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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第一章  三匹の見た目詐欺 とある少女と出会う  の話
4/80

03  『それは いわゆる一つの世界のかたち』

8/22 一部改定

「で、どうだった。ウマそうな仕事はあったか?」


 ギョクの問いかけに対し、三人がギルドと呼んでいる、仕事の仲介と斡旋を行う施設を訪れていたツルギが報告する。ちなみにギルドは通称で、正式には『冒険者組合』である。いまいちロマンが足りないので、今後もギルドで統一する。



「ふむ。ざっと見てきて限りでは、張り出されていたのは常駐依頼ばかりだったな。割りの良さそうな話は見当たらんかった。つまりはいつも通りという事だ」


 その答えを予想していたのか、カガミはため息をつきつつ面白くも無さそうな顔を浮かべる。愁いを帯びた神の巫女の顔である。



「まぁ、美味しい仕事なんて早々ないッスよねぇ」


「とはいえ、そろそろ何かやっときたいな。金に余裕がないわけじゃないが、いつまでも身体遊ばせとくってのも性に合わねぇ」


「貧乏性よなぁ、ギョクは」


「テメェみたいに、後先考えてねぇ脳筋とは違うんだよ」


「まぁまぁ、お二人とも。オレも仕事を請けるのは賛成ッスよ。毎日お祈りばっかりしてても、一向にチ○コ生えてこないッスからねぇ」


「行動原理が下半身ってのは、文明人としてどうなんだ……」


「正常な男子たれば、当然のことだろう?」


「黙れ直結厨! あぁ、もう良いっ。なんかなかったのかよ、それなりに稼げそうな仕事はッ!?」


「ない事はなかったな。返事は二人に相談してからと先送りにしてきたが、ギルド側がオレ様たちに回して来た仕事はあった」


「それを先に言えよっ」


「だって聞かれなかったから」


「だって、じゃねぇよっ。今さら誰にコビ売ってやがんだっ!」


 思わず掴みかかるギョク。この少女……いや、中身的にはこの男、どうにも熱くなりやすいタチのようである。チンピラの面目躍如といったところだろう。

 一方のツルギは、自分の胸にすら背の届かないギョクの攻撃を、まるで子どもをあやすかのように捌いていた。



 二人の身体能力から繰り出される攻防は、一般人では目で追うことすら適わない、高速で行き交う拳のやり取り。だが、そんな熟練の拳法家の試合でもお目にかかれるかという戦いも、今のこのコイツ等では、可愛い女の子二人が戯れているとしか見えない。まこと残念な話である。


 いやまぁ、実際にはオッサン二人がじゃれあっているという、実に見苦しい絵でしかないのだが。




「ちょっとお二人とも、遊ぶのはそれくらいにしてください。いい加減にしないと物が壊れるッス、部屋傷つけて弁償とか、流石に勘弁っしょ?」


 徐々にスピードが加速していき、拳閃が衝撃波を発生しそうになったあたりで、見かねたカガミがようやくといって二人を止めた。

 余談だが、ギョクまでがこれほどの速度で動けたのは、本来の肉体に魔法でブーストをかけたからに他ならない。他の二人に比べて肉体的に劣るギョクは、魔法をメインとする戦い方を好んでいるのだ。



「チッ……しょうがねぇ。今日はこれくらいにしといてやる」


「そう言うお主の拳は、オレ様にカスリもせんかったがな」


「んだとゴラァ。二回戦はじめっか?」


「だからその辺にしてくださいって! ……で、ツルギ先輩。その依頼ってのはどんなのだったんスか?」


「おう、だったな。まぁ、なんと言うことはない依頼なんだがな……」


 そしてツルギは、彼らに舞い込んだ依頼について語りだした。



§§§§§


§§§


§



 そもそも、冒険者とはなんであろう。


 この世界で冒険者という言葉が生まれたのは、そう古い話ではない。だが冒険者そのものは、ソレを自称する者が生まれるよりも遥かに長い歴史を持つ。

 数百年前のとある小国で、数年に一度都市近隣に出没する大型害獣の被害に伴い、その駆除を専門で行う数人の狩人が現れ始めたのがその最初である。


 後に『魔物』と呼称されるようになった害獣の出現率増加により、この不定期に出没する魔物に対抗する為、小国は正規軍の投入ではなく民間の魔物退治専門の狩人を奨励した。

 いつ、どこで、どのような規模で魔物が姿を現すかわからぬ以上、貴重な対国家の防衛力である正規軍を国中に分散して対処することを嫌ったのである。


 大したサポートを受けられるわけではない代わりに、ほとんど自己申告だけで職業証が発行されてしまうこの魔物狩人は、魔物に対する急ごしらえの対処療法に過ぎなかった。

 結局のところ、魔物被害に対する「国はきちんと対処していますよ」アピールでしかなかったわけだ。



 だが、かけられた期待の少なさに反するがごとく、魔物狩人の数は増加の一途を辿ることになる。


 上手く魔物を狩ることができれば、頑丈な生体部品や希少価値のある魔石といった、換金率の良い素材が手に入る可能性がある。つまり、魔物との戦闘という危険を覆い隠すほど、当たった時の実入りが大きかったのである。


