表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イベント・チェンジャーズ   作者: ギリギリ男爵
36/39

鉄 外伝⑦:逆流因果

 鉄は、気が付くと真っ白な空間にいた。


「……ここは?」


「魂の世界です」


 ヤトハ965号の説明によると、転移ゲート破壊の衝突で、鉄の肉体は素粒子レベルで亜空間に固定されてしまい、動かす事が出来ない。

なので、肉体から魂を一時的に切り離した。

 魂は、ここ“魂の世界”でポディに再構成され、次の段階の“蘇生”か“転生”か“成仏”へと至る。

 そのどれにも至れずに現世に止まると“守護霊”“指導霊”“地縛霊”“怨霊”“幽霊”とかになる。


「なるほど。

 平たく言えば、俺は幽霊オバケになったわけだな?」


「まぁ、平たく言えば」


「俺はずっとこのまま?」


「まさか!あなたの肉体はちゃんと亜空間に存在してますから、いずれそちらに戻りますよ。

 戻るときは“眠りから目覚めるような”感じでしょうか」


「今の俺は、肉体からすれば“夢の中”って事か?」


「そうですね、そうなります」


(やはり、これは“夢”なんだな……)

 ヤトハ965号とそんな話をしていると、男の声がした。


あるじ様、あちらの準備が整いました」

 見ると、端正な顔立ちの男がホワンホワンホワワ~ンと現れる。


「ありがとう、ごくろうさま」


 男は、ヤトハ965号と似た美形だった。

 “主様”とか言っていたが、親戚かもしれない。

 ただ、ヤトハ965号と違い、頭には湾曲した角が生え、口の両端からキバが覗いている。

 さらによく見ると、肌のあちこちが鱗状にひび割れている。

 背も高く、190cm近い鉄が見上げるほどだ。

 “異容の男”だった。


「鉄様、これは使い魔の竜人“八十八ヤソハチ”です。

 ヤソハチ、こちらが鉄様」


 使い魔とは、式神みたいなモノだろうか?

 紹介されたので、鉄も「どうも」と挨拶すると


「主様、本当に、この方が?」

 鉄を見て狼狽えだした。


「ええ、“因果律の特異点”鉄様です」


「おぉ、なんと!

 このお方が我らの始祖“テツジン”クロガネ様!

 あの“救世神伝説”の一柱がここに!

 後でサインとか貰っといた方が良いだろうか?

 ヤッタ!友達に自慢出来るぞ!」


 何やら勝手に盛り上がって興奮している。「友達に自慢」などと言うところをみると、式神とはまた違うモノなのだろう。式神に比べ、感情が有りすぎる。


(“因果律の特異点”だとか“救世神伝説”だとか……さすがは“夢”だ。

 支離滅裂でワケがわからん)

 鉄が、ちょっと引いていると


「これこれ、ヤソハチ。

 鉄様が“鉄神クロガネ”と呼ばれるのは、この時空面の、さらにもっと未来の時空面での事ですよ?

 今の鉄様は、私達がお助けしなければ……」

 ヤトハ965号が、ヤソハチをたしなめる。


「そうでした、すみません主様。

 つい、取り乱してしまいました。

 それでは、気を取り直して……

 クロガネ様、こちらへどうぞ、足元にお気を付けて」


 足元と言われても、フワフワ浮いているようで、気を付けようがない。


 道中、鉄はヤトハ965号とヤソハチから、多重世界パラレル・ワールドの分岐状況についての説明を受けた。


 “多重世界パラレル・ワールド”は、大きな木の枝や根の様な構造をしており、無数の小さな分岐はやがて先細り消滅し、太い枝世界に吸収・統合される。

 成長した枝の分岐世界だけが、宇宙に定着する。

 消滅する小さな分岐を“幻想世界”と呼び、定着する大きな枝の分岐を“現実世界”と呼ぶ。


 この“世界樹ユグドラシル構造”の分岐は、万有因果律の法則により定められ、発生・消滅・定着を繰り返しながら世界樹全体は成長する。

 本来なら、自然発生的に行われる分岐を、人為的に操作するのが魔法(因果律操作)である。

 魔法による人為的な世界の分岐を“剪定せんてい”と呼ぶ。

 まれに、“魔法”の先祖である“事象変換術イベント・チェンジ”や“人造超能力”が偶発的にこの“剪定”を行う事が有る。


 例えば、本来の因果律では火星に堕ちるはずの隕石群を、人造超能力の暴走が地球に衝突させた事件の結果“隕石が墜ちた火星”と“隕石が堕ちなかった地球”の、本来有り得た世界は“幻想世界”となり、もともとは有り得なかった“隕石が墜ちた地球”が“現実世界”として定着してしまった。

