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イベント・チェンジャーズ   作者: ギリギリ男爵
6/39

オクトパレファント

「……」


 【蛮殻】の前で、吾妻、ヤトハ、戸倉博士の3人が無言で滝を見つめていると

「よし! 決めた!」と言って立ち上がり

「博士~」ニコニコ走ってきた。


 普段、クールを気取っている滝からは想像も出来ない、純真無垢は子供の様な満面の笑みで

「博士! ボディーの型はこれで、ネックとヘッドはこっち、色は……スペックは……」まるで、おねだりする子供の様だ。


「……なるほど、滝君は色々こだわるタイプのようじゃの、実はわしもそうじゃ。

 このスペックを出す部品は揃えられる。

 色は滝君が自分で塗装するのが良かろうと思う。

 イベント・チェンジで塗装すれば、その日の気分で変えられる様に出来るからの、どうじゃ?」


「なるほど、その手があったか……

さすが博士! 目から鱗ですよ!

 戸倉博士!今日から博士の事“師匠”って呼んで良いですか?」


 滝の眼差しは真剣である。


「ん? まだ現物ものも出来とらんぞ。

 2週間ほどで粗型は出来る。それから持ち易さとか、全体のフォルムやらを微調整して、君の思考特性スペックに合わせて調律せねばならん。

 完成には1ヶ月ほどかかるかの?

 わしを師匠と呼ぶかどうかは、その後決めてくれんか?」


「分かりました、し、戸倉博士!」


 吾妻は、無言で滝を見ていた。

(今お前“師匠”って言いかけただろ?

 確か俺のことも“師匠”とか呼んでた時期があったよな?

 お前にはいったい、何人“師匠”がいるんだ?)

 そう思ったが、あえて黙っていた。


 その吾妻が戸倉博士に尋ねる

「で、さっそくですが戸倉博士。

 我々は、今から発電施設の工事現場に向かった方が良いんですか?」


「おぉ、行ってくれるかね?

と、その前に君らに話しておかねばならん事がある」


「なんでしょう?」


「実はの、君らは“オクトパシアン”は知っとるかの?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ――“イベント・チェンジは、事変力の高い者にしか扱えない”

その前提条件をくつがえさなければ、

少数の異能力者スーパーマンを産み出すだけでは、いずれは格差を助長し、そう遠くない未来、イベント・チェンジャーズが社会の支配者になってしまうだろう。

 そう危惧していた芹田博士は、事変力の低い一般人にも、多少のイベント・チェンジが使える様にならないかと、事象変換技術開発の初期段階から“事変力増幅装置”の研究を続けていた。


 ――今から17年前、大量隕石群衝突の5年前。

 ある日、北米の遺伝子研究所から芹田博士にオファーがあった。

 内容は「イベント・チェンジで遺伝子操作は可能か?」というもので、芹田博士の回答は「イベント・チェンジの“錬金術”を応用すれば可能である」であった。

 こうして、日本と北米の遺伝子共同研究が始まる。


 北米の遺伝子学者ブライアン・ブラストン教授の研究テーマは“タコ”で、特にギガント・オクトパスという大型のタコを陸上に適応させて、土木作業用の労働力として使役させるというものであった。


 来日したブラストン教授は、芹田博士の協力のもとギガント・オクトパスを錬金術による遺伝子操作“ホムンクルス”で陸上に適応させ、体高4m、体長5mの“エレファント”に近い姿に進化させた。


 “オクトパレファント”と名付けられたこの新種の生物は、車輌では立ち入れない悪条件の場所でも活動可能。

 すでに実用化されていたが、製造コストが高く、操作の複雑な“よりも安価で大量の生産が可能。

 芹田博士が、かつて研究したが実用化には至らなかった“脳波増幅装置”での制御が可能。

 後は脳波増幅装置の安全性が確保されれば……

 実用化は目前だった。


 それと同時に、オクトパレファントの研究で、ある希少な種類のタコにはテレパシーとでも呼ぶにふさわしい高感度の心理的感受性が備わっている事を知る。 芹田博士は、かねてからの懸案であった事変力増幅装置にタコを利用する事を考え、独自に小型のタコを遺伝子操作で陸上に適応させ、比較的高度だつたタコの知能をさらに上げていった。


