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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第三章  イロイロあった少女 新しい生活を始める  の話
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14  『それは 少女が見つけた別の道』

 幸い、件の少年を見つけるのに、そう時間はとらなかった。

 歓楽街を出て大通りに向かう道の途中で、幾人かの少年達と話し込んでいるルナルドの姿を見つけられたのである。


「あのッ! ちょっと良いですかッ」


 息急(いきせ)き走ってきたスズは、そんな少年の背中に向かって勢い良く声をかけた。


「お前……さっきの……」


「ゴメンなさい。私、どうしても。もう少しだけ貴方と話がしたくって……」


 呼吸を整えもせず詰め寄ってくるスズの姿に、ルナルドは思わず目を白黒してしまう。大人達に混ざって商談を行うことすらある少年だが、それでも今のスズに対しては上手い言葉が出てこない。


「ちょ、ボス! この娘って、こないだ話してた新顔の娘だよね?」


「あっ、そういやそうだ。オレ、こないだ見張りやってたから見覚えあるや。なんかあったの?」


 そんなルナルドが口を開く前に、周囲にいた少年達の方が騒ぎ始めた。自分達のシマを荒らそうとしているのではと疑っていた娘と、そんな少女にただならぬ様子で詰め寄られている自分達のボス。少年達のいろんな想像を掻き立てる情景である。



「まさか……ボス、この娘になんかしたんじゃないだろうね? ダメだよ、オレ達『猫の手団』は、乱暴ごとには関わらないって(おきて)じゃん」


「いやいや、流石もボスもそんなことはしないでしょ。どっちかって言うと、説得ついでに口説いちゃったとか?」


「ダメッスよボス! 女なんて、最初は気のある態度を返してくるくせに、結局最後はやっぱりお金持ちじゃないとね……とか言って逃げてくヤツラばっかりなんだから!」


 少年たちは、スズとロナルドの間にとんでもないストーリーを想像しては、口々にはやし立てている。しっかし最後のヤツは、過去に何かあったのか?



 総数十名を超える少年達の組織である猫の手団。そのリーダーとして手腕を振るっているルナルドは、確かに貧民街の住人である。だが、生き馬の目を抜く貧困街においても一目置かれるだけの器量を認められており、同年代の少年達の中で顔と言ってしかるべき少年であった。

 見た目だって悪くは無い。今はまだあどけなさが残る子どもの面影であるが、もう四、五年もたてば、いっぱしの若者として黄色い声を上げられるのは確実であろう。


 そんな自慢のボスであるルナルドの正面に立っている娘。これまでは仕事の障害としてしか見てこなかった少女の姿を改めて見た少年たちは、等しく同じような感情を憶えていた。


(この娘……結構、可愛くないか?)


 例え見張るようなマネをしていたとは言え、スズ本人には気が付かれないようこっそりと様子をうかがっていたのである。こんな風にまじまじとその姿を目にすれば、また違った感想が生まれるのも当然である。



 そもそも、スズの顔立ちは決して悪くは無いのだ。むしろ、十人に聞けば六人くらいは『普通』と評価し、残り四人は確実に可愛いと言う程度には整っている。ちょっと前までの泥にまみれた生活から脱却し、食生活も改善されたスズは、ほっそりしても全体的には丸みを帯びた、実に少女らしい可愛らしさを備えた女の子になっている。


 しかも、例の三人の元中年によるダダ甘な甘やかしを一身に受けているのである。

 日頃カガミの手によってくしけずられている栗色の髪はさらさらと流れる美しさを宿しているし、ツルギのトレーニングに付き合い続けている肢体は、きびきびした印象を与える所作に繋がっている。

 また、ギョクとさほど変わらぬ体格であるが故に、あの魔法少女が身につけている女の子らしい服飾の数々でその身を着飾っているのである。もちろんゴスロリまっしぐらなギョクほど突き抜けた服装ではないが、それでもスカートの腰に巻いた帯留めやレースをあしらったケープなどの小物たちは、そこらの街娘では太刀打ちできない華やかさを演出していた。


