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イベント・チェンジャーズ   作者: ギリギリ男爵
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ティベルトの地下施設

「いや~、ここの階段は年寄りにはキツくてのぉ。

 いずれはエレベーターを造らねば、と思うとります」


 吾妻と滝は、この地下施設の充実ぶりに驚いてた。


 一昔前の、各種工作機械から見馴れない大型装置、イベント・チェンジ関連の特殊器機が、ところせましと並んでいる。

 これだけの設備が有れば、エレベーターは充分造れそうだ。


「……戸倉博士、ここは凄いですね」

 吾妻が、地下施設を見回しながら感嘆の声を上げる。


「ほっほっほっ。わしと同じ、骨董品ばかりですがの」

 謙遜しつつもドヤ顔な戸倉博士。


「興味がお有りでしたら、少し案内しますかの?」

 案内する気満々である。


「ぜひ!」


 吾妻も滝も、イベント・チェンジャーとして優秀な人材である。

 誇りと矜持もあり、そのような人間は、得てして“オタク”気質であったりするものなのだ。

 初期の事象変換イベント・チェンジ技術開発の歴史博物館の様なこの場所に、興味を惹き付けられない訳が無かった。


「ここは、事変技術開発の最初期に掘られた、魔神石採掘場 兼 事変技術実験場でしてな。

 まだ、事変技術が機密扱いだった頃に、日本とティベルトの共同開発で極秘に建造されましての」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


当時のティベルト自治区は、大国植民地からの独立を画策しており、日本の最先端技術である“事象変換システム”の開発に非常に協力的であった。

日本政府がティベルト国内に、秘密裏にこのような大規模施設を建造していると大国に知れたら、国際問題に発展しかねない危険性が有った。

 この計画は最高機密とされ、関係書類は決しておおやけにならぬよう、徹底的に隠匿された。


 今現在、ここがTOTWOの魔者弾圧から逃れられているのは、ここの施設の資料がいっさい存在していないからである。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「これは、20年程前に建造された

“大型力場発生装置”の試作一号機」


 戸倉博士は、4階建てビルほどの大きな箱形の建造物を見上げた。


「おぉ~! 教科書でしか見たこと無いですよ。まさか、実物が現存していたとは!」

 吾妻が珍しく興奮している。


「へぇ~。教科書の小さい白黒写真で見るのと、実物は随分印象が変わりますね……デカイなぁ」

 滝も感心していた。


「こいつは電力を大量に喰うでな。

 今は残念ながら稼働を止めておるが、ここに、もっとちゃんとした発電所でも有れば、周囲100km圏内に非常に強力な力場フォース・フィールドを発生させて、計画当初の事象変換システムを完全再現出来るんだがのぉ……」


 戸倉博士は、ここに発電所が無い事が心底残念そうだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


事象変換イベント・チェンジシステム”


 力場発生装置で創られた量子力場フォース・フィールドに、“思考重力波発振装置”で、思考を重力波に変換し干渉させ、パラレルな無限の可能性を内包した虚構世界の中から、任意の事象を選択し、現実世界に現出・固定・定着させる“量子的化学反応=事象変換術イベント・チェンジ”を引き起こすための装置群の系である。


 これを可能にしたのは、芹田博士が発見した稀少なウィルス結晶型の天然石石“魔神石まこうせき”を原料として精製される特殊なクリスタル“マギライト”で、今は現存していない“オリハルコン”等と同様な“高純度の精神感応物質”である。


 力場発生装置は、世代が進むごとに小型化と省エネ化が進み、現行の第6世代型だと、ボタン電池ほどの超小型になり、事象変換器イベント・コンバーターに思考重力波発振装置とともに内蔵されている。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 戸倉博士は、大型試作一号機を撫でながら

「コイツの威力は強力での。

 今の、小型化されてイベント・コンバーターと一体化された力場発生装置とは、出力するパワーの桁が違う!

 芹田博士とわしの当初の計画では、コイツで地球環境の改造を考えていたんだがの………」


「人間がイベント・チェンジで地球環境を改造するなんて、可能なんですか?」

 吾妻が尋ねる。


「理論上は可能じゃった。

だが、当時のわしらは技術不足での。

 強力過ぎるコイツのパワーを、安定して出力させる事が出来んかった。

 余りに危険と判断され、試作二号機からは小型化し、出力をかなり抑えた設計に切り替え、ようやく事象変換実験は軌道に乗った。

 その結果、想定していた出力は得られず、環境改造は不可能になってしもてのぉ……

 傲慢かもしれんが、せめて人間が原因の環境汚染くらいは元に戻したいと、当時のわしらは考えとったんだが……しかし、今のわしらの技術なら、コイツの出力を安定させられるかも知れん」


 戸倉博士は、力強く大型試作一号機を見つめている。

 この老人はまだ、事象変換術による地球環境改造を諦めてはいないようだ。


「……環境改造が可能なら、月や火星をテラフォーミングする事も、可能ですよね?」

 滝が、突拍子もない事を言い出す。


「おい、滝。いくらなんでも、それは無理だろ?」

 吾妻がたしなめる。


「……考えてもみんかったが、大型試作一号機規模の装置を、惑星全土を被うように埋設すれば、あるいは可能かもしれん。

 ……今度、芹田博士に聞いてみるかの?」


 ほとんどつぶきのように、戸倉博士が口にしたその言葉を聞いて、吾妻はドキリとした。

 戸倉博士は、自分の死期が近いとさとっているのか、それとも、まさか、アルツハイマーなんて事は……


 吾妻が心配そうに見つめていると、それに気付いた戸倉博士があわてて

「ちがう、ちがう。ボケとらんし、死にもせん!安心せい。

 先にあれを見せておくべきだったの。

 芹田博士と話が出来る機械があるんじゃ」


「こっちじゃ」と言って戸倉博士が歩き出す。


 吾妻が知る限り、死者と会話出来るなんてオカルトめいた術は、現代の事象変換術イベント・チェンジには存在しない。

 それは、魂とか生命の根源をテーマとする、霊子学とか宗教の分野だ。


「これは、PRB量子事象コンピューター。

 これで、芹田博士の人格や知識を再現出来る。

 随分昔の話になるがの、実験中の事故で、芹田博士が意識不明の重体になった事が有ってな。

 その事が切っ掛けで、もしもの時にそなえて、わしが長年研究して用意しとった」


 [パーソナル・リプロデュース・バイオ量子事象コンピュータ]

