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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第二章  四人になった少女愚連隊 新天地を求める  の話
22/80

03  『それは 決して贔屓などではなく』

諸事情により、本日は少し早めの更新です


9/5 誤字修正

 ヤーアトの街を出発し、そろそろ十日が経とうとしている。途中の村で水と食料を補給しつつ、一行の旅は続いていく。

 事前に大量の物資を準備するスタイルのコイツ等では、日を追うごとに身軽になっていくのが常なのだが、引越し荷物で満載の荷馬車では減っていく量も微々たるモノ。一人の御者で扱える限界である三頭引きの大型馬車は、今日も深く轍を残しつつ草原を進んでいる。



「ところでスズちゃん。ちょっと気になってたことがあるんスけど……」


 いつものバカ話をBGM代わりに、のんびりと、窓から流れる景色を眺めていたスズに声がかかる。


「ん?」


 振り返る視線の先には、こちらを見つめ穏やかな笑顔を送ってくるカガミの姿。直に座るよりはマシという木綿綿(もめんわた)を詰め込んだクッションの上で、横向きに足を崩して座っている。


「いえね。大したことでも無いんスけど、スズちゃんって、オレやツルギ先輩の事は『さん』って付けて呼ぶじゃないッスか。なのに、なんでギョク先輩のことだけ、最近は『ギョクちゃん』なんッスか?」


「えっ、ダメだった?」


「いやいや、ダメってワケじゃ無いんスよ。ただ、ギョク先輩だけ違うのが気になりまして……。ハッ。まさかギョク先輩、オレ達の知らない所で地味にスズちゃんの好感度上げてたとかじゃあ無いッすよね!?」


「誰がンなことに精出すか、ボケ。テメェの桃色脳みそ基準で考えてんじゃねぇよ!」


「だったらなんで、先輩だけ特別なんスか。個別ルートへの分岐はもっと先でしょ?」


「えっと。ゴメンなさい、カガミさん。別にギョクちゃんが特別なんじゃなくって……。だって、二人はずっとお姉さんだけど、ギョクちゃんは同い年くらいだから良いかなぁって」


「なっ?」


「ぶふぉっ」


 あまりに衝撃的な、十歳児からの同世代発言に絶句するギョクと、乙女の姿にあるまじき噴出しをカマすカガミである。



「ちょ、ちょっと待てスズ。誰と誰が同い年だって?」


「私とギョクちゃんだけど……。あれ? 違った?」


 思わず顔を見合わせる二人の元中年。そして、同時に、


(そういえば……いまだにきちんと自己紹介してなかった……)


 と思い出す。


 そもそも、別の世界からやってきたなどという荒唐無稽な話を聞かせるわけにはいかず、である以上、自分達が本当は、三十過ぎの腐れ中年男であったという事実も明かせない。それゆえに、出身地やこれまでの身の上、そして年齢までもなあなあで誤魔化してきた三人であったのだが、まさかこんな形の誤解を生んでいるとは思わなかった。

 とは言え今さらこの、自分達を頼れる同性のお姉さんと信じきっている少女に対し、本当のことを明かす勇気はコイツ等にもない。だって、キモイとかヘンタイとか言われたら立ち直れないではないか。


 十歳児認定を受けてしまった魔法少女型オッサンは、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべつつ、困惑気味のスズに向かって頭を掻く。



