04 『それは 学校でならばたまにある状況』
お昼に投稿予定が遅くなりまして、申し訳ございません
数日後。スズとその保護者たちは、ここ王都イズクモの教育機関に赴いた。例のギルド職員を通じて打診してみれば、あっさりと学校見学の許可が下りたのである。
参加メンバーはメインであるスズ、それからギョクとカガミの三人。ノッポの姫騎士は来ていない。例え一行にとっては重要案件だとしても、三人も保護者がついて行ってしまうのは如何なものかという判断だ。
「悪目立ちして、スズがやりにくくなるのも不味かろうしな。どうせだ、オレ様は一人でギルドの依頼でも受けてくるとしよう。この街では新参なのだし、他の同業者に顔を売っておくのも悪くは無かろうよ」
などという台詞を残し、早朝から一人、ギルドに常駐してある迷宮内での討伐任務に行ってしまったのであった。誤解の無いように明言しておくが、今回はきちんと仕事に向かっている。流石のツルギも、この状況で遊びに出かけてしまうほどのロクデナシデではないのである。
そしてスズは現在、二人の保護者達と共に学園内の一室に通されていた。
見学の許可さえもらえれば、後は自分達だけで見てまわるつもりだったのだが、他の学生もいる以上そう好き勝手は出来ないようである。いささか面倒ではあるが、逆よりはよっぽど良い。
木造四階建ての校舎は隅々まで掃除が行き届いており、この場所にいる人間達のモラルの高さを物語っている。施設自体はいささか古くなっているようだが、愛着を持って学園を利用していることが窺えた。
これだけの大きな施設なのだ、掃除の為の業者が入っているとは考えられない。ならばこの状況は、此処に通う生徒と教師が生み出したものだろう。
清潔感が無ければダメだとは言わないが、毎日使う施設を雑に扱っているようなヤツラには、ろくな人間は居やしない。生前の母親が言っていた言葉を思い出し、スズは一人頷いていた。どちらかと言えばアラ探しに来たような立場ではあるが、それでもこういう状況を見るのは心地良い。
そんなことを考えながら、スズは先ほどからこっそりと辺りを見渡していた。人目を憚るようなその仕草の理由は、少女の目の前では、この学園の教師が一席ぶっているからである。シャロンと名乗った二十歳そこそこの女教師が、見学前の事前説明ということで、大まかなカリキュラムなどについての説明をしているのだ。
「――というわけで、我が学園では基本的な読み、書き、算術に加えて、魔術と物理戦闘の訓練も行っているの。でもでも、一般の部の生徒達に関しては必須の項目じゃあ無いから、あくまでも希望の上での受講って形ね」
「先生さんよ。一般の部ってことは、一般じゃないヤツラもいるってことなのか?」
妙にふわふわした喋り方をするシャロンと名乗った教師に、少し落ち着かないものを感じていると、スズの隣から質問の挙手が上がった。女教師の口調以上にふわふわしたドレスに身を包んだ美少女が、いつもの面白く無さそうな顔で手を挙げていた。
そんなギョクに、教師はやんわりと首を横に向け、そして少しだけ何かを考えて口を開いた。
「シャロン先生、って呼んでほしいなぁ。貴女も、これからこの学園に通うことになるのでしょう?」
「そりゃ失礼。だが、入学を検討しているのは俺じゃねぇぞ」
「そうなの? ん~、まぁなんにせよ覚えておいたほうが良いわよ。年上の人には、ちゃんとした礼儀を払っとくに越した事は無いの。私はそこまで煩く言うつもりはないけど、言葉遣いには気を払っていた方が、対人関係で面倒な思いをせずに済むもの」
「ご高説、覚えておくよ。で、質問にゃ答えてもらえねぇのか?」
初対面の相手だというのにいつもの調子で話をするギョクを、ハラハラしながら見守っているスズだが、コイツの言葉に苦笑いが混ざっている理由まではわかっていない。本来の年齢から言えば圧倒的に年下の女性からのこの発言に、ギョクは思わず浮かんでしまった自嘲を誤魔化すように顔を伏せたのだった。
それでもその反応に、なにかしら納得するものを覚えたのか。教師シャロンは、にっこりと微笑んだ。
「花丸大正解よ。実はこの学校には、平民の生徒達が受講している一般の部の他に、一部の生徒達のみで構成された特別クラスが存在するの。我が校は貴族階級の子弟に向けても門戸を開いているから、基本的にはその子達を受け入れるためのクラスだわ」
「なるほど。貴族の子弟と平民の子ども達を、不用意に関わらせるべきではありませんものね。納得です」
今度は逆側に腰掛けたカガミが相槌を打つ。こちらはこちらで、丁寧な余所行き女性口調で話している。
(話し方……ギョクちゃんとカガミさんで、足して半分ずつにしたら丁度良くなるのかも)
