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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第三章  イロイロあった少女 新しい生活を始める  の話
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08  『それは 積み重ねられていくナントカの上塗り』

 放っておくといつまでたっても終わりそうに無い貴族のお嬢様たちのやり取りに業を煮やしたのか、シャロンはおずおずと声をかけた。


「あのぅ。ご高説は大変素晴らしいのですけどぉ、もうそろそろお開きにしてもらえませんでしょうかぁ? 本日は、他にも見学希望の生徒さんがいらしておりますのでぇ……」


「貴女ッ、恐れ多くもテスラお嬢様のお話を遮ろうと言うのですか? 身の程を知りなさいッ!」


「良いわアメノ。此処は下々の施設なのですもの、ワタクシの言葉が高尚過ぎるのでしょう。それにしても……ほかの見学者、でございますの?」


 シャロンに食って掛かった執事アメノを片手で制すると、ドレス姿のテスラはツカツカと一行の側へと近寄ってくる。そして、不安げにカガミの袖を掴むスズの前を素通りし、ギョクの正面で立ち止まる。


「そのドレス、中々悪くない趣味ですわね。社交界では見ない顔ですけれど、貴女、何処の家の方ですの?」


「うぇっ? いやまぁ、何処というか……。あっちというか……」


「煮えきりませんわね、それでも貴族に名を連ねる令嬢なのですか? それにその言葉遣い、いくら可愛らしい顔立ちをしていても、そんな有様では(はした)なくってよ」


 思わぬ襲撃に戸惑いを見せるギョクに対し、高所からの視線を投げつけてくるテスラである。とは言え、三人を見た目だけで判断した時、入学希望者がギョクであると勘違いしてしまったのは無理も無い話だ。三人は知らぬ話だが、通常この学園を視察に来るのは貴族の子弟くらいなのであった。


 神官服を身に纏ったカガミはもとより、以前とは比べ物にならない小奇麗な格好をしているとはいえ、スズの服装も庶民が身に纏う物だ。

 それに比べてギョクのゴスロリドレスは、どこぞのお嬢様が着ていたとしてもそれほどおかしい物ではない。しかもコイツの背格好は、学園の新入生だと言われても全く違和感が無い。

 更にギョクは、白磁と言っても過言では無いほどの美少女っぷりである。その身に宿る加齢臭ただようオッサンの魂さえなければ、充分にお姫様をやってのけられる素材。ステラが、自分と同じ貴族の子女が見学に来ていると勘違いをしたとしても、なんら不思議の無い存在なのである。



 だが、貴族の息女のあるべき姿についての講釈を続けようとするアマテラ家ご令嬢に向かって、黙って立っていれば可憐なお嬢様筆頭のギョクは、その外見詐欺っぷりを遺憾なく発揮した対応を返す。


「あのよ。ナニ勘違いしてんのかわかんねぇが、俺は別にお貴族様なんかじゃねぇぞ? それに学園に入るか検討中なのは、こっちにいるスズの方だ」


「そっちの娘は、貴女の侍女ではありませんでしたの?」


「ちがいますわよ、お嬢様。私たち二人はスズちゃんの保護者。もちろん、全員普通の庶民ですわ」


 思いもよらない発言に目を丸くするお嬢様に対し、すかさずカガミも口を挟む。傍らのスズをそっと前に出し、自分達が貴族などでは無いと訴えた。

 テスラはそんな三人をもう一度順番に見つめなおし、美しく整えられた眉の間に皺を作っている。


 ちなみに、意を決してこのお姫様に話しかけ、更には側仕えのアメノに罵倒までされてしまったシャロン女教師は、他の生徒や男性教師共々、現在絶賛置いてけぼり中である。




「庶民? どうして庶民がわざわざ見学など……。それに普通の庶民にとって、このような魔術など無縁でしょう。さっさと別の場所にお行き遊ばされたら如何かしら?」


「そうとも限らねぇさ、現に此処にいるのはほとんど平民だって言うしな。それに、俺達ゃ冒険者だぜ? 魔術なんざ日常茶目仕事で使ってらぁよ」


「そ、そうだよ。ギョクちゃんの魔術は凄いんだよ! こないだも、怖い人達をバシュってやっつけてたんだから」


 ここまで口を噤んでいたスズも、思わず口を挟んでしまう。なんとなくだが、ギョクたち二人が馬鹿にされたような空気を感じてしまったのだ。

 そしてそれが自分の気のせいなどでは無いことを、スズはすぐに思い知ることとなった。



「冒険者ですの……。まぁ、それならば多少なりと魔術に憶えがあったとしてもおかしくありませんわね。とはいえ、冒険者と一口に言ってもその質は様々ですわ。それだけ凄い魔術を使うと言うのなら、貴女たちはもちろん、上級冒険者なのですわよねぇ」


「んや。生憎だが、俺達は中級冒険者の資格までしか取ってねぇな」


「あ~らあらあら。そこの小娘が凄いすごいと口にしてらっしゃるのに、中級どまりの木っ端冒険者でしたの? ワタクシも魔術に長けた冒険者を見知っておりますけれど、その者たちは残らず上級冒険者でしたわよ」


