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中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者  作者: 明智 治
第二章  四人になった少女愚連隊 新天地を求める  の話
20/80

01  『それは 新天地へのいざない』

お待たせいたしました

本日より、第二章開始いたします

「そろそろ……。拠点移すかねぇ……」


 ある日のお昼過ぎ。仲間内だけの気楽な昼食を済ませ、部屋でのんびりしていた時のことである。この部屋の主である三人の美少女冒険者の一人、ギョクは、あえて誰に言うでもなく呟いた。



「なんスかいきなり。なんか問題でも起きましたっけ?」


 窓際の椅子に腰掛け、手にした魔法書をパラパラとめくりながらそんなことを言うギョクに、カガミはベッドに横たえていた体を半分だけ起こしながら返す。

 いくら食べても不要な部分に肉が付かないという、大多数の人間に羨望と憎悪を向けられる体質のカガミは、食事を終えて部屋に戻ってからずっと、柔らかなシーツの感触を楽しみながらゴロゴロしていたのだった。


「そんなんじゃねぇよ。特に何かあったってワケじゃねぇ。ただ、こないだの探索で、この辺のめぼしい遺跡は一通り見てまわっただろ?」


「そうっすねぇ。っても、金にはなったッスけど、収穫はありませんでしたねぇ」


「そう。何もなかったんだよな、俺達が元の世界に戻る手がかり。だからここは、いっそ別の地域に行ってみるべきなんじゃねぇかと思ったわけだ」


「なるほどッス。……ちなみに候補は?」


「中途半端に近いトコじゃあ意味無いだろうし、王都あたりまで足を伸ばすのはどうかって考えた。あそこ周辺は、まだ行ってない場所だらけだからな」


「王都イズクモ……ッスか」


 ギョクが、その形の良いアゴに人差し指を当てつつ出した候補地に、カガミもベッドの上で頬杖をつきながら思いをはせる。二人揃って絵になる仕草なのが、なんとも恐ろしい事実である。




 現在三人が生活の場としている、通商の街ヤーアト。そこから馬車で半月ほどの場所に、王都イズクモは存在する。

 比較的穏やかな気候を有するこの国は、近隣諸国に比べて人口も多い。その国の首都という位置づけなのだから、集まる人や物、そして情報の数もそれなりのモノがあるだろう。元の世界に戻る手がかりを集めるという視点で言えば、確かに有益な判断だといえる。



 そもそも、三人がここしばらくヤーアトの街を拠点として冒険者活動をしていたのも、この街周囲の遺跡を探索するためであった。

 モンスターの発生場所とみなされる遺跡の類は、その実質的な管理を冒険者ギルドに委ねられている。その為、ギルドは常に、冒険者達に遺跡でのモンスター討伐を依頼し続けていた。


 この、唯一ギルドが依頼主となる依頼。定期討伐という依頼を受けなければ、発見済みの遺跡をうろつく事は出来ない。一般的な冒険者達では到底気付かない、秘密の隠し扉や謎の装置なども容易に察知できる三人であったとしても、この依頼を受けなければ、そもそも遺跡に入る事すらできないのだ。

 よしんばこっそり入り込めたとしても、誰かに見咎められれば、即座に指名手配に近い扱いを受ける。


 そんなリスクを犯すくらいならば、最初から冒険者として真っ当に入り込んだほうがマシだ。元の世界に戻る手がかりを探すという目標のあるギョクが、他の二人に付き合って冒険者などというヤクザな家業に身を置いているのには、そんな理由もあったのである。



 そして今、このヤーアト周辺にある大小さまざまな遺跡の探索も終わり、何も手がかりを得られないという結果となった。

 ギョクが移住を提案するのに、不自然のない状況である。


「そっすね、オレには反対は無いッス。……ツルギ先輩はどうッスか?」


 しばし悩んだ後、カガミはそれまで沈黙を保っていたツルギに水を向ける。ダラダラしていた二人同様、脳組織を筋肉に侵食されかけているこの元ゴリマッチョ系中年にして現スレンダー美女も、先ほどからずっと、長いすに腰掛けては体を休めていた。


 コイツの堪え性の足りない感性では、こんな風に時間が空いたのであれば筋トレの一つもはじめたいところである。だが、少しでもスポーツ科学の知識をもっている人間ならばご存知の通り、食後すぐのトレーニングはかえって有害であることの方が多い。

 この世界に来る以前から地道なトレーニングを欠かさず「キレてる!」が最高の褒め言葉であったツルギも、もちろんこの原則くらいは承知している。それゆえ、以前とは方向性の違う美しさである少女の肉体に宿ってからも、最低でも食後二時間は体を休めるように心がけているのである。まぁ、至極どうでも良いこだわりだが。



「ふむ。この辺りの地理が良くわからんから何とも言えんな。そもそも何処に行ったところで、オレ様は自分のやりたいようにやるだけだ。その王都とやらで、新たなオレ様の伝説を築くのも悪くはないだろう」


「んじゃ、ツルギ先輩も賛成ってことッスね。全員が賛成なんスから、王都行きで決めちゃっても良いんじゃないッスか?」


「まてまて、もう一人居るだろうが。スズがココを離れたがらんかったらどうするつもりだ」


「そりゃ無いんじゃないッスかねぇ、ギョク先輩。あの子はオレ達が行くって言ったら反対しないでしょ。それに、この街に良い思いもなさそうですしね」


「そうなのか?」


「うっす。これ、ちょい耳に挟んだコトなんスけど……」



 カガミは先日、日課の教会参りで聞き及んだスズの噂について語る。

 この街の浮浪孤児で、成人とされる十六歳まで生きながらえる者はほとんど居ない。ある者は怪我や病気で、またある者は暴力沙汰に巻き込まれて。そして少なからずの者たちが、非合法な組織に利用されてその命を落とすという。


