜ」


「了解だ。みんな、戦闘の準備を。メイズ、詳しく調べてこられるか?」


「任せろ」


 ゴースの言葉に小さく返事を返すと、メイズは物音一つ立てずに先へと進む。そしてなにやら懐から取り出し、曲がり角の先を窺っているようだった。



 ブーツの紐を締めなおしているゴースに、これといって戦闘準備の必要ないカガミが近寄る。


「あれは……鏡、でしょうか?」


「ん? お前さんがどうした……って、鏡か。いやいや違うぞ、俺達みたいな貧乏人が、鏡なんて高級品を持ち合わせているわけが無いだろう? あれは、ギルドが魔石の買取をしてるときにも使っている反応石だ。遺跡に出る魔物は、必ず魔石を持っているからな。ああやって反応石を出して、相手の数と動きを探ってるのだよ」


「なるほど! そんな使い道もありましたのね。……でも、あれって普通に手に入る物なのですか?」


「ギルドに売ってくれと言っても無理だろうな。反応石自体、特殊な鉱石からでないと作れないようだし。メイズが持っているのは、ギルドが破棄しようとしていた使い古しを、無理やり頼み込んで譲ってもらった物なのだよ。それでも、上手く使えば充分に役立つからな」


「私の知ってる人も持ってたわよ。でもアレって、周りに複数の魔物が居たらどれがどれだかわからなくなったり、そもそも正確な距離までは測れないらしいから、そこまで便利じゃないって聞いてたんだけど……」


 愛用の弓に弦を張り、軽く弾いては張りの強さを確かめていたモネーが会話に加わってくる。常に弦を張り続けていてはすぐに劣化してしまうという性質上、彼女の様な弓戦士には、どうしても戦闘前のひと手間が必要不可欠なのである。


「そこはそれ、アイツの研究の成果というヤツだ。ああ見えて結構凝り性でな、改良に改良を重ねて、実用に耐えるほどに探知精度を上げているらしいのだ」


「へぇ! それは凄いじゃない。私も探索を担当することは多いし、そんな便利なものがあるんなら、ちょっと気になるわ」


「た、確かにそれがあったら、もっと安全に依頼をこなせるようになるよね。モネーちゃん。メイズさんに、どんなやり方か教えてもらえるよう頼んでみたら?」


 と、金属鎧の留め具を確認し終わったアカザが話に加わってきた。全身鎧を着込んだ甲冑騎士ほどではないにしろ、随所を守る金属製の部分鎧を着込んだこの青年冒険者は、手にした腰ほどまである金属盾のせいもあり、一行の中で最も防御力の高いいでたちである。



「アカザ君がそう言うなら、教えてもらいたいところだけど……。やっぱり簡単には教えてくれないんじゃないかなぁ」


「さて、どうだろうな。あの装置の事は、俺も詳しくは知らないのだ。メイズは真剣に教えを乞われて渋るほど狭量な男ではないが、アイツにとっては切り札の一つかも知れんからな」


「そかそか……。じゃさ、カガミちゃん。私の代わりに、ちょっと聞いてみてくれない? 貴女が上目遣いで(しな)でも作りながら『教えて欲しいの……』とかって言ったら、コロっと教えてくれるかもしれないわよ?」


「おいおい勘弁してくれ。その話を聞いてしまった以上、もしメイズがカガミに秘密を教えたのだとしたら、果たして親切心から教えたのかどうかを疑わねばならなくなるじゃないか」


 冗談交じりにカガミに話を振ったモネーに、思わずといった体のゴースが口を挟む。夜道で子どもが見れば泣き出されるほど(いかめ)しいその顔を、情けなく崩しながらの発言であった。そんな強面の様子に、みんな思わず笑顔が溢れる。


 誰もが体を固くしてしまう戦闘直前のこの場面。あえて自分から笑いを取りにいくことで、仲間達の緊張をほぐしているのであろう。

 笑うという行為は、時として、気合の掛け声を上げるよりも戦意を高めることがある。それを体験で知っているからこそ、ゴースはこんな会話運びをしてみせたのである。ベテランの強さとは、まさにこういうところで発揮される。


 そんな風に軽口をたたきあう冒険者達の後ろでは、ツルギが手にした鋼手甲を打ちつけながら一行を見守っている。ゴースが垣間見せた熟練冒険者としての貫禄を言外に感じ取り、コイツなりに気合を入れなおしているのであった。




 程なく。全員が身支度を終えた頃に、メイズが真剣な面持ちで戻ってくる。どうやら、先ほどの反応石を使った探知だけではなく、目視での確認も済ませてきたようであった。

 メイズは積もったホコリに指で線を引き、地面の上にこの先の戦場を描き始める。


「いいか? さっきも言ったとおり、あの角を曲がった先は今の倍くらいに道幅が広がっている。で、ちょっと進むと少しだけ幅が狭くなり、その先にあるのが魔物がたむろっている広間だ」


「妙な造りだな。なんでまた、そんな形にしたんだろうな」


 首を傾げるギョクに、ツルギが口を出す。


「聞くに、その広間は結構な広さがあるのだろう? であれば、恐らくそこは訓練場。道幅が広くなっているのは、訓練で使う機材を置く為のスペースだと思う。幅が狭い部分は、中で起こった湿気などが漏れぬよう、入り口に扉をつけていた為だろうよ」


