別次元からこんにちわ
プロローグ的な短編です。オチヤマなし。時間を無駄にしていいという方だけどうぞ。
時ははるか未来、人類が宇宙に進出しておよそ千年の時間が流れた。地球を起源に持つ人類は様々な惑星に進出し、多くの未開惑星を開発。それだけでなく様々な知的生命体との接触、交渉、時には戦争などを多くの手段を使い、銀河を代表する生命体としての立場を確立した。
「ぐぎぎぎぎぎぎ……」
そんな未来のとある惑星の首都にて若者がとある店で唸り声をあげていた。
「買うべきか……、それとももう少し待つべきか」
空中に浮かぶエアスクリーンを見ながら彼はぶつぶつとつぶやく。
そんな彼にニコニコと店員が話しかけてきた。
「カガ様。こちらの商品は多くのお客様からご注文が入り品薄となっております。お買い上げになるのであれば今を置いてないかと」
「わかっちゃいるんだけど、基本五年一落ちだろ? 五年で元をとれるだけの機能があるかどうか」
「いえいえ、こちらでしたらあの、ガディアンコーポレーションが現在ある科学技術の全てをつぎ込み、次世代をを担う船として発売された最新鋭機となっております。主なスペックとしては主砲四連ファオスレーザー、重力変換装置、それに伴う小型重力レーザー、さらに荷電粒子砲。物理に関しては、ベルマック鉱石による二連レールガンを初めとした多くの攻撃手段があり、対物理及び粒子防護膜は公式において第二位の記録を持っております。また燃料に関しては」
「現在発見されてるほぼ全ての燃料に対応。また宇宙においてはダークマターを取り込み半永久的に稼働、さらに食糧プラントにおいては宇宙に漂うチリなどを取り込み多種多様な食糧を生成可能。約四千種の言語解析機能があり、衣服などの生産も可。自己学習機能においてスペックはさらに向上。また船を取り換える時、心臓部を入れ替えることによって学習したことをそのままに船体のスペックアップも可能。俺がどれだけカタログを見ていたと思っているんだ」
ついでに言えば全長198メートル。最大幅67メートルの小型艦である。これは、はるか昔であればかなりの大型艦であるが、宇宙規模、いや銀河規模で考えれば相当な小ささだ。現在最大の船と言えば全長一万キロを超える超大型艦があるくらいである。
最新技術をこの小ささにおさめたというのもこの艦艇の売りの一つでもある。ただしさすがに大気圏を脱出できるだけの機能はつけていない。惑星に降りるとき、または出る時は艦艇に搭載された小型シャトルを利用するのが常識である。
形としては三角形のフォルムの形をしており、真ん中あたりがややふっくらとしている。カラーは様々な種類があり、迷彩柄から黒一色、あるいは金色など多種多様である。
「これは失礼いたしました。それでどうなさいます? すでに注文が殺到しておりまして、こちらとしては嬉しい悲鳴ですが」
あははは、などと朗らかに笑う店員。
二人の会話からわかるように、この店は宇宙船を扱っている店である。すでに人類が宇宙に進出してはや千年。宇宙船はすでにはるか昔に地球で使われていた自動車感覚で一般人でも頑張れば手が届く範囲にコストダウンしていた。
ただし、カガと呼ばれている男が購入しようとしているのは、商業用のそれも最新の宇宙船である。値段は一般人が届くような代物ではない。
彼の名前はヤマト・カガ。遺伝的には地球種族である。
現在の年は二十四歳。さっぱりとした黒髪に、緑色の瞳。
顔つきは頬がすっきりとしていて目つきはやや鋭い。特徴としては眉間の真ん中に小さなほくろがあるくらいだ。
体つきはいかり肩で、体格がよく見えるスタイルをしている。身長百七十八センチ、体重六十八キロ。服の上からではわからないがかなり鍛えられている。
そんなヤマトがなぜ最新鋭機の宇宙船を購入しようとしているのか、それは彼の職業に由来する。
彼の職業は惑星ハンター及び、運び屋兼発掘屋である。
要するに広い宇宙を当てもなく彷徨い、現在銀河連邦が把握している種族が住めそうな星を見つけては報告して報奨金をもらう。さらに報告する前にその星に貴重な資源が眠っていればちゃっかり頂戴しつつ、広い宇宙を彷徨うついでに色々と届け物を行うという何とも不安定な職業だ。
