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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第三章  イロイロあった少女 新しい生活を始める  の話
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11  『それは すれ違う二つの道』

 広い王都の敷地の中で、学園は町外れとも言うべき場所に存在した。のんびりと帰路についている三人の歩みでは、中心街に戻るまで、まだしばらくの余裕がありそうだ。

 並んで歩くギョクとカガミの周りで、スズは時に数歩先を行き、時に間に混ざりながら進んでいる。姉のように慕っている二人とのお散歩が、思わず足取りを軽くさせているのだった。



「しっかしお前、気をつけろよ? 今回はあのお嬢ちゃんがうまく誤魔化されてくれたから良かったものの、話がズレてる事に気が付かれたら余計面倒になってたぞ?」


 鼻歌を歌いながら前を行くスズの後姿に目をやりながら、ギョクは傍らのカガミに向かって呟く。そもそもテスラは、優れた魔術師には良い魔道具が必須だと言っていただけで、冒険者ランクの話など後から出てきた話題でしかない。

 それにギョクも、高価な魔導具でなければ使い物にならないとまでは思ってはいないが、道具の良し悪しにも気を払うべきだとは考えていた。ただそんな事よりも、どう扱うかという技量のほうが重要だと思っていたからの、あのパフォーマンスであったのだ。


 だが、結果として年若い女の子を苛めるような結果になったにもかかわらず、それでもカガミに対して強く非難できないのは、コイツが何を考えてあんな誤魔化しを始めたのかもわかっていたからだ。

 あの魔道具への興味が深そうなお貴族様に、自分が持つ来歴不明の魔道具を見咎められてまっていたら、きっとおかしな事態に巻き込まれてしまっただろう。貴族からの命令として見せろと言われてしまえば、バックボーンのあやふやな自分達では逃げおおせたかどうかわからない。


 だからこそカガミは、かなり強引な話のねじ曲げを行って、テスラを煙に巻いてしまおうとしたのだし、その結果自分に悪感情が向いてしまうことも覚悟の上でだったのだ。

 ギョクは、長い付き合いのこの後輩が、自分達仲間を守るためなら、こんな危ない橋すらも躊躇なく渡ってしまうことを理解していた。


「ま、どうせ相手はお貴族様だ。こっちから絡んでいかなきゃ、二度と会うこともないだろうから良いけどな」


 それでも、いまさら面と向かって礼を言うような仲じゃない。だからギョクは、軽く話題を振っただけで、こんな風に誤魔化してしまうのだった。


「そッスね。っても、そういう発言はアウトッスよ、ギョク先輩」


「……なにがだ?」


「意味深に、もう会う事は……なぁんて言ってたら、それこそもっかい出て来る確率上がるッス。フラグッスよ」


「バカかお前、現実はマンガじゃねぇんだぞ? んなコトが実際に起こるわけねぇだろうが。ゲーム脳か」


 そしてカガミも、ギョクがそんな風に考えていることを充分すぎるほど知っているために、あえて軽口で返答するのだった。



(まぁ。フラグだのなんだのの前に、スズが学園に通うかどうかなんだけどなぁ)


 そして二人の保護者たちは、今回の見学は失敗に終わったかなとも考えていた。只でさえ乗り気ではなかったスズを、半ば強引にこの場に連れて来たにもかかわらず、あんな騒動を見せてしまったのだ。このままスズが、やはり学園に通うのは辞めたいと言い出したとしても無理は無い。

 二人は、あの貴族のお嬢様と同じ日に見学を申し込んでしまったというめぐり合わせの悪さに悪態をつきつつ、頭の予定表の中にあった入学の項目にそっと横線を引くのだった。



§§§§§


§§§


§



 ――だが一方で、それでは済まない奴もいる。

 この日の夜、スズたちがそろそろ眠りに付こうかと考えていたそんな時間。ここ王都にある一つの貴族の屋敷では、ちょっとした騒動が起こっていた。

 この家の一人娘のお嬢様が、敷地内の蔵に閉じこもってしまったのである。



 屋敷に雇われているメイドたちは、みな一様に困り顔で、それでいてどこか呆れたように話し合う。


「テスラ様……。これで今年三回目のお篭りよ? 今度は何があったのかしら」


「前回は、弟君にお部屋の中を泥だらけにされた、とかでしたわよね。今回も兄弟げんか?」


「いいえ。聞いた話では、お出かけになっていた学園から戻ってきて、そのまま蔵に直行されたとか……。外出先で何かあったのでは無いかしら」


「ちょっと気に入らないことがあると、すぐにあそこに立て篭もってしまうものねぇ。アレさえなければご立派な貴族の令嬢なのに」


「本当よね。今は、お付きのアメノさんが、いつものように宥めているみたいだけど」


「どうせお腹が空いたら出てくるんだから、あそこまで騒がなくても良いと思うのだけれどね。……っと、これ、だんな様たちには内緒にしててよ?」


「大丈夫よ、みんなおんなじコト思ってんだから。……さ、私たちも仕事に戻りましょ。もうしばらくしたらお嬢さまも出てくるわ。そうなったらまた、あのやけ食い大会が始まっちゃうはずだわ」