 つまるところ現在のスズは、行動を共にしているのがアレ達でさえなければ、充分に評判の街娘として衆目を集めるであろう女の子なのだ。百人いれば五十人が美少女と評価し、残り五十人は頭に「絶世の」をつける見た目をしているあの三人と一緒にいるというのが、スズがイマイチ地味な印象をもたれてしまっている原因に他ならなかった。



 そんな普通に可愛い女の子に詰め寄られているルナルドである、思わず赤面してしまうのも無理もない話しだ。こうしてみると、先ほどカガミに手を握られた時には平静を保っていたのも、普段から年上の女性に接する機会が多いこの少年にとって、カガミのような大人の色気をかもし出す存在では、逆にそういう感情を向ける対象になりえなかったが故のことなのだと推察される。

 その点、スズはルナルドとほぼ同年代。異性を意識してしまうのに、この上ない人材であるといえよう。ちなみにギョクに対してどんな反応を返していたのかは考えてはいけない。色々と、辛くなる。


「あのねッ、私、もう少し貴方の話が聞きたいの。ううん、違うわ。私の話を聞いて欲しいの」


「わかった。わかったからちょっと待ってくれ。……お前等、さっさと持ち場に戻りやがれッ。明日の為の下調べはまだ終わってないんだからな!」


 じりじりと距離を縮めてくるスズを片手で制し、ルナルドは慌てて周囲の仲間達に向きかえる。そして、周りに居た数人の仲間達に対して、追い払うように手を振るのだった。

 そしてそんな、常には見られないルナルドの焦った様子を、ニヤニヤと見守っていた少年達も、


「おやおや、二人っきりが良いわけかぁ」


「まぁまぁ、ボスも意外と純なトコあるんだしさ、二人にしといてやろうぜ」


「だな。……もちろん、後でじっくり聞かせてもらうけどね」


 そんなやり取りを残し、三々五々に散ってゆくのであった。



§§§§§


§§§


§



 しばし後、スズとルナルドは、大通りのわき道の壁に背を預けて、二人並んで立っていた。両手を頭の後ろで組んだ少年は、訥々と語られるスズの話を、神妙な顔つきで聞いていた。


「つまりお前は、こないだまで俺達と変わらない暮らしをしてたってワケか……」


「うん。詳しくは話せないけど、あの時運よく三人に出会えてなかったら、きっと今頃は死んじゃってたんじゃないかって思う」


「まぁそこまでは良いや。それで、どうしてオレ達の仕事を詳しく教えて欲しいなんて言い出したんだよ。今はあの三人と一緒にいて、喰うに困ってるってワケじゃないんだろ?」


「それはその通りだよ。……でも、だからこそ私は、出来るだけ早く自分ひとりでも生きていけるようになりたいの」


「そこがわからないんだよなぁ。あの人達には良くしてもらってるんだろ? さっさと離れたいのか?」


 訝しげに眉を顰めるルナルドに、スズは大きく首を横に振った。


「違うよ。ずっと一緒にいたいから、一人でも大丈夫になりたいの。……今の私は、みんなにお世話になってばっかり。貰ってばっかりで、何も返せていないの。でもそれは、私が一人で生きていけないってみんなが思ってるから。だから、優しいみんなは一緒にいてくれるんだと思う」


「なるほどな。……たしかにあの人達、なんというか、色々と甘そうな感じだったな」


「大事にしてもらってる事もわかるんだ。元々みんなには、私のお世話をする必要なんて何にもないんだもん。それなのに私は、ちょっとしたお手伝いくらいしか出来ないの」


「つまりお前は、恩返しがしたいってことなのか?」


「それももちろんあるよ? でも一番は、私が一人でも大丈夫ってみんなに認めて貰うことなの。一人でも生きていける女の子になって、それでもみんなと一緒にいることを許してもらいたい。それが、今の私の夢なの」