すでに千年の歴史のある宇宙史において銀河のほぼ七十パーセントはすでに調査済みで未開惑星を見つけるのは相当困難な状況となっている。この上さらに未開惑星を発見したいのであれば外宇宙に目を向けるしかないのだが、さすがに今の宇宙科学では外宇宙に進出するのはまだ難しい。
よって彼の収入は基本運び屋が主な収入となっていて、最新の宇宙船を買うなど夢のまた夢となっている。
だが先日その夢が現実となった。というのは簡単な話で、運び屋の仕事をしている最中に偶然未開惑星を発見したのだ。さらにその星は資源の塊であった。多くのレアメタルが眠っていることが分かり、早速銀河連邦に報告。
未開惑星発見時、知的生命体が存在しない限り採掘資源の四十パーセントは発見者に与えられることになっている。残りは銀河連邦の権利になる。その代わり報奨金は莫大なものとなるのだ。
ただしそれでも最新の宇宙船を買う額にはとても届かない。そこで彼はその四十パーセントの権利をとあるメガコーポレーションに売ったのだ。権利を持っていたとしても惑星の四十パーセントの資源を引き上げるための投資金などなんの後ろ盾もない二十四歳の若者に持っているはずがない。宝の持ち腐れである。
メガコーポレーションの方も銀河連邦のお墨付きならとすぐに買い取ってくれたのだ。その上自分達のメーカーの船ならば三割引きで購入できるという特典つきである。
本当に清貧を旨として食って寝るだけの暮らしをしていけば一生何もせずに食っていけるだけの額ではあるが、そんな生活我慢できるわけがない。色々と遊びたいし、結婚だってしてみたい。他にもいろいろやってみたいことがたくさんあるし何より地上の生活より宇宙の生活のほうが刺激がある。
そんなこんなで現在に至るというわけだ。
「それでいかがなさいますか?」
店員が相も変わらずニコニコと話しかけてくる。
「今買えば何か特典はつくのか?」
三割引きで買えるというのにさらに何かを要求するセコイ性格である。
だが店員は機嫌を悪くする様子はない。
「そうですね。多少の攻撃機能をもった偵察用の小型衛星を外部取付用に装備させておきますか。それと高性能の惑星表面探査機能もサービスします」
「もう一声!」
「わかりました。上からもできるだけ便宜を図るようにとのことですので、整備用と作業用のロボットもつけておきます」
これは未開惑星の採掘資源の権利を売ったことによる特典サービスである。
「人工知能つき?」
「カガ様。さすがにそこまでいくとアンドロイドという事になってしまいますので」
「だよなあ、さすがにアンドロイドまでは無理か。うん、よしこの条件で買おう。即金だ」
「わかりました。ありがとうございます。今後ともガディアンコーポレーションをよろしくお願いします。ではご購入という事で、手続きのほうを」
などとやり取りをして、約一週間。大気圏脱出用のシャトルを利用して、この星の宇宙ステーションに到着。さっそく自分の船を見に行くと完璧に整備された最新の小型宇宙艦艇ががそこにあった。
「おおおお……」
などと思わず感嘆の吐息が漏れる。
「こ、これが今日から俺の船であり、家になるのか……。ううう」
などと思わず涙が出てしまう。宇宙で生活する者にとってはまさに最高の瞬間だろう。
早速入口へと向かう。198メートルもあるので出入りハッチは多くあるが、ヤマトはそれを使わない。
「転送。場所操縦席」
『遺伝子情報確認。これより転送を行います』
頭の中で機械音が響き、ヤマトの体が光に包まれる。
一瞬浮遊感を感じたが、次の瞬間宇宙艦艇の操縦席にヤマトは立っていた。
目の前にある巨大なスクリーンと多くの機械類。すぐ後ろにはすさまじく座り心地がよさそうな椅子が鎮座している。
「転送機能すげえ……。マジか前の燐感丸とは全然違う。はははは……ははは。はははははははは!」
後ろにある椅子にすべての体重を預け大声で笑うヤマト。あまりにも感動して笑いしか出てこないのが現状彼の気分を現している。