などと考えるスズであるが、それでもギョクは、平素に比べれば随分と気を使っているつもりなのである。それが証拠にこの魔法少女は、与えられた腰掛けた椅子の上に両足を揃えて座っているのだ。いつもの片足を膝の上に置く無作法な座り方をしていないのは、曲がりなりにも保護者としてこの場にいるという意識からである。
結果として三人は、三つ並んだ椅子の上で、ギョク、スズ、カガミの順番でお行儀良く腰掛けている。
客観的見て、大人しく授業を受ける少女達の姿であった。どうやったって子どもの引率に来た保護者には見えないところには目を瞑るべきだろう。
そんな偽三姉妹の長女担当、カガミの言葉に、けれども女教師は申し訳なさそうな表情を返した。
「とは言っても、実際に貴族の子どもなんて、ほとんど入学してこないんだけどね。あっちの方々は、殆どが自宅に家庭教師を招いて教育をしちゃうでしょう? その、家風がどうとかって理由で」
シャロンが説明することには、この学園は民間の教師達によって運営されているが、大本の創立は国の主導によるものだという。国、つまりは王の指示によって、貴族も平民も隔てなく教育を受ける場所として設立されたものなのだ。であるが為、貴族階級の者たちもその意志を真っ向から無視すること出来ない。
だが、ことこの世界の貴族というものは自分達の家風を重んじる。そしてその家風は、幼少期からの教育によって成立するものとも考えている。そんな大事な時期の跡取りを、何処の誰とも知れぬ民間の教師達に委ねるなど、普通の常識的貴族からすれば言語道断なのだそうだ。
「だから貴族の子達は、一回は見学に来るのだけど、実際に入学なんかしないのよ。通わせることを検討したけれど、それでも自分の家で教育をした方が良いと判断したってことにすれば、国の顔を潰さずに済むでしょう?」
「でもそれじゃ、この学校が上から責められるんじゃねぇのか? 国の肝いりで作られたのに、貴族からすりゃ不備があるってんなら、現場に問題があるって事になるだろうよ」
「そこはホラ、上の方もわかってるからねぇ。そこまで強くは言われないのよ」
「そんなもんか……。親方日の丸ってのも、色々面倒なもんだな」
大人の事情を語って聞かせる女教師に、ため息をつきつつギョクが返した。スズも理解できない部分はあるものの、難しい話なのだろうとだけは理解して同じ仕草を返す。
とはいえ、最後の表現が理解不能なのは仕方あるまい。言わんとする事はわかるのだが、この国の国旗にも象徴にも太陽のマークは使われていないのだ。現にシャロン教師も、聞きなれない言葉に少し首を傾げていた。
「まぁそんなわけだから、今の特別クラスにも貴族の子たちは数人しか居ないわ。殆どが、飛びぬけて成績の良い子か、特殊な事情がある子達だけなの。普通の生徒たちは関わらないと思うから、気にしないで良いわよ」
「私がそんなにスゴイ子なワケが無いんだから、関係ないって事だね」
「いやいや、スズちゃんだって充分にできる方だと思うわよ。これまでちょこちょこ勉強教えてたけど、しっかりついてこれてたじゃない」
「あら、それじゃあ、これまではお姉さんにお勉強を見てもらっていたのねぇ。……ちなみに、読みと書きはどの辺りまで?」
「読む方に関しては、この国の公用語なら、普通に流通している本を読める程度には出来ていますわ。書くのはちょっと苦手みたいですけれど、それでも毎日日記を付けられるくらいには」
「それは素晴らしい。計算の方は?」
「足し算、引き算、掛け算、割り算はひととおり教わりました。えと……難しいのは無理だけど、簡単なのなら暗算で出来るくらいには」
急に話を振られたスズは、思わず背筋を伸ばしながら答える。
マトモな教育とは程遠い生活をしていたスズではあるが、それでも生活の中で数と無縁ではいられない。足し算引き算程度ならば普通に行っていたし、掛け算以降に関しても、考え方の基本を教わればすぐに理解できたのだ。
元々頭の回転が速い性質ということもあるのだろうが、あと半年ほどで十一歳になるこの少女の柔らかい脳は、カラカラに乾燥した砂地のように知識を吸収しているのである。
それからの話は、学校の説明から、入学希望者であるスズの修学状況についての確認にシフトしていた。
初めて体験する、他でもない自分の勉強の客観的な話を、自分以外の人間が目の前でしているという状況である。この保護者面談特有の気恥ずかしさに、スズは思わず体を小さくさせてしまうのだった。
お読み頂きありがとうございました。
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