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~まちでうわさの三人娘~

注:R15は保険です。

いわゆるB/L(男性同士の恋愛)要素はありません。主人公達の精神は、終始一貫してオッサンのそれです。

いずれかのキャラクターに女性とのごにょごにょがあったとしても、主人公達はあくまで男性として世間と接しています(一部例外あり)。

その為、視覚的にはG/Lや百/合(共に少女・女性同士の恋愛)に見えなくも無いシーンがあったとしても、現状、同様の理由からキーワードには設定しておりません。



8/23 一部台詞改定

 とある酒場の片隅で、薄汚れた男達が酒を飲み交わしている。


 まだ昼を少しまわったばかりのこんな時間から、酔いに任せ大きな笑い声を上げているその様は、決して真っ当な者たちのソレではない。

 だが、この店に限っては、そんな男達を咎めることはありえなかった。


 なぜならばここは、乱暴者と無鉄砲の集う店。世に蔓延るモンスターを狩り、危険に満ちた遺跡を徘徊する者たちの憩いの場。世に言う、冒険者の店なのだから。



 彼らもそんな冒険者の一団。数日に渡る危険な依頼を完了し、久方ぶりの休養日を堪能していたのだった。


 むさくるしい男だけの集団で、更に酒が入っているとなれば、おのずと出てくる話題も限られる。


 昨夜訪れた娼館に新しく入った新人が中々の具合だっただの、行きつけの飲み屋で給仕をする娘の腰つきがどうだの……女性のみならず、男だとしても健全な暮らしを営む者ならば、思わず眉を顰めてしまうほど下世話な話題が飛び交っていた。




 そんな折、一人の男が口にする。


「――じゃあよ。今、この街にいる同業の中じゃ、どの女が一番だと思う?」


 そんな何の気ない質問で、喧々諤々の議論が始まった。その内容は、どう取り繕ったとしても失礼極まりない女性蔑視に塗れたモノであったが、それでも白熱しているという点に関してだけは評価が下せる。



「やっぱ、一番はツルギちゃんだろ。あの黒髪。そして腰つき。見てるだけでたまんねぇぜ」


「わかる。気の強そうな目つきも、またグッとくるんだよなぁ。姫騎士って言うんだっけか、ああいうの。後ろっからヒィヒィ言わせヤリてぇぜ」


「だな。まぁオレより背が高けぇってのはちょい気にくわねぇが、あの体なら文句はねぇ。なんったって乳がでけぇしな、一度挟ませてもらいてぇモンだ」


「テメェの爪楊枝をか? ヘタすりゃ出すもん出す前にへし折れんぞ。……それよか、オレはカガミちゃんを推すね。お上品にとまったあの顔をよぅ、こぅ、ぐちょぐちょにしてぇな」


「何気にあの娘も良い体してんだよなぁ。ツルギちゃんほどデカくはねぇが、丁度良くむっちりした感じが清楚な神官服とあわさって……な」


「露出が低いのもグッとくるよな。押しに弱そうにも見えるし、ちょいと頼んでみりゃ、意外と簡単に股ぁ開くかもしれねぇぞ?」


「無理無理。テメェみたいなケダモノが声かけようモンなら、ビビッて泣き出されんのがオチだぜ。……いや、そういうのを力ずくってのも、アリっちゃアリか?」


「オイオイ、マジでやるなよ? 無理ヤリなんざやっちまった日にゃ、この街を拠点に仕事が出来なくなる、危険思想は頭の中だけにしとけ。……それよか、オレはギョクちゃんが一番だと思うがな」


「黙れロリコン。結局テメェが一番危ねぇじゃねぇか」


「違うっ! 確かにギョクちゃんは背もちっこいし胸も無いが、冒険者の資格を持っている以上立派な成人だ。というかだ、むしろ無いのが良いんじゃねぇか」


「オマエ……。うすうす思ってたが、ホンモノだったのか……」


「いや、ソイツの言うとおり、彼女は立派な大人だ。たとえフリフリのドレスしか着なくても、ヤバイくらいにツインテールが似合ってても、それでも年齢的には確かに大人だ。だからこそ、大人の女性として扱って何の問題がある」