 スズはそう言って、その小さな手のひらをグッと握り締めた。その瞳は、あの日、自分が何者であるかを自分で決めたいといった時と同じように、強い炎を宿した美しい輝きを放っていた。


「みんなが優しいから……見捨てておけないから一緒にいさせてもらうんじゃなくって。私っていう人間と一緒にいることを、みんなに選んで欲しいって思ってるの。みんなが一緒にいたい相手として、私を選んで欲しいの!」




「――私のお母さんは、私を育てるのに無理をして働いて、病気になっちゃったんだ。私はお母さんと、もっとずっと一緒にいたかったけど、お母さんは私を残して死んじゃったの。あの時の私が、もっと強かったら、お母さんは死なずに済んだかもしれない。もっとずっと、一緒にいられたのかもしれない」


 苦しい思い出を搾り出すスズの声は、少しだけ震えているようにも聞こえた。ルナルドはあえて、そんなスズの方を見ないようにと顔を背けて相槌を打っていた。


「一緒にいたい人がいるなら。ずっと一緒にいたいなら、強くならなくちゃならないんだ。色んなことを出来るようになって、一人でも簡単には死んじゃわないようになることが、だれかとずっと一緒にいるためには必要なの。だから私は、この街で一人で生きる為の知恵と力を、できるだけ早く身に付けたいって思う」


「……そのために、オレ達がやってる商売を教えて欲しいってことか。自分ひとりでも稼いで食わせられるようになるために」


「貴方達と同じことをやりたいっていうワケじゃないんだ。でも、もう少し詳しくお話を聞ければ、私でもこの街で何かを始められるようになるかもしれない。その為のきっかけとして、貴方達のお仕事を、もっと詳しく知りたいって思ったの」


 スズは、決してこの少年と同じ仕事をしたいとは考えていなかった。それは少年達『猫の手団』の商売敵になるということで、彼らの邪魔をすることに繋がるからだ。

 だがそれでも、ルナルドがやっている仕事の話を聞くことで、自分がこの街で一人でも稼いでいけるようになるきっかけになるのではと考えていたのだ。



「まぁ、そういうことならかまわないかもな。オレ達の仕事に混ぜてくれって言うんだったら考えてたトコロだけど、仕事のコツを教えるくらいなら大した手間じゃない」


「本当? 嬉しい……私もみんなみたいに、早く一人前になりたいんだ」


「まぁあんまり気負うなよ。一生懸命なのは良いけど、気負いすぎちゃダメだって、俺に仕事を教えてくれた先輩達も言ってたしな。……それでどうする、今日これから始めるか?」


「ううん。みんなにすぐに戻るって言って来ちゃったから、今日はもう帰らないと。ちょっと先の予定はわからないんだけど、近いうちにお願いにいくと思う」


「わかった。オレはこの時間なら、大体さっきの辻の辺りにいると思うから、予定が決まったらいつでも声をかけてくれよ」


 そうして少年と少女は、一つ握手を交わしその場を後にする。

 途中振り返り、スズの背中を見守る少年は、大切な何かを仕舞い込むように、グッとその手を胸に握り締めるのであった。

お読み頂きありがとうございました。


あとがきに関してですが、

感想にて、残しておいて欲しいというご意見をいただきました。

あとがきや前書きがあると、纏めて読むときにテンポが崩れてイヤだ、

というご意見をいただいた事があったため、

時期をあけて削除するようにしていたのですが、

残しておいて欲しいというご希望もあるのですね……。ちょっと目から鱗でした。

どちらが良いのか決めかねてしまっているので、

もう少し様子を見ようと思います。


お気に召しましたら、ブックマーク等いただけると嬉しいです。

皆様の一票に、この作品は支えられております。


もし宜しければ

『お前のあとがきが好きだったんだよ/あとがき早く消せよオラァン』

のどちらかだけでも結構ですので、

ご意見、ご感想いただけると嬉しいです。




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 ※※短編※※

トイレでアレする花子さん

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