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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第二章  四人になった少女愚連隊 新天地を求める  の話
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04  『それは ハイライトの消えた瞳のこと』

 一行の馬車は、森の切れ目の曲がり角、そのちょっと前で道を外れる。そのまま少しだけ草原を進み、街道からも充分に距離を取った場所で止まった。


 馬車から出てきた冒険者達は、何食わぬ顔で焚き火の準備を始める。

 昼をまわったばかりの今の時刻は、いつものコイツ等からすればまだまだ野営には早すぎるタイミングであるが、一般の旅人ならば丁度良い時間帯だったのだ。



 桶と、いくつかの野菜を手に馬の世話をしにいくギョク。いつもより遥かにのんびりと火起こしを始めるツルギ。そしてカガミとスズは、そんな二人や馬車からも離れ、街道よりの場所でなにやら話し込んでいた。



 見た目だけ乙女たちのそんな姿は、森の中に潜む何者かには、旨そうな獲物が横腹を見せてくつろいでいる様にしか映らない。非力で未熟者の女冒険者が、迂闊にも自分たちの前で野営を始めたと捉えたのである。つまり二重の意味で、コイツ等の真実を見抜けなかったのだ。


 男は少女達に気付かれぬよう、こっそりと仲間に合図を送った。

 一人、また一人と森の端に集まる男達。ニヤニヤ下劣に唇を歪ませるこの者たちの手には、いずれも刃物が握られている。


 今回の獲物は、金の匂いがぷんぷん漂う大型の馬車だけでなく、自分達の汚らしい獣の欲求までも満たしてくれる有り難いご馳走だ。

 いくら武装した冒険者とはいえ、所詮は小娘が三人ほど。ちょっと刃物で脅してやれば小便垂れ流しながら命乞いを始めることだろう。そうなれば、後は思うがままだ。


 成功すると信じて疑わない襲撃を前に、誰がどの少女を最初にいただくかなどというおぞましい皮算用を始める男達だった。



 だが当然、三人の冒険者達はこの動きに気付いている。

 馬達に水をやりに行ったギョクは、そのまま森から死角になる馬車の裏手を通り、音もなく荷台へと飛び乗った。そして焚き火の準備を始めている風のツルギが、高所に身を潜めたギョクに小さく語りかける。


「どうだ、飛び道具持ちはいるか?」


「いや。ここから察知する限りじゃ長ドス持ってんのが八人、槍持ちが二人の計十人だな。後ろに合図送ってる素振りもないし、あれで全部だろ」


「ならば予定通りいくか。……カガミ、聞こえたな?」


「おっけッスよ。しっかしギョク先輩、長ドスはないでしょ長ドスは。本職の方ですか?」


「うっせ、俺ゃどっからどう見てもマジメなカタギだ。……良いからさっさと準備しやがれ」


「ういッス。んじゃ、あちらさんが動くのを待って開始にしましょ」


 少し離れた場所に居るカガミも、同じく小さな声で会話に混ざる。

 これだけの小声でも話が伝わるのは、互いの魔力を細い糸のように伸ばし、それぞれの耳と喉元に繋いでいるからだった。魔法を利用した糸電話のようなものである。


 そんな謎技術を使えないスズは、突然話し出したカガミを不安全開の面持ちで見つめる。だが、森に背を向けた少女のそんな表情は、襲撃者達の目には入らなかった。



「さ、スズちゃん。そろそろ来ると思うから、今のうちに深呼吸しとくッス。……なぁに、オレ達が付いてる。万が一にも怪我なんてさせないッスよ」


「う、うん……」


 そしてスズは大きく息を吸い。教わったとおり、四つ数えて息を吐く。そしてまた、四つ数えて息を吸ったその時、彼女の後ろからガサガサと音を立てて男達が姿を現した。

 事前にギョクが察知していたように、八人は大きさのまちまちな剣を握っており、残りの二人も肩に槍を担いでいる。



 カガミたちに近づいてきたのは、獣の毛皮を腰巻にしていたり、謎の棘が付いた肩当などの世紀末的ファッションに身を包んだ無法者などではなく、意外にもマトモな服装の男達だった。そして、中々に手入れの行き届いた両刃剣をちらつかせながら、


「よお、お嬢ちゃんたち。良い天気だなぁ」


 一団の中で一際体の大きい、リーダーと思しき人物が口を開く。


「これだけ天気が良いと、昼寝の一つもしたくなるってモンだ。……どうだい、オレ達と一緒に、ちょいとのんびり楽しまねぇか?」


「まぁ、素敵なご提案。でもそのお誘いの魂胆が、信じて送り出した女冒険者が……だなんて事は明白ですわ。生憎私達、レ○プ目ダブルピースをするつもりはありませんのよ」


「はっ? レイ? ……なんだって?」


「良い、スズちゃん。世の中の男なんて、殆どが腐れ外道かド阿呆。もしくは腐れ外道であり、かつド阿呆なの。だからこういうのにホイホイ付いていってはダメよ? 見知ったばかりの女性に同行を促す殿方なんて、ロクな人間は居ないんだから」