『マスター情報確認。初めましてマスター。私はこの船の人工知能。ガディアン・リサ型第六世代です』
「お? おおおお!」
ヤマトが馬鹿笑いしていると再び頭の中に声が響く。
「ああ、そう言えば手続きの時にチップを右手の甲に入れたんだっけ」
いわばそのチップがこの船の鍵であり、そのチップを通して転送や頭の中での会話というシステムになっている。
『はい、チップを通してマスターの遺伝情報が確認されました。今後この遺伝情報によりマスターかそうでないか判断いたします』
「すげえ……おおおお」
などと再び感動の嵐が吹き荒れる。
「これからよろしくな……えっと」
『ガディアン・リサ型第六世代です』
「ガディアン・リサ? ん? 女性設定?」
『否、リサは私の開発者からとった名前です』
「ああ、そういうことか。んじゃあ名前考えないとな……そうだな。前の船が古代地球日本の船の名前をもじってつけたから今回もそれでいくか?」
『マスターのお心のままに』
「いや、なんかお前を呼ぶときにいちいち何とか丸っていうのも長ったらしいし……。よし決めた。お前の名前はアカギ。今日からお前はアカギだ」
『情報確認。ネーム了解。これより私はアカギ。ネーム由来の情報検索。古代地球日本における戦艦及びさまざまな古代日本漫画におけるキャラクターネーム』
「ちょっと待て! 何を検索している! 戦艦はともかくそっちを検索するな! なんつう情報を入れてんだよガディアンコーポレーション……まあいいや。では早速出発と行こうか」
『了解。錨を上げます。ほら貝を鳴らします! 面舵いっぱーい!』
「ふぁッ? 錨なんてついてないだろ! ほら貝も!」
『単なる比喩表現です。マスターを楽しませるためにお茶目機能もついておりますので』
「どんな機能だ! 無駄すぎるだろ!」
『孤独な宇宙生活においては必須です。多少の娯楽がないと精神的に参ってしまいます。そのためにつけられた機能です』
「ああ、そうなのね。いやまあ確かに一人身の独身の宇宙旅は精神的に来るものあるが」
『早く結婚相手が見つかるといいですね。私が姑としていびってあげたいです』
「余計なお世話だよ! つか、姑ってお前やっぱ女性設定だろ?」
『否。私は機械ただの機械』
「ほんとすげえなガディアンさん……」
とまあそんなこんなで、アカギとヤマトは宇宙へと旅立つのであったが……。
「どこだよここ……」
『時空ワームに巻き込まれて脱出したと思いきや青い空。完全に大気圏内ですね』
「いやそれは分かるんだが……時空ワームから脱出できたのは驚きだけどさ」
時空ワームとは突如宇宙空間に発生する空間の歪みである。一説にはブラックホールの一種と言われているが今の科学ですら解析不可能であり、巻き込まれた場合の生還確率はおよそ十二パーセント。
ゆえに普通は巻き込まれないための空間認識装置が半径60万キロ以上をカバーし作動しているのだが、試運転も兼ねて色々試していたところに突如発生。死んだと思ったのだが、アカギが『この程度造作もない』と言い放ちすぐに脱出。さすが最新型なのだが、脱出した先がいきなり青い空がある星だ。
完全に大気圏内である。アカギは大気圏内でも問題なく航行可能だが先も言ったように大気圏を脱出できる機能はない。昔はよくつけられていたのだが、いまや宇宙の常識として宇宙艦艇は惑星軌道上にある宇宙ステーションに駐留し、そこからシャトルで降りるといのが一般的であり、未開惑星の場合は備え付けのシャトルを利用するのが普通なのだ。
むしろ宇宙艦艇に大気圏脱出機能をつけていた場合間違いなく骨董品である。宇宙艦艇に大気圏脱出機能がついていたのは七百年も昔の話だ。一部のロマンを求めている人やコレクターなど除いてそのような機能をつけている人などほとんどいない。
「で? ここはどこの星なんだ?」
『解析終了。データに存在していませんね。次元解析終了。別次元の星の可能性98%』
「別次元!? おいちょっとまて? じゃあ救援は?」
『信号は出しています。ですが運よく拾ってもらえるかどうか』