 個人の人格や知識を記憶し、再現可能な超技術。

 吾妻も、その理論は聞いた事はあるが、開発に成功したと言う話は聞いた事がない。


 吾妻は懐疑的だった。

(これが、果たして本当にそんな凄い代物なのか?)


「吾妻君が芹田博士に託されたあの“鍵”な、あれは記憶装置なんじや。

 所有者のレム睡眠脳波を感知して、自動的に記憶を蓄え続けるよう、設定しておいた。

 わしが、芹田博士に肌身離さず持っとくよう、渡しといたんじゃよ」

 そう言いながら“鍵”をパズルの様に展開させると、カード型に変型した。


「この“芹田博士の記憶カード”を、この中にインストールすれば、芹田博士の人格が再現出来るんじゃが……

 残念ながら、ここの非常用予備電源では電力が足りんで、量子事象コンピュータを起動できん」


「私が事変電撃術で……」

 言いかけた吾妻を制して、戸倉博士が言う。


「無理な話じゃ。量子事象コンピュータ内の芹田博士のパーソナルデータと、記憶カードメモリのダウンロードと同期だけで、1ヶ月ほどかかる。

  1ヶ月間連続で電撃を出し続ける事など、不可能じゃろ?」


「私と滝が交代でやれば?」


「できん事は無かろうが……まぁ、待ちなされ。

 それを含めて、君らにお願いしたい事が有っての。

 さっきまで関係者と打ち合わせをしとった」


「打ち合わせ、とは?」


「実は……この山の向こう側に大きな瀧があっての。今、それを利用した水力式発電施設と、風力発電施設を建設中なんじゃが……」


「いつ完成予定なんですか?」


「それが、建設機械を動かすための電力とバッテリーを、村の結界と遮蔽装置に使っとるもんで、人力だけではなかなか工事がはかどらんのじゃ」


 この村の結界・遮蔽発生装置は、ダウジングとサイコメトリーを得意とする滝が、村の存在を捜し出すまで1ヶ月以上かかった優れものだ。

 TOTWOの無人偵察ドローンが、世界中あちらこちらで飛び回る今の現状で、結界・遮蔽発生装置は、この村の生命線といえる。


「分かりました。喜んでお手伝いしましょう!」


「やった! 有り難い。礼ならするぞい。

 ここには、各種 事象変換器イベント・コンバーターが幾つか置いてある。

 わしらには宝の持ち腐れじゃが、事象変換術士イベント・チェンジャーの君らなら、どれでも使いほうだいじゃろ?

 好きなのを持っていって構わんよ」


 事象変換イベント・チェンジ技術関係の研究者や開発者は、必ずしも事変力は高くない。

 事変力適性値の高い者は絶対数が少ないので、優先的にイベント・チェンジャーにさせられてしまっていたからだ。


「あそこの神棚に飾っとるのが、君らが探しとった“例の特殊装備”じゃ。

 その隣に、ここに避難するとき持てるだけ持ってきた各種イベント・コンバーターを飾っとる。

 どれでも、気に入ったのが有れば、持っていきなされ」


 見ると、少し離れ薄暗くなった一画に神棚が在った。

 その中央に、御神体のようにガラスケースに納まったくろがねの特殊装備。

 その両隣。ショーケースの中に綺麗に棚に列べられた、各種イベント・コンバーター。


 滝が、

「あ、くろがね先輩のいつも着てたヤツだ」

と言ってから、何かを見つけて、目の色が変わる。


「あぁ!? ギ、ギターが有る!!」

と叫んで、列べられた事象変換器イベント・コンバーターの中から、楽器類が列んでいるコーナーに翔ぶようにダッシュした。


「あぁ……凄い、ギターだ!

ストラトキャスターだ! SGだ! レスポールだ! ……」


「ほっほっ。なにかお探しのモノは、見付かりましたかな?」


「フライングVは無いんですか?」


 ギター型 事象変換器イベント・コンバーターに見とれ、少しヨダレを滴ながら滝が尋ねる。


「そっちに置いてある[月刊 事変技術]にカタログが載ってたはずだのぉ……。

 形やスペックのリクエストが有れば、わしらが造りますぞ」


 それを聞いた滝は、接地瞬動で本棚のコーナーに移動し、[月刊 事変技術]とラベルの貼られたタブレットの中のバックナンバーから、カタログを片っ端から捜し始めた。


「あ、有った! ……こっちにも!

形はこれで、色は……」


 5年前、魔者弾圧が始まった時に、お気に入りだったフライングVを破壊されて以来、ギターを弾けなかった滝は、無我夢中でカタログをググっている。


 一方吾妻は、神棚の中央、円柱型のガラスケースの中に、うやうやしく飾られた、古めかしいレトロな番長スタイルの変型長ラン学生服と、丸天井型の学帽を見詰めている。


 吾妻は、それを近付き

「【蛮殻バンカラ】……」と呟いた。

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