 近づきつつある男達を前にニッコリと笑みを浮かべたカガミが、そんな超特大のブーメラン発言をくり返す。隣でうんうん頷いているスズは、一度自分の立場をじっくり考えてみたほうが良い。



「何言ってんだか意味がわからねぇが、まぁ良い。この状況がどんなもんかくらいわかってんだろ? そっちにゃ、黙って従う以外の方法なんざありゃしねぇんだよ。大人しく言うとおりにしな」


「そうそう、リエイのアニキの言うとおりだ。大人しくしてりゃあ、そのカワイイお顔に傷がつくこともねぇぜ」


「それどころか、気持ちよ~くしてやるってモンだ」


 ゲヘゲヘと不気味な笑い声を上げる男達。実に判りやすい。



 とは言えこの男達も、自身の下半身に突き動かされるまま、考え無しに動いているわけではなかった。横一列に森の中から出てきたと思えば、両脇の者たちは少しずつ歩みを速め、冒険者達を取り囲むようにと動いている。姿の見えないギョクの方にも、槍持ちを含めた二人組みが向かっていた。


 包囲網の中央にいる男の手が、後数歩進むだけで、一番近くに居たスズの元に届く。そんな場所まで接近した時、回り込むように馬車の裏手を見に行っていた男が声を上げた。


「アニキぃ、ちっこいのが居やせんぜ。馬の側にも姿が見えねぇ!」


 耳にしたリーダーは舌打ちをし、目の前の神官らしき少女に向かって問いただす。


「何処に逃がし――」


「っと、そこまでだ」


 男の声に被せ、どこからか可愛らしい女の子の声がする。

 ハッ、と、声の出所に顔を向ける男達。その視線の先には、馬車の荷台の上で仁王立ちになる、とあるゴスロリ魔女っ子の姿があった。



 意図のわからぬ登場を決めた少女に、思わずあっけにとられる男達である。そんな彼らに対し、文字通りの意味で上からの声をギョクは浴びせた。


「念のため聞いときたいんだが、お前等は野盗の類で間違いないか? タダのナンパだってんなら不幸なすれ違いだ、お呼びじゃねぇからさっさと消えな」


「は、はぁ? 何言ってんだこのガキ」


「おっけおっけ。んじゃ、コイツが最後のチャンスなんだが、俺達を見逃す気はあるか? 別に俺達ゃ、テメェらの討伐を受けてココに来た訳じゃねぇ。そっちがほっといてくれるなら、こっちも手は出さねぇぞ。……どうだ?」


「テメェ、黙って聞いてりゃ偉そうな口利いてンじゃねぇぞ!」


「ってか、頭あったけぇのか? 獲物前にして黙って帰る盗賊なんざ居るわけねぇだろうが。ホレ、怪我しねぇ内にさっさと降りてきな。じゃねぇと、手足へし折って引き摺り下ろされるハメになるぜ」


「交渉決裂、と。んじゃ、予定通り始めるとするか。……スズっ、特訓その一だ。始めろっ!」


 その声に一つだけ頷いた少女が、改めて大きく息を吸う。

 そして、ついさっき行われた会話を思い返していた。



§§§§§


§§§


§



「良いか。今のスズには、誰かに危害を加えられそうになった時、それに対抗する手段は無い。そうだな?」


「う、うん。石とか投げるくらいは出来るけど……武器なんて持ったこと無い。ごめんなさい」


「謝るこっちゃねぇよ。刃物なんざ、持たずに済むならソレが一番なんだ。だけど今後も俺達と行動していくなら、どっかで危険が降りかかる恐れはある。そんな時、俺達が近くに居ればきっと守ってやるが、いっつもかっつも一緒に居られるワケじゃねぇ」


「そだね。……うん、私もそこまでしてもらいたくない。迷惑かけるのはイヤだもん」


「別に迷惑じゃねぇんだが……って、とにかく。スズが一人の時に、何かから襲われるってコトは充分にありえる。世の中、他人傷つけて喜ぶようなヤツはごまんと居るし、それじゃなくても冒険者なんてのは敵が出来やすい仕事だ。だから俺達と一緒にいるなら、スズにも身を守る手段は必要だ」


「私も、戦う訓練した方が良いんだよね。……大丈夫、覚悟はしてた」


「おう。んじゃ『死なない為の心得その一』だ。良いか? 街中だろうと何処だろうと、近くに俺達が居ない状況で襲われそうになった時、今のスズが、いの一番にやること。それは……」


「それは?」

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