「なるほどね。……お前が言うと、微妙に説得力あるな」


「石造りで、しかも地下ともなれば、夏場の熱気はヤバい事になっただろうからなぁ。そんな湿気に武具の類を晒しておけば、すぐさまカビの温床だ。隔離する仕掛けくらいはあって当然であろう。放っておくと、体育館倉庫どころでは無い惨状になってしまうぞ?」


「夏場の剣道部的な?」


「柔道部の夏合宿的な」


 十数年前の記憶が蘇り、乾いた笑いを浮かべあう魔法少女と姫騎士モドキであった。そんな二人のやり取りに、


「何を意味のわからんことを言ってやがる。第一、あそこが何に使われていたかなんてどうでも良いだろうが」


 当然のツッコミを入れるメイズである。

 一瞬呆れた顔を浮かべた小男だが、すぐに目元に力を入れなおして話を続けていく。


「地形に関しちゃ言ったとおりだ。で、肝心の魔物だが……ざっと確認した限りじゃ『リザード』が四体。それぞれがかなりデカイ。部屋の入り口をぎりぎり通れるってくらいだろうな」


「リザードか……。あれは本来、水辺の魔物のはずなんだがな。相変わらず迷宮に出る魔物というヤツは、意味がわからんな」


 ため息混じりに洩らすゴース。そこにギョクが、少しだけ興奮気味に口を挟む。


「リザードってのは……もしかして四足で這うように歩く、口が長い魔物のことか? その、たまに家の周りをうろちょろしてる、ゲコッタのデカイ版みたいな……」


 ギョクは、自分達の知識ではヤモリに似た小動物を引き合いにして訊ねた。ゴースが頷いて肯定すると、パッと同郷の二人に向き直っては、実に嬉しそうな顔を浮かべている。


 そして、


(やっぱいたな、リザード。二足歩行しないタイプってのは、ちと残念だが)


(そっちだとしたら、ヘタすりゃ火炎放射とか使ってくるじゃないッスか!)


(オレ様はカメを選んだからなぁ。そいつだと最初のジムで難儀するだろう?)


 などと、コイツ等にしかわかるはずのないやり取りを交わしていた。ちなみにこれらはアイコンタクトのみで交わされた会話なので、他の冒険者達には聞かれることはなかった。聞かれたところで意味不明だろうけれど。




 とはいえ、いつまでもそんな風に遊んでいるわけにもいかない。ギョクは一つ咳払いをすると、ジトっとした目線で自分を睨むメイズに向かって口を開いた。


「ま、まぁあれだ。相手までわかってんなら話は早いな、さっさとやっちまおうぜ。魔物がいる広間ってのも、ここと同じで頑丈な石造りなんだろ? 俺がいっちょ、デカイ火球でもぶち込むか?」


「何を言ってやがる。こんな密閉された地下で火球なんて使ったら、ヘタすりゃこっちまで熱気でやられちまうだろうが! そもそもリザードに火の類じゃ効き目が薄い。ったく、これだから素人は……」


「ギョクちゃん……。さすがのお姉さんも、今のはちょっとかばってあげらんないかなぁ」


 吐き捨てるように言うメイズばかりか、モネーまでもが呆れ顔であった。


 既に一年以上冒険者をやっている身の上で、それでも素人呼ばわりされてしまうギョク。だが、そんな仲間の情けない姿を、ツルギもカガミも擁護することは出来なかった。何故ならコイツ等も、似たような作戦を考えてしまっていたのである。


 そもそも三人で冒険に出た場合、大抵の魔物は身体能力にモノをいわせた力技で虐殺するのがコイツ等のスタイルなのだ。今のようにキッチリと偵察を行い、作戦を立ててから事に当たるというほうが珍しい。もしここでツルギ辺りが作戦を尋ねられたとしても『最初は強く当たって、後は流れで』などと答えるのが関の山であろう。


 もっともコイツ等にとっては、その辺の魔物を討伐する程度で、いちいち作戦を立てる必要がないというのが正直なところだ。

 頭を使うところと、使わないところ。三人の元中年美少女冒険者たちは、その差が恐ろしく顕著なのであった。

お読み頂きありがとうございました。


時に、ただいま本作の感想欄にて『ネタバレ警報』が発令しております。

そういうのが気になっちゃうお方は、

数日見るのをお控えいただければと存じます。

まぁ私個人としては、色んな方々と一緒に

ああでもないこうでもないと予想しながら物語を楽しむのは嫌いではありません。

ですので、多少の展開予想は気にならないのですけれど、

やはり嫌だと仰る方もいらっしゃいますので、その辺りご配慮いただけると嬉しいです。


ちなみに、その手のネタバレちっくなお話に、

作者がコメントを差し上げることは出来かねます。

ですので、ネタバレなご感想に関しては

今の本編とは、全く関係ない話をお返しさせて頂いております。




お気に召しましたら、ブックマーク等いただけると嬉しいです。

皆様の一票に、この作品は支えられております。


もし宜しければ、「さぁ早く、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するんだ!」

だけでもけっこうですので、

ご意見、ご感想などもいただけると嬉しいです。

基本的にはその日の内に、

遅くとも数日中には、必ずお返事させて頂きます。




↓↓宜しければこちらもどうぞ↓↓

 ※※短編※※

トイレでアレする花子さん

http://ncode.syosetu.com/n5439dn/


 ※※完結済み※※

つじつま! ~いやいや、チートとか勘弁してくださいね~  (旧題【つじつまあわせはいつかのために】)

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