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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第二章  四人になった少女愚連隊 新天地を求める  の話
21/80

02  『それは ある、別れの朝に』

接続障害で少し遅れましたが

本日分の更新です

 三人プラス一人の引越しは、実にスムーズに進んでいった。

 もともと気楽な宿暮らしだった三人。拠点を移すとは言っても、持っていかねばならない荷物など、そう多くは無かったのだ。


 それでもいくつかの書物は処分したし、一般に流通させるべきでない自作のアレコレを焼却処分することにはなった。大した荷物にならなかったのは、普通の女性三人組ならばある程度の量があったであろう衣服の類が、例の呪い的何かのせいで、各自大き目の袋一つ程度にカタが付いたのが大きい。

 そして、移動が決定してから数日のうちには全ての荷物の纏め作業が終了する。なんのかんので、身軽な男所帯の暮らしぶりであった。




 そんなわけで一行は、今、早朝の街門前広場に来ている。

 前回の護衛の旅のようにもう一度この街に返しに来ることが出来ない為、今度の馬車は大金を払って購入済みの大型三頭引きだ。そこに詰まれた様々な物資を一つひとつ確認しながら、カガミとスズは最後の準備を行っていた。


 いつも神官姿のカガミとは違い、今日のスズは、野外に適した服装一式を着せられている。

 ボタン留めのシャツの上に藍染の上着。腰紐で調節したズボンをすねの辺りまで布で巻き締め、底厚のブーツの隙間から砂埃が入るのを防いでいる。そして、端を赤糸に縁取られたフード付きの厚手ケープを羽織り、日差しや、いざという時の雨風から身を守るのだ。


 ちなみにこれらは、倹約気質なスズ本人には気が付かれぬよう、財を惜しまぬ完全個別注文によって買い揃えられた品である。

 十歳の少女に無理やり服を貢ぐ三人の中年。……まぁ、相手が遠慮がちで控えめな少女であるから、これくらい強引に買い与えたほうが良いのかもしれない。



「カガミお姉ちゃん。水と食料は大丈夫だったよ。どっちも十日分、ちゃんとあった」


「了解ッス。予定通りなら七日くらいで途中の村に着く予定だから、なんかあっても、そこまで保てばなんとかなるッスね」


「それじゃ、後は……。あっちが終わったら出発だね」


「そッスね。もうちょいかかるでしょうから、のんびり待ちましょうや」


 二人はそう言って、苦いものを混ぜながら笑い合う。

 少し苦笑気味に歪んでいるとはいえ、それでも美しさと可愛らしさをそれぞれの顔に宿した二人から送られる視線の先は、同じく二つの人だかりである。



 一つは、長身で切れ長の瞳を持つ騎士風の少女を取り囲む、なんとも露出の多い女性の一団。この街でツルギが贔屓にしていた、夜のお姉さん達の集団だ。

 彼女達は、店の上客であり、更に個人的にも好ましいと思っていたツルギが街を離れると聞き、せめてもの別れを告げにこの場に集まっていた。


 それぞれ多種多様な女性的魅力に溢れた集団の前で、ツルギはしばしの別れといつかの再開を約束している。

 甘い言葉を囁いたり、そっと指先に触れたり。自分に群がる十数人の女性、その一人ひとりの顔色と言葉を全能力を駆使して把握しながら、ツルギは対応する。君だけが特別なのだという印象を与えつつ、なおかつ全員に、公平に別れを済ませるのだった。

 そんなツルギの八方美人に気づいてはいるのだろうが、女性達も満足しているようなので、これはコレで良いのだろう。



「ツルギさん、モテモテだねぇ」


「まぁ。あの人は以前から、あぁいうのはマメでしたからねぇ」


 感心するように目を輝かせるスズに対し、元の世界でも数十分おきに来る膨大な数の営業メールに、過不足無く返事を返していたツルギの姿を思い出しながら、カガミは答える。


「でも、ホントに人気があるのはギョクちゃんの方なのかな。だって、ツルギさんは女の人ばっかりだもんね」


「いやぁ……あっちの方はどうなんスかねぇ」


 そして二人はもう一つの……というか、さっきとは別の種類の、と言った方が正確であろう集団に目をやった。



 そこに居たのは、ミニっ子魔法少女ギョクを取り囲む、むつけき男どもの群れ。「ギョクちゃんを見守る会」「ギョクちゃんになじられ隊」と書かれた謎のたすきを着けた、妙に汗っぽい集団である。

 この特殊な趣味を持った集団は、自分達にとっての癒しであり、日々の心の拠り所でもあるギョクが街を離れると聞き、矢も盾もたまらずこの場に集ったのである。


 それぞれ異様な男性臭をかもし出す集団の前で、ギョクは永遠の別れと二度と無い再開を口にしていた。


 近寄るなと罵倒したり、顔面にケリを入れたり。自分に群がる十数人の野郎ども、その一人ひとりの怪しげな挙動を全力で排除しつつギョクは嘆く。どうして自分にはこんなのばっかりなのか、俺は何も特別な事などしてないだろと叫びつつ、全員に公平に、コイツ等死んでくれないかなと願うのだった。

