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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第一章  三匹の見た目詐欺 とある少女と出会う  の話
3/80

02  『それは やっぱり頭の悪い三人』

8/22 一部改定

8/23 一部台詞改定

 そして、夜が訪れる。

 男の象徴が身体にあれば、それだけで男子たる本懐は遂げられるものかという、至極どうでも良く下らない議論を交わし続けていた二人の下へ、この部屋の三人目の主である少女が戻ってきた。




「帰ったぞ」


「あっ。お疲れッス、ツルギさん」


「どうだった? ってか、随分遅かったな」


 身の丈百八十を超える長身を、微細な模様の入った軽鎧に包んだ黒髪の乙女の帰還に、二人はねぎらいの言葉をかける。


 そしてこの、ツルギ、と呼ばれた美少女は、腰にさしていた両刃の剣を鞘ごと放り投げると、切れのある美人には似合わない実に豪快な笑い声を上げた。その涼やかな声には、到底そぐわぬ喧しさである。


「カッカッカッ。いや、スマンな二人とも。オレ様としてはすぐに戻るつもりだったのだが、ギルドの帰りに蜘蛛屋の娘に見つかってしまってなぁ」


「蜘蛛屋? あぁ、三番通りの娼館か。……って、うわっ。なんだお前、すっげぇ香水くせぇ」


 そうか? などと言いながら、ツルギは自分の体に染み付いた甘い香りに鼻を動かしている。全く悪びれた様子のないその姿に、カガミは呆れて口を開いた。


「ツルギ先輩、まぁた昼間ッからそんなトコ行ってたんスか?」


「フンッ、女郎屋通いは男の甲斐性であろうが。お前等も今度一緒にどうだ? この街の娼館ならどこもオレ様たちのような者でも受け入れるが、中でも蜘蛛屋は美人ぞろいだぞ?」


 好色な笑顔を浮かべ、男の甲斐性について語る美人系乙女である。言うまでもなく、コイツの中身もオッサンであった。



 そんなツルギの、見た目の姿は変われども十年来変わらない好色な中身を横目に、ギョクは呆れた口調で応える。


「……俺はそういうトコ苦手なんだよ。お前だって知ってんだろうが」


「そう言えばそうだったな。……全く、相変わらずなことだ」


「あれ? ギョク先輩、チンピラのクセにキャバとかNGでしたっけ?」


「チンピラ言うなし。……仕事でもねぇのに初対面の女と楽しくお喋りなんて出来ねぇよ、緊張するだけだ」


「コイツはこう見えて人見知りだからな、良い女がついても固まってるだけで何も喋らんのよ。一度無理やりクラブに連れて行ったことがあるが、店を出るまでに口にしたのは「あぁ」「はい」「ですね」の三言だけだったぞ」


「うわだっせぇ。……でも、嬢と喋るのが嫌ってんなら、黙って飲んどけば良いじゃないッスか。それだけでも楽しめるっしょ」


「あぁ、それも無理だ。何せお猪口のウラでも酔いつぶれるほどの下戸だからな」


「好きなモン頼んで何が悪いんだよっ。良いじゃねぇか、美味しいんだぞ? ジンジャーエール」


 ジンジャーエールは確かに飲み物として美味しいし、そもそもシャンパンなどの食前酒代わりとして飲まれていたという歴史を持つ。それだけに、飲みの席で頼んでも違和感がない場合も多い。……のだが、そもそも酒類を『頭の痛くなる毒液』としか認識していないギョクは、キャバクラでソフトドリンクを頼んで失笑を買ったという体験もあいまり、一方的な恨み言をブツブツ呟いていた。




「しっかしツルギ先輩も好きッスねぇ。自重ゼロッスか」


「せっかくこんな面白い世界にこれたのだぞ? ここでオレ様がビックでグレートな人生を送るためには、女遊びの一つや二つ不可欠。いや、むしろ義務と言えよう」


「さよで。……ってか、中身はどうあれ身体は立派な女同士でしょ? どうやってんスか?」


「クククッ、そこはそれ……。如何様にもやり方というモノはある。そもそも、女を喜ばせるのに必要なのはナニではない、あくまでもテクよ」


「あぁなるほど。確かに、チ○コだけで決まるってワケじゃないですからねぇ」


「そのとおりだ。しかし、お前もそれがわかっているなら、女郎屋通いの一つもやってみればよかろう?」


「オレは神殿の乙女ちゃんたちと、百合イチャコラしてるだけで満足ですよ、今のところは。

 ……それにパブリックイメージってヤツがありますからねぇ。街で噂の美少女神官が、まさか女買い漁るってワケにはいかんでしょ」


「ふむ。そりゃ確かにどんな噂が立つかわからんな。まぁそもそも、この街の女どもはオレ様の迸る男の魅力の前に腰砕けだ。今さらお前等が宗旨変えしたとて、靡いてくる女が居るとは限らんしなぁ」