「流石だ……。わかっているようだな、同志よ」


「あぁ。俺達はギョクちゃんを見守る同志。乳がでかいだけの年増なんぞに目移りはせん」


「ンだとてめぇ。ツルギちゃんは胸だけじゃねぇ、尻もでけぇんだっ! そのくせあの腰のくびれっぷりだぞ? 中途半端なカガミなんぞと一緒にするな」


「オゥゴラ……ソレ言ったら戦争だろうが。カガミちゃんのわがままボディとゆるふわ愛されスマイルが理解できねぇのは、ギョクなんて生意気なガキを持ち上げる変態だけで間に合ってんだよ!」


「誰が幼児愛好家だコラァ! ギョクちゃんは立派な大人、見た目の問題じゃねぇんだよ」


「そうだそうだ! それにギョクちゃんは生意気じゃない、ちょっと背伸びしたおしゃまさんだっ!」


「……んじゃあテメェ等、ギョクちゃんが大人の体つきに成長したとしても、文句はねぇのか?」


「いやいやいやいや」


「それはそれ、これはこれ」


 果てしなくどうでも良い議論を男たちは続ける。それでもその話題に上がり続けるのは、件の三人の少女のようだった。

 ツルギ、カガミ、ギョク。この国ではあまり聞かない響きを持つその名前を、男たちは何度も口にしている。




 男達の下世話な会話を聞くでもなしに聞いていた酒場の店員は、会話の内容はさておき、その三人の名が出続けていることには納得を覚えていた。


 彼もよく知る三人の少女たちは、半年ほど前からこの店に顔を出す馴染みの客。そして、この酔客たちが話題にするに無理もないほど、類まれな美貌の持ち主だったからだ。



 抜群のスタイルにキツめの面差し、長い黒髪を一つに束ねた女剣士、ツルギ。

 柔らかな金色の髪、それと同じくふわりとした装束で、たおやかな肉体を包む女神官、カガミ。

 そして、生意気そうなツリ目と月光を結晶化したような銀髪、そこにフリフリの黒いドレスを好む女魔道士、ギョク。


 この街を拠点に動く者たちの中で、彼女たち三人は極めて人目を引く美少女で、そしてそれ以上に将来有望な冒険者だった。

 一人だけでも目立つそんな存在が、いつも三人でパーティを組んでいるのだ。これに注目せずに誰を見ろというのだ。


 店員は、なおも続いている酔っ払いたちの下世話な話を聞き流しつつ、その脳裏に三人の姿を思い浮かべるのだった。





「……オィ。テメェが無駄に目立つせいで、好き勝手言われてんぞ。ウドの大木」


 だが、男たちは知らない。自分達の大声が、宿屋も営むこの店の二階にまで届いているということを。



「知らぬな。それに、あぁいうのは好きなように言わせとけば良いものだぞ? 大きいお友達のおともだち」


 そして店員も知らない。噂の三人が、自分の勤めるこの店に昨晩から部屋を取っているということを。



「ククッ……。二人とも大概ディスられてるッスねぇ。笑うしかないってヤツ?」


「テメーこそ黙ってろ、雰囲気詐欺」


「そうだ。キサマに言われる筋合いはない、エセ癒し系」


「うわ、ひっど。このオレに向かってンなこと言うヤツ、先輩達以外に居ないッスよ?」


 そして、誰も知らなかった。この三人が、自分達の思うような存在ではないことを。

 国中の誰もが知らなかった。この三人がとんでもない秘密を持っているということを。



 この三人の見目麗しい少女の魂は、見た目どおりの美しい少女のソレではない。


 こことは異なる世界で、全く別の人間として生きていた者たちが、何の因果かこの世界に連れてこられたことを。そしてなぜか、この美しい少女へと姿を変えられてしまったのだということを。

 元々の三人の姿はこれほどに美しいモノではなく、それどころか、女性ですらなかったということを知らなかった。



 ツルギ、カガミ、ギョク。もと居た世界でも互いにそう呼び合っていた三人が、実はそれぞれ三十過ぎの中年男性であったことを……。


 そんなおぞましくも恐るべき事実を、この世界の誰もが知らなかったのであった。

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