「……あのな、スズ。俺とツルギとは同い年なんだよ。んで、そこでヨダレ拭いてるカガミは俺達の一ッコ下。つまり、俺もお前さんよかずっと年上なわけだ」


「えぇっ! そうだったの!? それじゃ、ギョクちゃんってもう大人なの?」


「大人も大人、成人なんざずっと前に済ませちまってる。第一そのヘンタイが、いつも俺のこと『先輩』って言ってたろ? ソイツの方が年上なワケねぇじゃねぇか」


「そっか……言われてみればそうだね。じゃあ『ギョクちゃん』なんて馴れ馴れしく言っちゃだめだよね、ゴメンなさい」


「あっ、いや。ソイツは別に、かまわねぇんだが……」


 思わずしゅんとしてしまうスズの前で、年甲斐もなくうろたえる元中年男である。

 成人男性としてのプライドをとるか、被保護者からの親近感溢れる呼び名を取るか……ギョクは未だかつて無い苦渋の選択を迫られる。

 そしてそこに、ヒトサマにお見せできないイロイロをようやく処理し終わったカガミが口を挟んだ。


「良いじゃないッスか、ギョクちゃんで。どうせ背格好で言えばスズちゃんと変わんないんだし。それどころか、数年もすればスズちゃんのがお姉さんに見られるかもッスよ?」


「ホント? 私、カガミさんたちみたいなお姉さんになれるかな」


「心配要らないッス。良く食べて良く寝ていれば、キッチリ成長するッスよ。……誰かさんとは違って」


「オゥ、待てゴラァ。俺だってしばらくすりゃ、ちゃあんと背ぇ伸びるに決まってんだろうが」


「成長期なんざとうに終わってるくせに、ナニ言ってんスか」


「それでも、希望だけは捨てちゃいけねぇんだよっ!」


 拳を突き上げて魂からの叫びを洩らす、ちみっ子魔法少女であった。

 ちなみにだが、コイツはこの姿になる前から、似たような発言をしばしば行っていた。成人男性としては低めの百五十そこそこの身長では、致し方のない悲痛な嘆きだ。



「それで、みんなってホントは幾つなの? 成人してるなら十六は過ぎてるんだろうけど……十八歳くらい?」


 純真な眼差しで問いかけるスズである。


「あぁ。それは……だな」


「なんと言いますか、ねぇ……」


 元の年齢の半分程度と推測された二人は、またもや言葉に詰まって顔を見合わせる。


(さて、どうしたものやら……)


 コイツ等だって、自分達の外見が果たしてどのようなモノであるかくらいは身にしみてわかっている。

 バカ正直に三十過ぎなんですと言ったところで信じてもらえるとは思えないし、信じられたとしてもそれはそれで微妙。三十路超えしてこのうら若き少女の姿を保っているだなんて、どんな妖怪レベルの若作りだ。




 そしてその時。果たしてどんな言い訳で誤魔化したものかと考えをめぐらせていた二人に、席を外している三人目から救いの手が差し込まれた。


 以前の中型のソレとは違い、御者席と完全に隔たれているこの馬車では、間にある小さな窓越しでなければ意志の疎通は図れない。

 その小窓が、本日の御者担当であるツルギの手によって叩かれたのである。



「ちょっと良いか。そのままでかまわんから聞いてくれ」


「どうした、障害物でもあったか?」


「仲間ハズレが寂しくなったッスか?」


 これ幸いと、ツルギに向かって注意を向けるギョク。思惑は同じカガミもいつもの調子で乗っかる。


「そうではないが……まぁ、そんなようなものだ。いや、寂しいとかじゃなくてだな?」


「いいからさっさと言え。何があった」


「うむ。先ほどから、森の中からこっちを窺っている輩がおる。多分だが、物取りか何かだと思うぞ」


 その発言に、一瞬で戦闘態勢に移ろうとする二人。だが、すぐに思い直し緊張を解く。ついでに思わず窓から森を覗こうとしたスズを、自然な素振りで座らせた。


「うひゃっ」


「スズちゃん、ちょっと大人しくしとこうね」


「ツルギ。相手はまだ、こっちが察知してるって事に気付いちゃねぇんだな?」


「応ともよ。オレ様がそんな手抜かりをすると思ったか?」


「はいはい、自画自賛乙ッス。……それで、どんな感じなんスか?」


「うむ。……この先を見てみろ。ちょっと遠いが、あそこで道が曲がっているのが判るか?」


 のんびりと手綱を握っている姿を崩さない騎士乙女が促す。

 外からは見られぬよう小窓から覗くギョクたちの視線の先には、はたして、言うとおりの地形が広がっていた。



 一行の馬車は、右手に見える森を迂回する道を進んでいた。そして、そんな暗い影が途切れる視線の先で、この道は大きく曲がっている。森の縁をなぞるように伸びているこの道は、あの角を曲がった先も、しばらくは木々の陰を横手に眺めながら続いていくのだろう。

 今の目的地であるハクトーの街は、この森から更に、丸一日程度進んだ場所にあるはずだ。



「襲ってくるならあの角辺りだと思う。曲がり角では車のスピードも落ちるし、森で視界も遮られる。待ち伏せには最適だ」


「ありえるな。さて、どうするか……」


「降りかかる火の粉には全力対処。それがオレ達の基本っしょ? どうしたんすか」


「それでもかまわねぇんだが……。なぁ、ツルギ。お前から見て、苦戦しそうな相手だと思うか?」


「ん? ……まぁ、ぶっちゃけオレ様一人でも余裕だろうな。あのバレバレな偵察からして、残りのヤツラもマトモな錬度とは思えん。こないだの狼どもの方が、まだ厄介なくらいだ」



 そんなツルギの言葉に、大きく頷き返したギョクは、


「そんじゃ、ちょいと付き合ってもらうことにしようか」


 そう言って、二人の冒険者仲間と密談を始める。



 さっきから一人置いてけぼりのスズは、時折自分に向けられる冒険者達の意味深な視線に、どことなく不安なモノを感じるのだった。

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 ※※完結済みシリーズ※※

つじつま! ~いやいや、チートとか勘弁してくださいね~  (旧題【つじつまあわせはいつかのために】)

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