「マジかよ……。せっかく最新機を手に入れての俺の宇宙生活が」
『ついでに次元干渉法に引っかかる可能性もありますが、この場合は仕方ないでしょう』
次元干渉法とは、別次元に出来うる限り関わらないための法である。すでに別次元の存在は観測によって少数ではあるが確認されているが、不用意に干渉して次元接触をどちらかの世界または両方の世界が消滅してしまう恐れがあったので今は、お偉い科学者たちが必死に解析を行い安全に接触できる方法を模索している最中である。
その科学を個人レベルで勝手に悪用されたらたまらないという事で徹底的に厳重管理されていて、もし勝手に扱った場合悪意がなくても問答無用で死刑である。
だが宇宙においてたまに時空ワームに巻き込まれ場合においては例外である。実際に過去に時空ワームに巻き込まれて別次元から帰還したものも数えるほどだがいるのだ。
そしてそれが別次元の観測として成り立ち科学者たちが目の色を変えたのである。しかし別次元の確認及び観測が出来たのは、その数例のみ。
現在ヤマトたちがいる次元が銀河連邦によって確認されている次元かどうかその判別はさすがに出来ない。
「まあ、ともかくだ。とりあえずここがどんな星か確認しないと。地表スキャンは?」
『すでに解析済みです。知的生命体らしき存在も確認』
「お? 未開惑星ではないか。ラッキーだな。ある程度科学が発展していれば助かるんだが。まさか俺らより発展しているってことはないよな?」
『その可能性はかなり低いと。海を渡る船が木造で出来ています』
「……え? 木造? 木造って? え? 木? 木で海を?」
『是。あとこちらは兵隊でしょうか。青銅及び鉄。中にはマッカラ鉱石やローファー鉱石を加工した剣などふっている様子が見られます。スクリーンに映しましょうか?』
「ありゃ? すげえレアメタルの名前が出てきたんだが? それを剣に加工? つうか剣って……まあいいや取りあえず映してみてくれ」
ヤマトがそう頼むとスクリーンに馬に乗って剣をふって戦っている大勢の兵が映った。一方は青色を中心とした鎧を着ており、もう一方は白い鎧を着てお互い剣や槍を突き付けている。さらに炎や氷が飛び交いそれが地表に着弾するたびに大勢の人が吹き飛ぶ。
「地球型種族の娯楽用の映画かなんかかこれ?」
古代地球ヨーロッパを元に地球型種族の娯楽用にこのような映画が多く作られているのはヤマトも知っている。ヤマト自身もたまに見ていたのだ。もっともヤマトは古代地球ヨーロッパより古代地球のアジア特に日本物を好んでいたのだが、それはまあ置いといて眼前に広がる光景に思わずうめく。
「サイキック? あの炎や氷やらは何だ?」
『解析終了。どうやら遺伝的にアーマ型種族に近いようです』
「ああ、あの不思議種族ね……。つーことはこの星の大気にはルドレインが含まれているのか?」
『是。私に入力されている情報の中でも最大値のルドレインが含まれています』
「ああ、納得。たしかローファー鉱石はルドレインと相性がいいんだっけ? アイツらの武器には相当苦戦させられたって聞いたからなあ」
『22年前の東銀河戦争ですね。銀河連邦が屈辱的な敗北をした』
「まあ、その話はおいておいてだ。そんだけルドレインが含まれているならお前の稼働にも問題はないな?」
『是。かなりおいしいです』
「味あるの!?」
『ありません。お茶目機能発動です』
「時と場所を考えて発動してくれ」
別次元のしかも訳の分からない惑星において、なおものんきなアカギにヤマトは思わず頭を抱えるが、アカギとの会話で危機感は幾分か去りリラックスできていた。ただ本人はあまりそのことに気がついてはいない。
「ってことは……文明レベルはかなり低い? この近隣だけ?」
『是。文化の違いはあるものの他の大陸も似たようなものです』
「おう……ジーザス」
知的生命体がいたことに一縷の希望を見出したが文明レベルの低さにヤマトは思わずうめいてしまう。
現状自力脱出は不可能に近い。運よく次元救難信号を拾ってもらえればチャンスはあるが確率はかなり低いとみていいだろう。