 カッカと笑い声を上げるツルギである。会話の内容は、昭和どころか明治か大正のオッサンだが、高笑いをあげるその様だけ見れば、名誉ある勝負に勝どきを上げる戦乙女に見えなくもない。



 ここだけの話、ツルギに対する娼婦達の評価はことのほか高かった。見た目だけならば美少女のソレであるが、切れ長の面差しはある種の色気を感じさせる。豪放磊落(ごうほうらいらく)とした振る舞いも、粗野な荒くれ者に慣れたこの街の娼婦からは好意的に受け入れられていたのである。


 一見すると乱暴な言動の中に、きっちり相手を楽しませようという意識が感じられるツルギの相手は、普通の男を相手にしたのでは得られない倒錯的な魅力がある……とは、多くの男どもを魅了してきた古参娼婦の談である。


 なんというか、どんな世の中でも、ヅカ的な世界はある程度受け入れられるものなのかもしれない。




「ったく……。テメェらのシモの話なんざどうでも良いんだよ。で? ギルドの方はどうだったんだ?」


「おぉ、そうだったな。きちんと確認してきたから、安心するといい」


「すんませんねぇ。ツルギ先輩にばっかりギルド関係任せちゃって」


「なぁにかまわん。あんな場所にお前等のような姿の者が行っては、果たしてどんな目に合わされるかわかったものでは無いからな」


 豪快に笑い飛ばすツルギに、二人は苦笑いを返した。



 たとえこの場所が城壁に守られた街の中とはいえ、それでも安全が保障されているワケではない。むしろ、人の集まる街中だからこその危険がある。

 三人とも、その中身はどうあれ、見た目だけなら十人中十人が振り返るほどの美少女である。うら若いそんな娘が単独で裏通りを歩けば、それこそ分単位で人攫いがアポを取ってくるだろう。


 そういう男の欲望を知っているカガミとギョクは……いや、むしろ充分すぎるほど知っているからこそ、街の裏側に属する冒険者ギルドに、理由も無く一人で足を運ぶような無謀をしようとは思ってもいなかった。




 では、何故にツルギは一人でそんな場所を訪れていたのか?

 それはツルギが、その辺の男が十人がかりで襲ってきたとしてもモノともしないほどの身体能力を持っているからに他ならない。


 彼ら三人が宿った肉体は、それぞれが一般人を圧倒するほどのポテンシャルを秘めていた。

 たまたま宿った肉体が高スペックだったのか、それとも彼らが宿ることで能力を引き出せるようになったのかはわからない。そもそもどんな経緯で、美少女の体に受肉するハメになったのかすらわからないのだ。


 それでも確かな事は、それまでベッドの上の組体操くらいでしか身体を動かさなかったカガミや、典型的な運動不足の中年だったギョクでさえ、大の男を素手で圧倒するほどの肉体的能力を持ったということである。

 いわんや、十代の頃から格闘技に手を染めていたツルギに至っては、この世界の一般的な冒険者程度ならば、相手が何をされたかわからないほどのスピードで無力化することすら可能なほどであった。



 三人がこの世界で糊口を凌ぐに当たり、冒険者という荒事に手を染めることを決めたのは、元の世界に戻る手がかりに近づく為というよりも、この身体能力を鑑みての即物的な理由が大きかった。まぁもちろん、現代日本のサブカルチャーに骨の髄まで汚染されて育った三人が、冒険者という響きにロマン溢れる何かを感じてしまったという事実も否定することは出来ないのだが。


 口ではなんと言っていようとも、この三人は与えられた能力を遺憾なく発揮し、剣と魔法の世界での荒事家業を満喫しているのだった。




 そんな三人の冒険者家業の中で、人為的な危険の伴う街中での探索は、主に素手での戦闘を得意とするツルギの役割である。


 別に他の二人でも、その辺の暴漢程度ならば片手で捻ることも可能なのだが、そこはそれ、リスク管理というヤツだ。大人しい神官風のカガミや、三人の中で一番幼く見えるギョクを向かわせて、こちらから厄介ごとを招くようなマネをする必要はないのである。



 チンピラ崩れと脳筋と、更に二枚舌の三人組ではあったが、一応曲がりなりにも現代社会人としてやっていた過去がある。

 法律も常識もまるで違う世界に叩き込まれ、さらには冒険者などというヤクザな家業に身をやつしてはいるが、根っこのところでは、波風立てたがらない日本人の感性を残しているのだった。

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