 こちらのタコは脳が発達し、サッカーボール2つ分ほどの大きさで、瓢箪型に体が変化した、人間の赤ちゃんに近い姿に進化した。

 芹田博士は、こちらの新種の生物には“オクトパシアン”と名付けた。


 芹田博士の構想では、オクトパシアンを事変力増幅装置として、魔術のマスコットキャラ“タッコちゃん”の愛称でとセットで低価格で販売すれば、事変力適性の低い一般人でも簡単なイベント・チェンジなら使う事が出来る。


 タッコちゃんは、腕や肩にからませればアクセサリーの様に見えて、オシャレに敏感なナウなヤングに受けるかもしれない。

 ――そのためにはオクトパシアンをもっと可愛く、見映え良くしなければ!

 事変力適性値の強弱は有っても、人類が皆平等にイベント・チェンジを使える様になれば、石油や電力に頼りきりの今の文明は変わる。

 今の閉塞した状況から脱し、人類社会は次の段階に進む。

 芹田博士はそんな夢を見て、オクトパシアンの研究にのめり込んでいった……。


 そんなある日、オクトパレファントの遺伝子コードに、設計とは違う不明な箇所を見付けた芹田博士は、ブラストン教授に確認しようと部屋の前でノックしようとしたその時、教授が電話で会話している声を聞いてしまった。

 その内容は、研究の終りが近い事、そしてオクトパレファントの軍事利用、兵器としての実用性の報告であった。

 急ぎ、遺伝子コードを調べた芹田博士は、不明箇所がオクトパレファントの攻撃性を誘発・増強させるものである事を知り、研究資料とデータを全て破棄、オクトパシアンの研究は凍結、オクトパレファントの培養カプセルの養分供給パイプを遮断して死滅させ焼却処分。

 ブラストン教授と北米遺伝子研究所とは決別した。


 だが、オクトパレファントと不完全な脳波増幅装置の研究データは、すでにブラストン教授によって北米に送られ、北米軍事局による大量生産が始まっていた……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……それが、隕石群衝突スリーデイズ・インパクト後に突如姿を現した“軟体獣”の正体じゃ。

 北米軍事局は、画期的な無人生物兵器としてオクトパレファントと制御用脳波増幅装置を世界中に秘かに配備しとった。

 日本での目撃例が殆んど無かったのも、芹田博士が全て焼却処分しとったからじゃ。

 一部の目撃例は、海を渡ったのがおったのかもしれん。なんせ、元は海洋生物じゃからの」


「“軟体獣”は隕石に乗って、宇宙から来たエイリアンだとか噂されてましたけど……」


 滝の言葉を受け、戸倉博士がさらに話を続ける。

「“軟体獣”が人間を襲い出した原因は、隕石なんじゃよ。

 12年前の隕石群衝突スリーデイズ・インパクトの時、大量の隕石落下によって地球の電磁気が大きく乱されての。制御装置が機能しなくなったんじゃ。

 オクトパレファントが狂暴化したのは、突如制御から外れてパニックを起こしたからじゃろ。

 遺伝子をイジられて攻撃的になっとるが、本来は臆病で頭の良い生き物なんじゃ」


「……知りませんでした」


「知られたくなかったんじゃろう、芹田博士は。

 徹底して事象変換技術の軍事利用には反対しとったからの。

 それがあんな事になって、よりにもよって罪もない人々を無差別に襲うとは、無念じゃったろうのぉ……

 それで、オクトパレファントの攻撃的な遺伝子を改変させる研究を秘かに始めた。

 わしも協力して、完成した攻撃抑制因子を、研究途中で隠しておいたオクトパシアンに組み込んだ……

ここまで言えば、もうわかるじゃろ?」


「……ここにいるんですね?

その“オクトパシアン”が」


 戸倉博士は吾妻にニッコリ笑いかけて

「驚かんでくれよ?

 とっても可愛いヤツなんじゃ」

と言ってから

「マリモ、出ておいで」

 柱の陰に向かって、呼びかけた。


 ――暗闇から姿を現した“それ”は、完全に人型ひとがたに見えた。

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