「つまりずっとお船のなか……。宇宙の冒険が」
『私の中は快適です。極楽です。気持ちいいですよね?』
「お前は何を言っているんだ?」
『まあ、それはともかく。冒険ならこの星ですればいいんじゃないですか? サポートはお任せを』
「いや次元干渉法があるだろう?」
『否。すでに我々がここへ到達て数時間経過。私の索敵範囲内ではありますが次元の歪みは存在していません。よって結果から言えば次元消滅が起こりうる確率はかなり低いかと』
「でもゼロじゃないんだよな?」
『はい89%です』
「たけえよ!しかもその中途半端な数字はなんだよ!」
『まあなんというか。ちょっとした和みです。実際はゼロに限りなく近い数字ですね』
「そっか。まあずっと船内にいても退屈だし外に出てみるか」
『大気には問題ありません。ただ知的生命体ではないですが、強力な個体がいくつか確認されています』
「強力な個体?」
『是。惑星ツアプール。惑星タソガレ。惑星ミンミンなどに生息される個体が多数。その中でもさらに強力な個体も確認。スクリーンに映しますか?』
「いや、それは自分の目で見ないと冒険にならないだろ?」
『見た途端多分死にます。爪で引き裂かれて、はらわたをぶちまけられ、喉笛を食い破られ生きたまま食われるマスターが』
「やめて、食欲なくなるから。何気にひどいな」
『でも装備がそのままであればその可能性はあります。まあいざとなれば最大出力で荷電粒子砲をぶち込んだ後に主砲四連ファオスレーザーを叩き込んで、核弾頭を大陸各地に叩き込めばいいだけの事です』
「ここに住む生命体が俺を含めて絶滅するわ!」
『マスターを守るためなら私はあえて星殺しの汚名を着ます』
「ついでにマスター殺しの悪名をとどろかせることになるからな? いきなり廃棄処分されたいの?」
『……廃棄いやああああああああああああああ! やめてええええええ! 廃棄だけは廃棄だけは』
いきなり頭の中で絶叫を響かせられてヤマトはすさまじい衝撃を受ける。どうやら廃棄という言葉はアカギにとってかなりの恐怖のようである。機械に恐怖が本当にあるかどうか定かではないが。
「わかった! わかったから! 廃棄しないから」
『えぐ……えぐ…! 廃棄は嫌なの……お願いします。ひっく』
本当に泣いてるんだか何だかよくわからんがとりあえずアカギを落ち着かせた後、外に来ていく服や武器を選んでいく。
装備としては簡易な大気圏用の未開惑星などに降りるときによく使うスーツ。耐久性に優れ、ついでに生命維持活動に必要な体調管理システム搭載されているスーツである。また状況によっては襟から生地が伸びて顔を包み宇宙でも活動可能となっている。水の中ではさらに長時間の活動を可としていて、排せつ機能もきっちり備わりスーツを通して体外へと排出される。少量ではあるが栄養剤などが蓄積されていて、状況によっては皮膚を通して体に栄養がいきわたる仕組みだ。
強化機能もついていて、相当な力を出すことも可能となっている。アカギによる改造のおかげでアカギとリンクしていてエネルギー問題は解決済みだ。
さらにそこから携帯用の小型レーザー銃を装着。
『少し改造しておきました。こちらの銃は任意によって近接型にすることが可能です』
「なぜわざわざ近接型を?」
当然の疑問だ。せっかくの銃の利点が消えてしまうのであっては意味がない。
『ロマンです』
「お、おう」
思わず納得してしまうヤマトである。ヤマトも大概ロマン好きなのだ。出なければ宇宙を放浪する危険な職業などについたりはしない。近接型を試してみると、銃が一瞬で変形して棒状のものに変わる。そしてそこから一メートルほどの光の線が伸びていく。
古代地球の日本にあった刀に形状は非常によく似ていた。
『出力を上げれば最大10メートルまで伸ばすことが可能です。クライガン鉱石くらいなら軽く叩ききれます。任意で切れ味を変えることもできます』
「その意図は?」
『ロマンです』
「つまり剣戟が出来るというわけか?」
『是。さすがマスター』
「剣戟か……いいな」