「お嬢様。所詮は市井の冒険者風情でございます。そもそも、女の身にありながら自分のことを『俺』などと言うような輩が、大した力量を持っているはずが無いではありませんか」


「それもそうねぇ。目上の者への口の聞き方も知らぬような不遜な小娘に、わざわざ恥をかかせる必要などありませんでしたわ。ワタクシとしたことが、ついつい口さがないことを言ってしまいました。どうぞお気になさらずにね、中級冒険者さん」


 ここぞとばかりに高笑いを繰り出すテスラお嬢さま。太鼓もちの執事アメノも、テスラと一緒になって底意地の悪い笑い声をあげていた。背中に「おーっほほほ」と書き文字が浮かびそうな、これ以上無いくらいの高飛車お嬢様である。



 そんな二人を前にして、スズは何時に無く厳しい表情を浮かべている。誰よりも尊敬し、そして大切に思っている二人を悪し様に言われるなど、この少女には決して許しておくことはできないのだ。

 両隣に並んだ魔法少女と神官乙女を置いて、スズは一歩、未だ腰に片手を置いて高笑いを続けるテスラに向かって踏み出した。


「違います! ギョクちゃんもカガミさんも、冒険者風情なんて言われちゃう様な人達じゃない。二人は私を助けてくれたすっごい冒険者なんです。今の言葉、取り消してください」


「何を仰るのかしらこの小娘は。今しがた自分達で、中級どまりの冒険者だと白状したではございませんか。上級に上がることもできない冒険者など、ワタクシ達貴族の前には一人も姿を現しませんわよ?」


「それでもギョクちゃんたちは凄いんです! みんなとっても強いし、魔術だって格好良いんだもん。なんにも知らない貴女なんかに、馬鹿にされる筋合いなんてありませんっ!」


「娘ッ! テスラお嬢様に対してなんという口の聞き方をッ、この場で成敗されたいのですかッ!?」


「およしなさい、アメノ。所詮は、物の道理もわからぬ庶民が(さえず)っているだけですわ。高貴なるワタクシは、そのような雑音で心を揺らすことなどありませんもの」


「テスラお嬢様……なんと寛大なお心……」


「とは言え、これ以上耳に入れるのも興がそがれると言うもの。良いかしら、そこの庶民。……このワタクシに文句があるというのなら、上級冒険者になってからいらっしゃいッ!」


 何時の間にやら取り出していた羽根突きの扇を、ピシッと突きつけて言い放つ。今度のテスラは集中線を背負っているようだ、中々に多芸なお姫様である。


 対するスズは、この異様な威圧感をかもし出すテスラの前に衝撃を隠せない模様。後ろに控える二人の冒険者達も、思わず顔を背けてしまっていた。いやまぁ実際には、単にあまりの芝居がかった台詞にふき出しかけてしまったのを隠しただけなのかもしれないが。




 得意満面にキメ台詞を飛ばしたテスラ。三百六十度、どこから見てもドヤ顔である。

 そんな高貴な血筋のお姫様を前に、ギョクは今、心底申し訳なく思っていた。隣にいるカガミにしても、口を出して良いものかと思案顔である。


 とはいえこの二人の優先度で言えば、目の前のどこぞのお貴族様なんかより、自分達の被保護者の方がよっぽど大事。ギョクは前に立つスズの肩にそっと手を乗せ、言葉を選びながら優しく声をかけた。


「スズ……そこまでにしといてやんな。他人からどう言われようとかまわねぇじゃねぇか。俺達にとっちゃ、良くも知らねぇお貴族様に認められるよっか、スズ一人が凄いって言ってくれるほうがよっぽど嬉しいんだぜ?」


「でも……だって、みんなは本当に凄いのに!」


「まだ言いますの? これだから庶民と言うのは……」


「わかってるってスズ。お前がそう言ってくれるだけで俺達ゃ充分なんだ。だから、これ以上噛み付くのはよそうぜ。これ以上は、ホントに可哀相な事に――」


「良いもん! 私がどんな目にあったとしても、誰かにみんなの事を馬鹿にされるのはイヤなんだもん! 私が一番凄いって思ってるみんなの事を、悪く言われるのなんて我慢できないんだもん」


 けれどスズは、そんなギョクの言葉にも被りを振って声を荒げる。問題のテスラたちは、聞き分けの無いわがままにも聞こえるスズの抗議に、肩をすくめて呆れ顔であった。


 そんな三人の様子に、頬を掻きつつ苦笑いを浮かべるギョク。そしてカガミは、いい加減に堪えきれなくなった笑い声を必至でかみ殺し――


「あのね、スズちゃん。本当に気にすることは無いのよ? だって……冒険者の中級と上級の違いって、単に依頼主の客層の違いだけなんですもの」


「えっ?」


 誰か(・・)に対しての爆弾に火をつけた。

お読み頂きありがとうございました。


感想のお返事が滞ってしまっております。

毎日何がしかのご感想をいただいておりますのに、

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