 このように人為的に因果律を操作し、世界を変えるのが“剪定”である。


 無作為な剪定を繰り返すと、“枝”である現実世界を大きく歪め、その歪みが臨界を越えてしまうと、その枝の現実世界は滅亡する。

 特に危険なのは“逆流因果”と呼ばれる“過去改変”の力を持つ能力者で、枝世界だけでなく、根幹世界(世界樹の幹)にもダメージを及ぼすので、時空管理組合では禁忌の能力に指定され、その使い手は監視対象となっている。

 逆流因果の使い手は、無自覚に未来から過去へ逆流して影響を及ぼすので、生まれながらに遺伝子レベルで知力、体力、胆力、そして“運の強さ”が有り得ないほど優れているのが特徴である。


「ちょっと待て」

 そこまで聞いて、鉄が話を止めた。


「はい、何でしょう?」


「ひょっとして、俺はその“逆流因果の使い手”だったりするのか?」


「ひょっとしなくても、逆流因果の使い手そのものですよ?

 “申し子”と言っても過言では無いでしょう」

 ヤトハ965号は、事も無げに「それが何か?」みたいな顔で鉄を見ている。


「監視対象になるほど、危険な存在なんだろ?

 俺にやらせて良いのか?

 あんたがさっき言ってた、7年前に行って隕石をどうこうするってのも、要するに過去改変“逆流因果”だろ?

 根幹世界へのダメージは……」


「あぁ、その事ですか?

 それは心配無いですよ。

 あなたは“特殊な例”ですから。

 先程も説明しましたが、あなたがこれから生み出す分岐世界からは、数多くの優秀な魔法使いが誕生するのです。

 これは、時空管理組合の根幹世界修復に必要な事なのです。

 それに、あなたは“因果律の特異点”で、なぜかあなたの行動は、全て歪んだ因果律のバランスを元に戻すように作用するのです。

 なぜそうなのかは、私達にも分かりませんが……

 まぁ、深く考えず、気楽に“毒を持って、毒を制す”とでもお考え下さいな?」


 ヤトハ965号にそう言われ、鉄が「何だかな~」と考えていると、周りの景色が変わった。


「クロガネ様、あちらをご覧下さい」


 ヤソハチに言われ見てみると、砂漠に巨大なクレーターが有る。


「ここは、ティベルトと呼ばれる地で、かつては緑地でした。

 あのクレーターは、全長50mの巨大隕石によるものです。

 隕石の衝突で、ここに在ったコラルン山脈も吹き飛んで、今ではこの有り様です」


 ティベルトやコラルン山脈と聞いても、鉄には信じられなかった。

 写真やテレビで見た、美しい風景とはまるで別物。

 ここは、砂漠と巨大クレーターしか無い、正に“死の世界”の様だった。


「お、俺がつくばから避難させた人達は無事なのか?」


「今は、無事です。

 こちらの転移ゲートの出入口は、このクレーターの端の、さらに下の地下施設に設置されてますから……けれど、この過酷な環境を生き延びられる者はごくわずか……

 ですが、私達の今回の目的は、その人達を救う事なのてす!

 ここティベルトで過去に跳び、新たな分岐を作ります。

 新たな分岐世界では、つくばから避難した人達全員が生き延びられます。

 それで、この砂漠とクレーターだけの世界は消滅し、新たな分岐世界に吸収されます。

 そのために、あなたには7年前にこの地に墜ちた隕石を止め、コラルン山脈を守って欲しいのです」


 ヤトハ965号の言葉に、鉄は目を見開く。

「いや、それは……

 そうしたいのはやまやまだが、あんたらの言う“魔法”ならどうだか知らんが、俺は事象変換術士イベント・チェンジャーだ!

 イベント・チェンジってのは“生身の脳”が無ければ発動出来ないんだ。

 それに、今は【蛮殻】も手元に無い。

 この状態で、俺にどうしろと?」


「ご安心下さい。

 それについては、この不肖ヤソハチめが、万事抜かり無く準備を終えています。

 どうぞクロガネ様は、“大舟”に乗ったつもりで」


 鉄にそう言うと、ヤソハチは恭しく頭を下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