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イベント・チェンジャーズ   作者: ギリギリ男爵
38/39

鉄 外伝⑨:別れ

「えっと……

 つまり、5年前、ここには砂漠と、でっかいクレーターしかなかったと?

 それから、お前が12年前に跳んで、歴史を変えたたんだな?」 


「そういうことに、なるのか?」


「俺に聞くな!

 お前が当事者だろ?

 だから、つまり……どうなんだ、よく分からんな?」


「あぁ。よく分からん!」


 吾妻と鉄は、お互い「よく分からない」との意見で合意した。


「まぁ、当の俺にも、あれが夢かうつつか、はっきりしないからな。

 あまり、深く考えるな」


 奇想天外で滑稽無糖なSF噺ふしぎばなしを語ったあげく「深く考えるな」で締められてしまった。

 吾妻は(鉄は、確かにこういう男だった)と思い出す。


 吾妻は、鉄の苦手なものも思い出し

「ここにいるお前か俺のどちらかが、互いの幻覚か“幽霊”の可能性もあるしな」


「怖いこと言うなよ」

 見かけに反して“オバケ”のたぐいの苦手な鉄が、嫌な顔をする。


 吾妻は、ハハッと笑い

「だが、ひとつ確かなことがある。

 俺は“タマ”を見たぞ。

 タマが、この場所を教えてくれた」


「そうか!タマに会ったか!」

 鉄が、嬉しそうに笑った。

 笑いながら

「それにしても“救ってくれ”と言われてた人物ってのが、お前だったとはな。

 お前の子孫は“英雄”になるらしいぞ?」


「そういうお前は“鉄神てつじん様”だろ?」

 吾妻と鉄は、久しぶりにお互い笑いあった。


 その二人の笑い声に気付き、白い草原でお茶を飲んでいた芹田博士が

「お~い!君達」

 と、2人に声をかけた。



 吾妻と鉄が、芹田博士のところへ行くと、白いテーブルには、新たに2人の分のカップと椅子が用意されていた。

 テーブルには芹田博士ともう1人、やけに灰色っぽい西洋系の老人がお茶を飲んでいる。


「彼は、Mr.ローレンス・ロールフューリー。

 ここで知り合いになって、意気投合してな。今の今まで、話込んでしまった」

 芹田博士は、年の割に若々しい顔で、にこやかに、隣に座る老人を紹介した。


「ノクトモンドの……」

「パーフェクト・ヒューマンの……」

 吾妻と鉄が同時に声を出した。


「いやぁ、お恥ずかしい。

 しかしあれは、ワシではないよ。

 ワシの知識と人格を模倣した、まったくの別物。

 コンピューター・プログラムの海から産まれた、正体不明の識体だよ。

 ノクトモンドに意識を移した全ての人格データは、あの謎の意識体に喰われてしまった。

 ワシも、存在データの殆んど喰われてしまったが、ドクター・セリダにサルベージしてもらえて、何とか人格を維持出来てるのだよ」


 ローレンスが、両手を広げてその身体を見せる。

 所々モザイク模様に崩れ、透けている。今にも、消えて無くなりそうだった。

 

 芹田博士は「いや、いや」と謙遜しながら

「私は、戸倉さんの作った事象コンピューターのお陰で、人格がデータ化されていたからね。

 他のメギストシィ・メンバーの人格データと一緒に、意識体ノクトモンドに引き寄せられて、喰われた。

 喰われたが、戸倉さんのプログラムは

クセが強いらしくて、私の人格データはノクトモンドのお口には合わなかったようだ。

 吸収される前に、吐き出されてな。

 その時、消えかけていたMr.ローレンスを見つけて、助けた。たまたま偶然。

 運が良かったよ」


 “運”――吾妻は鉄から聞いた“逆流因果の使い手”の話を思い出した。

(芹田博士も若い頃から天才と呼ばれ、マスコミから注目され、文化人タレントとして絶大な人気を得ていた。

 鉄とは別ベクトルで、かなり優秀と言える。

 戸倉博士の事象コンピューターが正常に作動すれば、人格だけでも再生される可能性もある。

 “死してなお甦る”

 そのような存在は、因果律的に危険では無いのか?

 時空管理組合とやらの、監視対象だったりしないのか?)

 

 吾妻が横目で鉄を見ると「もし、パーフェクト・ヒューマンが完全な状態で、ノクトモンドの人格移植データ・ダウンロードが完璧だったら、自分は勝てていたか?」と、割とに芹田博士&ローレンスと議論していた。


 吾妻が“逆流因果”の話を3人に振ると、先ず鉄が

「お前は、相変わらず心配性だなぁ。

 もしそうなら、未来人がとっくに手を打ってるさ」

 と、やたら楽天的なことを言い、ローレンスは「そうさのぉ」と天を仰ぎ、芹田博士は、無言で左手を顎にそえて考える。

 その、芹田博士の左手首が、赤く点滅していた。


「芹田博士、それは何です?」


「ん? ……あぁ、これかね?

 これは、戸倉さんの事象コンピューターが、私の意識と同期しようとして、コールサインを送ってきてるんだ。

 今まで、Mr.ローレンスとの会話が面白くて、気付かなかったよ」


 ティベルト地下施設の人格再現 事象コンピューターが起動しなかったのは、ここで芹田博士がお喋りに夢中になっていたからだった。


「あまり、戸倉さんを待たせても、申し訳ないな。

 “逆流因果”については、またその内、じっくり考えてみるとしよう。

 吾妻君、鉄君、私はそろそろ行くよ。

 Mr.ローレンスも、一緒に行きませんか?」


「いや、ワシはそろそろ成仏するよ。

 さっきから“お迎え”が来てるのを感じるんだ。

 ドクター・セリダ、最後にキミと話せて楽しかったよ。ありがトウ、サヨ・ウナ・ラ……」


 “魂の世界”から、ローレンス・ロールフューリーは消えた。



******************



「私は一足先に、向こうで君達を待つとするよ。じゃ、また!」 

 と言って、芹田博士も消えた。





 真っ白な“魂の世界”で、吾妻と鉄は2人きりになった。


 しばらくすると


 ――マさ~ん、ズマさ~ん、吾妻さ~ん……


 かすかに、吾妻を呼ぶ声が聞こえてくる。


世界のお前の肉体が、目覚めかけてるんだ」


「お前も、なんか透けてきてるが?」


「次元断層が蒸発して、亜空間に戻る。

 もう“別れの時間”が来たってことだな」

 

「そうか……」


 鉄の話によると、次に鉄が亜空間から出られるのは4百年後。

 吾妻と鉄は、これが今生の別れになる。

 なのに、2人とも気の効いた言葉は出てこない。

 男の、親友との別れとは、案外そんなものなのかもしれない。


「【蛮殻】は、このまま貰っていくぜ?」


「元々お前のものだ、好きにしろ。

 4百年後に俺の子孫に会ったら、よろしくな」


「お前も“鉄様に会ったら、最上級にもてなせ”とか、子孫にちゃんと伝えておけよ?」


「ああ、わかった。まかせろ! だから、お前も……」


 吾妻の姿が消え、少し遅れて鉄も消えた。

 次回、最終回。

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