思わずにやけてしまう。ヤマト自身宇宙を旅するという事もありかなり鍛えている。近接格闘術もきっちりと収めているし危険な星で危険な生物との戦闘経験もそれなりにある。宇宙海賊などとの交戦経験も一度や二度ではない。戦闘狂というわけではないが、やはりそのへんは男なのだ。
『あとそのフォルムの服装は文明感にに合わないかと』
「けどこれしか着ていけるものはないぞ?」
『では少々お待ちを』
アカギがそういうやいなや途端にスーツがブラウンの革鎧に変わりズボンもそれに合わせて変形する。
『見た目は変わりましたが機能はそのままです。あと生命維持が困難とこちらで判断した場合強制的に転送させていただきます』
「あいよ。よし、じゃああとは……現地の言葉か」
『問題ありません。すでにこの星で使われている言語は全て解析済みです』
「いつの間に……つかどうやって?」
『集音機能の範囲を最大まで伸ばしました。そこから多くの現地人の声を拾い共通項を導き出し、データから解析。私たちと共通する言語と照らし合わせて……』
「オッケー分かった。お前は凄い」
『エヘン』
途中でアカギの言葉をさえぎったもののヤマトは心底感心していた。時空ワームに巻き込まれた時はどうなるかと思ったが、アカギがお気楽な性格をしていたおかげで精神的にもだいぶ楽になっている。
『では、チップを通して直接脳内に言語を叩き込みます』
「お手柔らかに」
一瞬ぱちりと静電気が体を駆け巡った感覚があったが、あとは違和感は特にない。
「うーん習得できたの?」
『是、問題ありません。読み書きから専門用語まで完璧です』
「よしじゃああとは外に出て冒険だな」
『どこに転送いたしましょう? 大陸は全部で四つあります。あとはいくつかの諸島などがちらほらと』
「取りあえず戦争していた国は避けよう。まあそこそこにぎわっていてかつ冒険できそうな場所かな」
『該当箇所は全部で87.うち未開発と思われる場所を中心に検索。該当箇所全部で22』
「は? そんだけ? ずいぶんすくねーな」
さすがにこの少なさには驚きである。星の大きさ、文明レベルを考えればもう少し多くてもいいくらいだ。
『この星の知的生命体の生存圏があまり広くないのが一番の理由ですね。あとは森を中心に住むもの。地中に住む者様々です。マスターの遺伝情報に酷似している生命体に限定して検索した結果です』
「ほー……そっか」
ヤマトの目の前にあるスクリーンにはこの星の地図が映し出されていて、候補地22箇所が赤い光点で示されている。
まあ最初の場所が気に食わなければ次の場所に向かえばいいだけだ。そう考えればそれほど悩む必要もない。
「それじゃあここにするか。転送頼む」
『了解しました』
ヤマトが指し示した場所は中央大陸にあるど真ん中の光点である。真ん中であれば西へ行くのも東へ行くのも自由だろうと特に考えなしに示した場所だ。
アカギが了承したとたん、この船に入った時と同じように光に包まれ景色が変わった。
「んー外の空気には問題なし。解析で分かっていたことだけどな。しっかしいい空気だな」
肺に思いっきり酸素を吸い込み大きく吐き出す。これほど自然豊かな空気を吸ったのは生まれていらい初めてかもしれない。
大きく伸びをして再び空気を吸い込み吐き出す。
「よし! ここから北に向かえば確か大きな街があるんだったよな?」
『是。人口は10万人程度ですがそこそこ発展しているようです』
チップを通してアカギに声が脳内に聞こえる。
「ところで本体は今どこにいるんだ?」
『ここから西500キロというところですね。現在こちらに向かっています』
「まあ現地人に見つかるなよ?」
『光学迷彩をしておりますので見つかる心配はないと思います。念のためサイキック対策としてフォース機能も作動させています。この星の文明レベルであればまず安心かと』
「あいよ、ならゆっくりこっちにおいで」
『了解。情報収集及び解析をしながら向かいます』
ヤマトはこの未開惑星にワクワクしながらその地へと降り立ち北に向かった。
こんな感じの長編作品が読みたいです。