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イベント・チェンジャーズ   作者: ギリギリ男爵
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思惑

 ヤトハの暴走は止まらない。

 見える範囲のブラスターに、手当たり次第に高速の体当りをぶちかましていく。

 アボダの森の木々を巧みに使い、縦横無尽に飛び回る。

 仕方無しに、悟はマリモに軟体獣軍団の指揮を任せ、ドーラと共にヤトハの援護に廻った。



 崩壊した国境の壁の側面から侵入したブラスターの動きが膠着状態になっているのに気付いたブラストン教授が、指令所のモニターを観察していると、10mは有ろうかという異形の怪物が出てきた。


「あれか、報告に有ったオアシスにいた化け物というのは……ん?」


 何かに気付き、モニターの記録装置を「キュルキュル」と巻き戻し、何度か確認する。


「こ、これは……まさか!?」


 モニターには、ブレた静止画のヤトハが映し出されていた。


******************


 その頃、 吾妻と滝と208人のイベント・チェンジャーズは“切り札”の準備に入っていた。

 国境正面にズラリと並んだイベント・チェンジャーズ。

 中央には、滝が【フライングV-D2】を構え、吾妻の合図を待っている。

 待機状態に入ったイベント・チェンジャーズを護るため、チャド率いるゲリラ戦士達が、メギストシィ軍団に陽動の攻撃を仕掛ける。

 ゲリラ戦士達は、全員死ぬ覚悟だ。

 戸倉博士や魔術村の研究者、ダイダ・バッタ十六世やその側近達、非戦闘員や負傷者達の避難は完了している。

 今回は、戦闘に勝つことが目的では無い。

 そもそも、メギストシィの世界征服はすでに完了している。

 勝利条件は“意思を継ぐ者を残す”こと。

 そして、彼らがこの先安全に暮らせるようにすること。

 そのためには、ローグ共和国はここで全滅したとメギストシィに思わせる事が肝要である。

 塚元の思惑もそこに有った。


 実は、ブラストン教授も塚元の思惑を知りつつ、彼の自由にさせていた。

 ブラストンは偽善者ではあるが、オカルティストではなく、生粋の科学者である。

 管理されないイベント・チェンジによって、ノクトモンドの未来予測演算にゆらぎが生じようが、実はどうでも良いのだ。

 それよりも、イベント・チェンジャーのもたらすだろう可能性の方に興味があった。

 メギストシィの目指す不老不死も、自分自身を実験材料にして若返ってみて「何だ、こんなものか。つまらん」と、不老不死になる事にも興味を失っていた。

 ブラストン教授の目下の興味は、パーフェクト・ヒューマン=“神人”の創造。

 印田鳥栖重工取締役アダム・アドニスとして、日本にいたときに見た、くろがねの素晴らしい遺伝子ジェネティック配列・コード……

(アレを見てしまってから、何もかもが色褪せて見える。

 研究データも、遺伝子サンプルも、全てクロガネ本人に消されてしまった……  もう一度、あの感動的な遺伝子ジェネティック配列・コードを手に入れて、今度こそ、パーフェクト・ヒューマンの完全体を、この手で完成させる!)


 “人類は、どこまで進化出来るのか?”

 その研究をするのために都合が良いので、メギストシィの幹部でいるに過ぎなかった。


******************


 吾妻はアボダ遺跡の屋上で、こちらに向かってズシン、ズシンと歩いて来る巨人を見据えていた。

 あの巨大ロボットの詳細は不明だが、塚元教官の情報に有った“クンバカルナ”とか言う、開発中だった新兵器に間違いあるまい。

 滝によれば、塚元にも詳細は不明で、その戦力がほどのモノかは分からない、との事だった。


 この日のために、吾妻達も新たなイベント・チェンジによる戦術を編み出していた。

 その準備のため、数ヵ月かけて国境周辺に無数の小型力場発生装置を埋め、吾妻の肉体には事象変換回路の紋様パターンが全身くまなく、液状化させたマギライト・Oで印刷されている。

 普段は目立たないが、吾妻が事変力を発動させると、青白く紋様が浮かび上がる。


 迫り来る巨大ロボット“クンバカルナ”の足元には、塚元と仮面の女の姿が見える。


(塚元教官、俺も本気で行きます。

お互いここで死んでも、怨みっこ無しですよ!)


 そう決意し、戸倉博士が設計した吾妻の新装備、戦闘特化型魔装鎧【シロガネ】の装着準備に入る。

最後まで吾妻に付いて残っていた温子に、鎧の背面パーツを装着してもらい、最後に仮面【鬼面】を装着。

 温子が差し出す魔刀を受け取り


「今まで、ありがとうございました。

 温子先生も、早く皆の所へ避難してください。……お元気で」

と言って、行こうとする吾妻。


 温子は、咄嗟に後ろから吾妻に抱きつき、素早く吾妻の顔に両手を添えると、強引に後ろに振り向かせた。

 そして「く、首が」と言っている吾妻の唇に、自分の唇を重ねた。


「吾妻さん、好きです!

 待っています、必ず帰ってきて!」

 そう言って、走り去った。


 吾妻は呆然とそれを見送ると、自分の唇を指で触りながら目を瞑り……

「まったく、温子先生にも困ったものだな……生きて帰る理由が出来ちゃいましたよ」

 決意も新たに、クンバカルナに向かって一直線に飛び出した。

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