 だが、そんな孤児達の中で、例外的に長く生き続ける者がいる。それは少しでも見目の良い少女、もしくは顔立ちの良い少年達。その者たちは、自身の肉体という資源を利用し、この薄暗い社会の中でも比較的安定した生活を続けることが出来るのだそうだ。


「待て、そんじゃお前。スズもそういうのに手ぇ染めてたって言いたいのか?」


「ちょ、早とちりしないでくださいッス。スズちゃんは、その手の仕事はしてなかったらしいですから」


「そ、そうか……。いや、スマン。我ながら焦った」


 と、浮かしかけた腰を下ろす。羽毛にすら喩えられる小柄な体に、それでも安モノの椅子は、ギッと音を立てて軋む。

 なんとなくだが居心地が悪くなり鼻頭を掻くギョクに対し、ツルギは何時に無く厳しい目を向ける。


「ギョク。お前さんの趣味をどうこう言うつもりは無いが、性を売る仕事を十派一絡げに眉をしかめるというは、それはそれでどうかと思うぞ。それで必至に生きている者達に、お前はそんなことをする位なら死ねと言いたいのか?」


「そこまでは言わねえよ。……けどさ、あんな年の子どもがってのは、やっぱ違うだろ」


「そうは言いますけどねぇ……。そうでもしなきゃ生きていけないってのが浮浪孤児達の現状でもあるんスから、まるまま否定するのはやっぱり違うッスよ。オレ達でどうにかしてあげられるワケでも無いっしょ?」


 二方向から放たれる、ぐうの音も出ないほどの現実という正論に、ギョクは思わず顔を背ける。


「……分かった。悪ぃ、俺の失言だった」


「ういッス。……んじゃ続けるッス。ったく、キモはこの後なんスから、早漏は抑えといてくださいよ」


 少しだけ重くなりかけた空気を攪拌するように、ギョクは軽口を挟んで話を続ける。二人も、そんな後輩の露骨な気遣いに鼻を鳴らして苦笑した。




「この街の教会には、いわゆる孤児院みたいなのは無いんスよ。その代わり、数日置きに孤児たち集めて炊き出しをやってる。で、オレの知り合いのシスターが、そこにスズちゃんがよく来てたのを知ってたらしいんス」


「なるほどな。お嬢は、そうやって食い扶持を確保しておったのか」


「みたいッスね。で、その時のスズちゃんは、どうやらいっつも一人だった様なんス。浮浪孤児も、自分達の中でグループ作って生きるのが普通ですから、そういう意味で目に付いたって言ってました」


「苛められてたってことか?」


「微妙に違うっスね。ホラ、スズちゃんって……けっこう見れる顔してるでしょ? で、さっき言ったように、普通そういう子はあの年くらいになれば客を取るのが普通なんス。それなのに、スズちゃんは仕事をして、仲間に金を落とすことが出来なかった」


「なるほどな……切り捨てられたか」


 カガミとは違った意味で、女性というものをよく知るツルギがそう洩らす。

 自分達が身をすり減らして行っている仕事を拒否し、それでものうのうと生きているスズの姿が、ある種の少女達には、お高くとまっていると映ってしまったのであろう。


「スズちゃんは、単に体を売るのが怖かったから出来なかっただけらしいんですけど、それでも良い顔はされませんよね。そういう訳で、あの子はこれまで一人で、教会の炊き出しだったり街でお零れ拾ったりで生きてきたらしいッス」


「そう……だったのか……。そう言えば、俺達と一緒に生活するようになってからも、友達と会っている様子なんかは無かったな。そもそも仲の良い相手が居なかったのか」


「ふむ……。だがまぁ、今さらオレ様たちが深刻な顔をしてもはじまらん。ココは一つ、スズが街を離れるに、問題が無いことだけを考えておけば良かろうよ」


 なおも心痛に眉を寄せている小さな魔法少女に対し、ツルギはあえての大声で言う。竹を割ったような性格のこの元中年美少女は、これからのスズが楽しく生きられるのならば良いだろうと笑い飛ばした。

 そして、意図的な楽天的思考を得意とする神官乙女が、ちょっと毛色の違うニヤッとした笑みを浮かべる。



「そうッスね、障害が無いのは良いことッス。……良かったじゃないッスか。これでギョク先輩が考えてたように、スズちゃんを王都の学校に通わせてあげられるッスよ」


「ちょっ!? なんでお前っ!」


「ギルドのお姉さんに言われたんっしょ? あの子の将来考えるなら、一度きっちり教育受けさせたほうが良い。冒険者になるにしてもならないにしても、学の有る無しで選択に違いが出るから、って」


「ほほぅ、そのようなことを考えておったのか。それならばそうとはっきり言えば、オレ様もすぐに賛成したというのに」


「それ突っ込むのはヤボッスよ。なんだかんだで、あの子の事を一番しっかり考えてるのが自分だなんて、ギョク先輩は認めたく無いんスから」


「うっせボケェ! それ以上口利いてンじゃねぇ!」


 熟れきったリンゴのような顔で飛び掛るゴスロリ少女。対する二人の美少女達は、実にイヤらしい、ニヤニヤとした表情を崩さない。


 その後、洗濯に行っていたスズが戻ってくるまで、三人の見た目だけは乙女達の、微笑ましいじゃれあいは続いていくのだった。

 まぁ……中身は……だけれども。

お読み頂きありがとうございました。


予定通り、二章完結までは

毎日お昼頃に更新の予定です。

それ以降は要検討ということで。



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もし宜しければ『読んだぜ。』だけでも結構ですので、

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 ※※完結済みシリーズ※※

つじつま! ~いやいや、チートとか勘弁してくださいね~  (旧題【つじつまあわせはいつかのために】)

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