 そしてロングドレスを纏ったメイドたちは、自分達の仕事場へと散っていく。誰もがお互いの顔に、大きな文字でやれやれと書いてあるのを確認していたのだった。



 一方アメノは、硬く閉ざされた蔵の門の前で一心不乱に踊り続けている。テスラがこの中に入ったのは夕方前のことなので、かれこれ数時間はこうしているのだった。


「お嬢様ーッ。ほぉおら。お外はッ、こんなにッ、楽しいですよッ!!」


 いつもはきちっと留められた赤銅色の髪を振り回し、執事服の胸元がだらしなく乱れているのも気にせずに、アメノは必至で声をかけている。


「だからッ、早いトコッ、出てきてくださーいッ。いい加減私も、体力の限界ってモノが……」


 途切れ途切れの声が届いてはいるのだろうが、それでも蔵の中からは物音一つ返ってこない。


 基本的には気が強く芯のしっかりとしたテスラの精神だが、一度限界量を超えたストレスに直面してしまうと、とたんにへにゃへにゃになってしまうのだった。

 なにか心を晴らすきっかけでもない限り、お腹の減りが臨界点を迎えるまでこうして引き篭もってしまうのが、彼女のいつものパターンなのである。


 とは言えそれをわかっていたとしても、専属の執事と言う立場から、黙って待っているだけとはいかないのが、アメノの辛いところである。もうしばらくの時間が経ち、その身に溜まった憤りを空腹が超えてしまうまで、このまま声をかけ続けていなければと覚悟していたアメノだった。



 だが、そんな風に大騒ぎを繰り返すアメノの元へ、一人の男が声をかける。贅沢に金糸を使った衣服に身を包む三十過ぎのその男こそ、屋敷の主人。つまり、テスラの父親にして、アメノの雇用主であった。


「アメノ。娘はどうしてしまったのだ。今日は、あの学園を見学に行っていたはずであろう? まさかあの学園の教師どもが、なにか不埒なマネでもしたのではないだろうね」


「コレは旦那様……。それが、ちょっとだけお嬢様のお心を乱した輩が居りまして。あぁ、学園の教師ではございませんよ。本日たまたま、同じように見学に来ていた生徒なのです」


「なにぃ? ……我がアマテラ家の至宝であるテスラに盾突くとは、一体どこの木っ端貴族だ。私直々に敵を討ってやろうではないかッ!」


「だ、旦那様。それが、その者たちは――」


「お父様ッ!!」


 貴族ではない只の冒険者達。アメノが続けようとしたその言葉は、扉の向こう側からの叫び声によってかき消されてしまった。それまで沈黙を守っていたテスラが、父親の登場に、思わず声を上げてしまったのである。

 慌てて蔵の扉にすがりつくテスラとアマテラ家当主。


「お父様……。ワタクシ、今日は本当に悔しい思いをいたしました。えぇ、今思い出しても口惜しい。考えてみれば、そもそも私が話していた内容は、あの者たちの主張とは全く関係がないのです。だと言うのに、何故かこちらが間違っているかのような口ぶりで話を進められ、無用な恥をかかさせられてしまいましたわッ!」


「おぉテスラ……我が愛しの薔薇。なんといたわしい事だ。で、そいつ等はいったい何者なのだ。お父様がきっちりと懲らしめてやるからな?」


「いいえ、お父様。これは、ワタクシが売られた勝負ですわ。ならばワタクシ自身の手で、キッチリと相手をしてやらねばなりません。お父様も仰っていたではありませんか、貴族たるもの、いつかは誰かに挑まれることがある。そして真に誇り高き貴族とは、たとえいかなる相手だろうと、真っ向から討ち果たすものなのだ、と」


「よく言ったぞテスラッ! それでこそ王国貴族に相応しき精神。お前のその凛々しくも高潔な心意気に、天の神々もさぞお喜びであろうッ! あぁ……考え無しにお前の活躍の場を奪ってしまいそうになった、不甲斐ない父を許しておくれ。そなたの美しい覚悟の前に、私は何をして贖罪とすべきであろうか」


「お父様ッ! そんな風に仰られないでくださいまし。ワタクシを思うお父様のお心、しかとこの胸に届きました。わが子を慈しむお父様の愛……そう、その愛を前に、果たしてなんびとが石を投げられましょうやッ? ですが……もしもお許しいただけるのであれば、このテスラのささやかな我侭をお許しいただけませんでしょうか?」


「何でも言うが良い。父は今、そなたへの愛の虜囚なのだ。たとえ古の物語にあるような、月の姫が出した五つの難題であろうとも、父はきっと叶えてみせるだろう」


「それでしたらお父様。ワタクシがあの学園へ通うことをお許しくださいませ。そしてあの場であの娘達を、正々堂々とぎゃふんと言わせて差し上げますわッ!」



 かくして、閉ざされていた岩戸は開かれた。テスラは周囲で焚かれたかがり火の炎を浴びながら、高らかに宣言する。そんな親子の美しい愛の劇場をつぶさに見ていたアメノ執事は、敬愛する主人達の美しいやり取りに、思わず目元を拭うのであった。


 まぁ……そもそもテスラをやり込めたのはカガミとギョクであって、入学予定だったのはほぼ無関係のスズであるとか、それ以前にあちらが入学してくるかどうかすらわからないことなど、激情に流されるこの者達には一切考慮されないのである。


(待っていなさい。きっとワタクシが、目に物見せて差し上げますわッ)


 見当違いの方向に吼える、テスラお嬢様の明日はどっちだ?

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