 そんなギョクの悲痛な叫びが届いているかは定かではないが、暴力を受けている男どもはどこか幸せそうに見えるので、それで良いのだろう。



「そう言えば、カガミさんには居ないの? お見送りに来てくれる人達」


「オレはあの二人ほど派手じゃ無いッスからねぇ。それに、スズちゃんと一緒ならそれで充分なんッスよ」


「そっか。……おそろいだね」


 少しだけ寂しそうに、それでも嬉しそうにスズは言う。

 この年の割りに頭の回転の速い少女は、今のカガミの台詞が、見送りに来る者の居ない自分を気遣った軽口であることに気づいている。気づいた上で、その気遣いを嬉しく思ったのである。


(私にはホントに誰も居ないけど、それでも、今はみんなが居るもんね……)


 スズはそう思い、傍らの神官乙女と笑い合うのだった。



 だが、彼女は知らない。この街の浮浪孤児達には一つの不文律がある。

 自分達の劣悪な環境を抜け出すことが出来た者に、彼らは二度と関わろうとしない。たとえ街のどこかで鉢合わせたとしても、決して言葉も視線も交わそうとはしない。

 それは、確かに嫉妬や悋気からの行動ではある。だがそれ以上に、二度と自分達の元へ戻ってくることが無いようにとの願いが篭る、孤児達なりのささやかな餞別でもあるのだ。


 だから、この広場を見下ろす外壁の隅に数人の孤児達が集まり、一方的な別れを送っていることをスズは知らなかった。そして気付いているカガミも、そんな孤児達の心境を伝え聞いているが故に、スズに教えることは無かったのであった。




 しばらく後、一行を乗せた馬車は街門をくぐる。

 何時までも続くかのような女性達のすすり泣き混じりの別れの声と、筆舌尽くしがたい何者か達の慟哭に見送られ、住み慣れた街を後にした。


 三人にとっては半年ほど過ごした街。スズにとっては、これまででもっとも過酷な数年を生きた街であり、母と死に別れた街との離別であった。



「旅立ちの空は、いつも新しい別れの空……か」


「ギョクちゃん、それ、なぁに?」


「なんでもねぇよ。ただ、なんとなく思っただけさ」


「気にするなお嬢。いきなり詩人ぶるのはコイツの悪いクセだ。気持ちが悪ければ、遠慮なく言うが良いぞ」


「あんだとテメェ」


「ツルギさん、お嬢じゃなくてスズだってば。それに、私は今のギョクちゃんの言葉、ちょっと素敵って思ったよ」


「ほぉれ見ろ。お前やカガミみてぇな、ただれた精神のヤツにはわかんねぇ機微ってモンがあるんだよ」


「ふぅむ……こりゃ不味いぞカガミ。いつの間にかギョクの良くわからん感性に、スズが汚染された可能性がある」


「誰が謎ポエマーだ、このヤロウ!」


「何でも良いッスけど、荷物あるんスから暴れないでくださいね。あと、ツルギ先輩はオレを巻き込もうとしないように」


 神官乙女の操る馬車は、ゆっくりと街を離れていく。

 一行の前に待ち受ける、新たな出会いと別れの日々に続く道を、少しずつ確実に進んでいくのであった。



§§§§§


§§§


§



 時に。本当にカガミには、見送りに来ようとする相手は居なかったのか?

 実際のところ、コイツがヤーアトを離れると聞いたとき、少なからず衝撃を受けた者たちは存在した。日頃から誑し込んでいた、教会の乙女達がそれである。

 しかも彼女達の中には、


「カガミお姉さまが居なくなる? ……わかりました。では私もこのナイフで喉を突き、お姉さまとの愛に殉じます」


 レベルにまで突き抜けた者も居たはずなのだ。

 だが、カガミは後にこう語る。


「オレはその辺、ちゃんとしてましたからねぇ。土壇場まで渋られるような、そんなヘマはしないッスよ」


 引越しが決まった時点で、寝る間を惜しんでは一人ひとりと会い、二人きりでキッチリと説き伏せた。時に現実をつきつけ、時に自分が悪者になってまで、彼女達を納得させてまわったのである。


 このカガミの行動を、マメと捉えるか人でなしと捉えるかは意見の別れるところであろう。

 とは言えそんな地味な活動の甲斐あって、カガミをいろんな意味で慕っていた神の子羊たちは、それぞれ自分の部屋でひっそりと別れの言葉を口にしていたのであった。



 まぁなんと言うか。

 この神殿の指導者達は、神の教えを伝えるよりもっと前に、シスター達に叩き込まなければならない何かが存在するのではなかろうか、ということである。

 例えばその……タチの悪い結婚詐欺に引っかからないようにする心構え、とか。

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 ※※完結済みシリーズ※※

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