鉄 外伝⑥:時空管理者
魔者弾圧開始当時、つまり5年前。
世暦2025年のお話になります。
(“俺が来るのを、待っていた”だと?)
鉄からすれば“来た”のはむしろ、この女の方だ。
女は、柔らかに微笑みながら鉄を見ている。
(まぁ、正気で真っ暗闇の中を永遠に1人きりで漂うより、気が狂って幻覚を見てる方がマシかもな)
鉄は、その女と話をしてみる事にした。
「あんたは何者で、どうやってここに来たんだ?」
「私は、一級時空管理者ヤトハ965号です。
次元回廊を通ってここに来ました。
私の今回の目的は……」
女は、事細かに説明してくれたが、鉄には、半分以上良く分からなかった。
理解出来た事を要約すると、
“ヤトハ”というのは、何かの称号か役職名らしく、世襲制らしい。
鉄は、ヤトハの起源に深く関わっている。
イベント・チェンジと人造超能力は将来的には統合され“魔法”と呼ばれる因果律を操作する技術へと進化する。
強力な“とある魔法使い集団”
が、自らの欲望のために大規模な禁忌魔法術“逆流因果”(未来から過去への歴史改変)を繰り返し、因果律のバランスを極端に歪め、世界の中心“根幹世界”に深刻なダメージを与えてしまう。
それにより、分岐世界である多重世界間の境界が曖昧になり、異世界間の生物や技術や文化が流入・流出し始め、世界全体が混沌となるが、その結果として各異世界の魔法文明は驚異的に発展した。
魔法文明の発達により、相対性時空超越理論が解き明かされ、時空観測機“次元回廊”が完成する。
次元回廊で膨大な過去と未来の時空の観測が可能になった人類は、万有因果律の法則を発見。
その結果、根幹世界が崩壊すると、連鎖的に分岐世界も滅亡する事が判明した。そして、根幹世界の崩壊はすでに始まっている事を知る。
各異世界トップクラスの賢者が集結し研究チームが組まれる。
根幹世界崩壊の原因を、発見・排除・修正する方法が確立され、根幹世界の崩壊をくい止めるための異世界間互助組織“時空管理組合”が結成される。
ちなみに、時空管理組合は、各異世界の任意の有志からの出資で成り立っており、たとえ出資者の中に異世界の王族や政治的指導者がいたとしても、あらゆる異世界・国家権力から独立した、あくまで中立・非営利の民間団体で、完全に善意で行動しているらしい。
時空管理組合の設立は、今からおよそ1万年後である。
――鉄には、文明がそこまで発展するのに1万年が長いのか短いのか分からないが、ヤトハ965号が1万年以上未来から来たらしい、という事は分かった。
「なるほど、1万年後の未来からね。
あんたから見れば、俺なんて原始人に見えるのかね?……って、見た感じ、あんた今の人類とほとんど変わらんよな?
身体の何処かが、退化してたり進化してたりはするのか?」
「はて、私はその方面の専門家ではないので何とも……ご覧になってみますか?」
ヤトハ965号が服を脱ごうとするので「いえ、それには及びません」と紳士的に止めておいた。
こんな殺風景な場所で、そんな気分にはなれない。
鉄は、ムードを大切にする男だった。
話を戻して
「良くわからんが、その“時空管理者”のあんたが来たって事は、俺が“因果律”ってのを歪めるか何かするから、殺しに来たって事か?」
「いえいえ!殺すだなんてそんな……
むしろ、逆ですよ。
因果律のバランスを修正するのに、あなたのお力を貸して欲しいのです。
私は、そのお願いをするために、あなたを待っていたのですから。
どうか、お助け下さい!」
「助けて欲しいのは、むしろ俺の方なんだが……それで、俺は何をすれば?」
「ありがとうございます!
実は、今から7年前に、この星を襲った隕石群ですが、あれは本来の因果律では、今ごろ火星に堕ちるはずのものでした。
何者かが、因果律を歪めたのです。
7年前、あの隕石群の衝突で新たな分岐世界が生まれました。
その分岐世界、つまり今のこの世界ですが、この世界から根幹世界を崩壊させる存在が生まれてしまうのです。
非常に危険です!
そこで私達は、その存在を打ち倒す者を産み出す、さらにもうひとつの分岐世界を作りたいのです。
1万年後の未来人である私達は、所属する時空面が離れすぎていて、直接介入出来ません。
現時空人の協力が必要なんです!」
エライ勢いで巻くし立てられ、鉄は面食らった。
「……つまり、具体的には?」
「7年前に堕ちてくる全長50mの隕石を、ある場所に埋めて欲しいのです」
「それなら、それこそ7年前の人間にやらせた方が良くないか?」
「そこは問題ありません。
前後合わせて30年以内なら、同一時空面ですから」
「しかし、今の俺にはこんなモノしかないが?」
左腕を差し出し、予備の腕時計型魔法具を見せる。
だが、ヤトハ965号はニコやかに
「大丈夫です。
私達は間接的になら、いくらでも介入しますから、任せて下さい!」
こうして、鉄は7年前の過去に跳ぶ事になった。