 そしてそんな狩人たちの行動半径は、出没する魔物を待ち受けるだけに留まらなかった。


 魔物の発生源であると目される『迷宮』の存在が確認されれば、そのまま迷宮探索を行うようになり。古代遺跡に眠る謎の装置が魔物を生んでいるという説が出れば、遺跡の探索とそこに眠る財宝の発掘を彼らは手がけた。

 かくして単なる害獣駆除業者であった魔物狩人は、一攫千金を夢見る者たちが己のスリルと探求心を満たす為の架け橋へと様子を変えた。


 そしていつしか、魔物狩人は自分達の金と名誉とロマンを『冒険』という単語に集約させる。

 『冒険者』の誕生である。



 そんな冒険者の互助組織である『冒険者ギルド』は、冒険者達の飯のタネである各種依頼の仲介、斡旋を行う組織である。むしろ、それしかやらないといったほうが正確である。


 この世界の冒険者ギルドは、冒険者を支援しない。

 大まかな内容から、独自に設けた冒険者のランクに応じて仕事を振り分けたりはするが、実際のところは依頼主の意図も仕事の危険度も考慮しない。外からの依頼を受領した時点で、一定のマージンを確保できる冒険者組合は、仕事の内容で冒険者たちがどうなろうと一切関与しないし、究極的には依頼の成否すら意に介さないのだ。


 それでも、いまだほとんどの冒険者たちがギルドを利用し、また依頼人たちが頼みごとを持ち込むのには、やはりそれだけの実情、政治上、心理上の理由がある。……あるのだが、少なくともこの三人にしてみれば、今のところ関係の無い雲の上の世界などという程度で考えていた。

 冒険者ギルドは胡散臭いが、それでも便利。これが、この三人のみならず、普通の冒険者達に共通の認識なのである。



§


§§§


§§§§§



「――と、いうわけでだ。オレ様たちにその辺りをグワッっとやって欲しいらしい」


「悪いがまったくわかんねぇ。結局、ギルドさんは俺達になにをやらせてぇんだよ」


 ツルギの語る、冒険者ギルドの回して来た話。その説明を聞いていたギョクであるが、くちびるを尖らせながら頭をフリフリそう洩らす。


「先輩……。そんな顔してると、ますますぷりちーッスよ」


「うむ、あざといな。ファン層拡大を狙っとるのか?」


「んなおぞましいモン狙っとらんわっ!」


 ぷりぷりと怒りを露にするその様は、完全無欠に愛らしい。だが実際はオッサンである。かくも世の中は無常に溢れている。



 それはさておき、確かにツルギの説明では二人とも要領を得なかった。なにせ、会話のほとんどが擬音と形容詞で出来ているのである。


 貼り付けてある依頼書の内容を、ただ覚えて読み伝えるだけのいつもの確認作業とは異なり、ギルドの職員から口頭で伝えられた仕事内容を解説するのは難易度が高い。筋組織に犯されつつあるツルギの脳みそには、いささか過酷な作業であるといえよう。



 そしてそのことは、ギョクやカガミも充分に理解していた。

 それ故、なおも説明を続けようとするツルギに手を振って、小さいほうの美少女は苦笑いを浮かべるのだった。


「まぁいいや。詳しくは直接行って聞こう。そもそも、今日のギルド行きをお前一人に任せちまった手前、俺達も偉そうに言えねぇしな」


「そうッスね。それにツルギ先輩も、その場で即答はしてこなかったんでしょ?」


「応とも。お前達に相談してからでなければ、返事は出来んと言ってきた」


「上出来だ。んじゃ、明日にでも三人で向かうとしようや」


「問題がなきゃその場で請けちゃえば良いですし、何かあったとしても三人揃ってればいくらでも突っぱねられるッしょ」



 そうして、意見の一致を得た三人は、そのまま好き勝手に夜を過ごす。


 ちなみにだが、わざわざベッドが三つある部屋を利用しているこの者達では、天地がひっくり返ったとしてもその手の間違いは起きない。

 どれだけ見た目が美しいケーキだろうと、中に詰まっているモノが放射性廃棄物に等しい何かだと知っていれば、手を出す阿呆はまず居ない。

 ……つまりはそういうことである。

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