タイガー&ドラゴン
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悟とドーラがクンバカルナに肉弾戦を挑んでいた時――
ローグ共和国の国境に、ズラリと並んだ208人のイベント・チェンジャーズの足元の地面には、それぞれ小型の力場発生装置が埋められ、青白く光っていた。
全員が一斉に魔短剣を抜くと、マギライト・Oの刀身が小型力場発生装置に共鳴して唸りを上げて光っている。
魔短剣を顔の前に構え、ぶつぶつと呪文を呟く。
中央の滝が、フライングV-D2で演奏を始めていた。
滝の演奏は静かに始まり、そのメロディーと呪文がシンクロして徐々に盛り上がり、吾妻が魔刀を抜いて構える頃には激しく、メロディアスな旋律に変わっていた。
チャド率いるゲリラ軍団が、敵を充分引き付けたのを確認して、撤退を始める。
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「―― 後は、俺に任せろ」
吾妻は、悟とドーラが塚元、星宮、ヤトハと合流するのを横目で確認すると、片手を上げ滝に合図を送る。
滝の演奏がさらに激しさを増す。
そのギタープレイは超絶技巧で、高速で動く指が見えないほどだ。
208人のイベント・チェンジャーズの呪文は、一人一人が違う呪文を唱えていたが、それが滝の演奏と絶妙にシンクロして、ベースやドラムのようにも聞こえる。
吾妻の全身に、マギライト・Oで皮膚に直接印刷されていた紋様が浮かび上がる。
208人のイベント・チェンジャーズがそれぞれ発生させた力場が、吾妻の紋様に吸い込まれていく。
【白銀】が変型を始めた。
ガシャガシャと増殖し、吾妻の露出した肌と頭部を完全に覆い、顔面の【鬼面】と融合。
つるりとしていた鎧の表面は、複雑で鋭角的は禍々しい形のパーツの組み合わせに変化し、パーツの隙間から青白い光の紋様を浮かび上がらせている。
鎧と一体化した仮面は、光の紋様と相まって“吼える虎”の様に見える。
滝の演奏がさらにヒートアップすると、あちこちから竜巻が発生し、上空に“風の竜”が現れる。
風の竜は、舞い上がる砂の動きで現れたり消えたりして見える。
「タイガー&ドラゴン!」
吾妻の声に反応して、上空を漂っていた風の竜が無数に分裂し、クンバカルナと周辺のブラスターに絡み付いた。
白銀の虎が、自在可変翼を拡げ空へ舞い上がる。
変型した【白銀】の全身が冷却され、排気スリットから冷気が噴出される。
吾妻の視界に「ready?」の文字とカウントダウンの数字「30」が表示される。
「Go!」
吾妻の声と同時に、白銀の虎の姿が消えた。
風の竜に動きを封じられたおよそ200騎のブラスターは、超音速で上空から遅い来る白銀の虎の振るう魔刀によって、瞬く間に両断されていく。
動きが速すぎて、白銀の虎がまるで分身しているかの様に見える。
その超高速稼動を可能にしているのは、吾妻の肉体に施されたマギライト・Oの事象変換回路の紋様と、鎧【白銀】である。
208人のイベント・チェンジャーズが生み出す力場を集結し、物理加速と思考加速の制御を可能にするその紋様は、魔装鎧【白銀】と組み合わせる事により、吾妻の肉体そのものを擬似的にイベント・コンバーターに変えて、イベント・チェンジの思考〈入力〉から発動〈出力〉までのタイム・ロスを限り無くゼロにする。
加えて、滝の演奏で生み出された“風の竜”は、敵の拘束のみならず、吾妻に進路と目標の位置をナビゲートする役割を果たしていた。
要するに“対事変コーティング”の正体が、何らかの反応系であるならば、反応〈反射〉を上回る速度で攻撃をしてしまえば良いのだ。
“タイガー&ドラゴン”発動中の吾妻の視界は白黒に染まり、滝の操る“風の竜”だけが明るく見える。 超加速で動く肉体は、空気摩擦で全身過熱され、一瞬で燃え上がる。
粘つく摩擦抵抗で、腕一本動かすのに筋肉繊維が断裂するほどの筋力を必要とした。
吾妻の肉体に施された紋様と、変型した【白銀】は、過熱された全身の冷却と、断裂した筋肉繊維の即事修復のためフル稼動しているが、肉体のダメージは確実に蓄積していく。
一瞬で、全てのブラスターを行動不能にした吾妻は、今はクンバカルナに斬りかかっている。
クンバカルナの厚い装甲はあちこち切断され剥がれ落ち、残った装甲も傷だらけ。
もはや“対事変コーティング”は機能停止し、内部の生体筋肉や機械仕掛けの骨格が露出していた。
風の竜はもういなかった。
【白銀】も、いつの間にか、元のつるりとした表面の鎧に戻っている。
吾妻の視界に表示されていたカウントダウンは「0」で点滅している。
タイガー&ドラゴンの稼動限界はおよそ30秒。
それ以上は、吾妻の身体と滝の指がもたないのだ。
208人のイベント・チェンジャーズは、次の任務のために燃え盛るアポダの森に姿を消す。
彼らは、ナパームの炎を鎮火するため、砂漠に雨雲を発生させた。
雷鳴と共に、局所的な どしゃ降りの雨が降り出す。
アボダの森から溢れだした雨水が、ローグ共和国国境の堀に流れ込み、砂漠の砂に吸い込まれていく。
滝は、燃える炎と どしゃ降りの雨を背に演奏を続けていた。
滝の演奏は、先程とは違う旋律に変わっている。
局所的な豪雨は激しさを増し、森から漏れ出す大量の雨水が、国境の堀を水で満たす。
その水の中から、今度は“水の竜”が現れた。
水の竜がズモモモモと上空に向かって飛び上がり、雨雲の中に消えると、雨がピタっと止む。
雨雲は消える事無く降りてきて、アボダの森をドーム状に被った。




