表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イベント・チェンジャーズ   作者: ギリギリ男爵
5/39

【蛮殻】

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 四年制専門高校である事変高専の学生は、入学からの2年間で高校卒業程度の基礎学習と精神力を鍛えるための修行を終え、3年生からの2年間は授業の全てがイベント・チェンジの修練に切り替わる。


 事象変換器イベント・コンバーターに内蔵される“思考重力波発振装置”は、思考を重力波に変換する装置。

 事象変換術は、虚構世界に思考重力波を干渉させて、可能性としての事象を選択して現象させる一種の量子的化学反応なので、事象変換術士には、速く正確で具体的な思考が求められる。

 思考の反応速度が遅ければ、事象変換術は発現せず失敗する。


 事変高専の学生が精神修行するのは、その“思考力”の速度と正確さを、より鍛えるためだ。


 4年生に進級すると、おの々自分に合ったタイプのイベント・コンバーターを選択し、自分の脳波の波形パターン思考特性スペックを測定し、自分専用のイベント・コンバーターの仕様書を作成、学校に納入される各メーカーの既製品を購入して、事変高専所属の“調律師”に調整してもらう。


大多数の学生は最も操作が簡単で、比較的安価なスマホタイプに落ち着くのだが、一部の変わり者、或いは“特技”を持つ者は、他のタイプを選択したりする。

身体能力の高い学生はスーツタイプ。呪文を正確に発音出来る、或いは楽器の演奏が得意な学生は呪文・楽器タイプ。思考力の高い学生はヘッドマウントタイプ。といった具合に。


 多くのイベント・チェンジャーは、事変高専卒業後も、このとき購入したイベント・コンバーターを使い続ける。

(イベント・コンバーターは高額だが、事変高専の学生は、学割と国の補助金でかなり安く買える)


 イベント・コンバーターが不具合を起こすと、メーカー修理に出すか、部品を交換してもらうが、自分の使用するイベント・コンバーターにこだわる者や、電子工学に詳しい者は、個人経営の“事変器職人”に製作を依頼したり、アキバで部品を買ってきて、自分で組み上げたりする。

いわゆる“特別仕様スペシャル・メイド

 

 吾妻の仮面【鬼面おにづら】。

 滝の五年前に破壊された愛用ギター【スーパー・フライングV-D】。

 そして、ここに飾られているくろがね専用 事象変換特殊装備【蛮殻バンカラ】は、そのたぐいである。


 【蛮殻バンカラ】の仕様は、上から

 直接思考波入力の学帽。

 音声〈呪文〉入力の詰め襟カラー。

 動作入力の学ランとボンタンズボン。

 以上が基本装備で、オプションパーツとして

 伸縮自在の万能ベルト。

 装飾としてあしらわれた20個のボタンは、全て小型高出力の力場発生装置。

 事変力に反応して、超硬質化する特性を持つ人工の精神感応合成クリスタル“マギライト・β”をつま先に仕込んだシヤープ・シューズ(尖り靴)。

 マギライト・βをナックルにあしらったフィンガーレス・グローブ(指出しグローブ)。

 その他。

 あらゆる場面を想定した、ギミック満載の、最高級特殊装備服。


 鉄は、事変高専4年生の時に、この桁外れの性能を持つ“スペシャル”な事象変換特装イベント・コンバート・スーツを手に入れている。

 並の事変力ではこれを使いこなす事は不可能だが、それよりなにより、これの開発制作費には恐ろしく莫大な金額がかかっている。

 材料費だけで5億は越える。

 だが、それは鉄が金持ちのボンボンだった、という訳では無く、異常に事変能力の高い鉄が被験体になった実験用試作事象変換装備、つまり日本の事象変換研究の一環として創り出されたからで、製作費は国が負担した。

 基本設計は事変研 所長の芹田博士が行い、製作を委託民間企業(株)印田鳥栖重工が行った。


 “てつじん計画プロジェクト”と呼ばれたこの計画の研究目的は、

 ①:事象変換エネルギーの限界上限値の測定

 ②:過酷な異常環境下における防御力の限界値の測定

 ③:防御結界シールドバリアの耐久性の調査

 ④:力場抑制フィールド下での耐性試験

 ⑤:思考撹乱波に対する思考能力の測定

 ⑥:事変力強化装置開発のためのデータ収集

 ⑦:その他

 実験とデータ測定は、事変研と印田鳥栖重工の双方で行われ、鉄は事変高専4年生の1年間、学校と事変研と印田鳥栖重工を行ったり来たり、非常に多忙に過ごした。

 また、事変高専卒業後、鉄が印田鳥栖に就職したのも、実験の継続と【蛮殻】のメンテをするのに都合が良かったからである。


 事前に、実験が過酷なモノになると知らされた鉄は、自身に気合いを入れるために専用特殊装備を、先祖代々受け継がれてきた愛用の学ランと同じ形にしてくれと希望した。

 鉄の家系は代々“番長”の家柄だったのだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「“ばんちょう”って、なんですか?」


 吾妻の隣で、一緒に【蛮殻】を見上げて話を聞いていたヤトハが首を傾げる。


「番長ってのは、強くて、頼りになって、皆を守ってくれる、優しいヤツの事さ」


 吾妻は、鉄を思い出しながら答える。


「番長の家系なんてモノが、あるのかの?」

 今度は、戸倉博士が食い付いてきた。


「初代は、江戸時代後期の長三郎というならず者で、散々悪事をはたらいた末、野垂れ死にしかけたところをくろがね村の村娘に助けられ、その娘や村人の優しさに心うたれて改心“俺はこの村の番人になる!”と決意して自らを“くろがねの番長”と名乗ったそうです」


「ほぅ、清水の次郎長みたいじゃの、それで?」


 実は、時代劇好きな戸倉博士が話に乗ってきた。


「このデザインの元になった学生服が登場するのは昭和に入ってからですが、代々○○番長と呼ばれていたそうですよ。

 ……確か、三代前が“相撲番長”、あいつの親父が“空手番長”、さしずめ鉄本人は“魔術番長”といったところですかね?」


「ほっほっほ、そいつは傑作じゃな!

 しかし……鉄君はどうしたじゃろうの?無事だといいんじゃが……」


「ここに来る前、鉄の式神を見ました。

きっと生きてますよ」


「命の恩人………」

 ヤトハはそう呟いて蛮殻に手を合わせる。


 ここに有るのは【蛮殻】の上半分、学帽と学ラン。

 下半分のボンタンズボンとシャープ・シューズ、そしてグローブは今も鉄が持っているはずだ。

 ならば、滝のサイコメトリーでの所有者の追跡精度がより上がる。

 ハッキリ言って、吾妻はダウジングやサイコメトリーといった“探索・情報読み取り系”はそれほど得意では無い。


 その頼みの綱である滝は

「……型はこれで良いとして、スペックはこっちか?いや、待て……これだと音が……色はこれか?」


 カタログにかぶり付いて、まだやっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