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イベント・チェンジャーズ   作者: ギリギリ男爵
24/39

鉄 外伝④:鉄人番長vs.パーフェクト・ヒューマン

 世暦2025年、2月14日。

 秘密結社メギストシィによる世界各地で事象変換関係者を狙った同時多発テロ“血のバレンタイン作戦”通称:魔者弾圧は、おおむね成功していた。

 何割か、討ち洩らした者はいるだろうが、そんな事は想定内だ。


 統京トーキョーで作戦の指揮をっていたアダム・アドニスこと、メギストシィ幹部にして生体工学博士ブライアン・ブラストン教授は、くろがね人士ひとしがつくばに現れたとの報告を受け、急ぎ統京の全部隊をつくばに向けて移動させていた。

 この時代、隕石群衝突の影響で石油燃料の精製設備がまともに稼働せず、備蓄分も枯渇していて、大型航空機は飛ばせなくなっていたので、陸路での移動である。

 移動中、指揮車の中でブラストンは つくばの監視カメラの映像を、食い入る様に見つめていた。


 イベント・チェンジャーと言えど、死角からの攻撃や多方面からの攻撃であれば、通常兵器での制圧が可能だと考えたブラストンは“対 事象変換コーティング”を開発し、ブラスターMB-AWTは防御に特化した兵器として設計した。

 その戦術理念の正しさは、今日こんにちの作戦の成功が証明している。

 だが、ブラストンは監視映像のモニターの前で

「オー・マイ……」と言ったきり口を手でおさえ、目を見開いていた。

 事変攻撃に対しては、絶対の防御力を誇るブラスターが、行動不能におちいっていたからだ。


 報告では現在、成長促進中で有るはずのパーフェクト・ヒューマンと鉄が交戦中との事だが、この時点でのパーフェクト・ヒューマンの戦闘参加は想定外。

 元々、パーフェクト・ヒューマン完成と同時に発動する予定だった、血のバレンタイン作戦の決行日を早めたのも、鉄を警戒しての事だったが、鉄の行動が予測よりもわずかに早かった。

 それにしても、鉄を足止め、あわよくば抹殺する目的で開発した事変怪人が、まさか全滅させられるとは……


 肉体が成熟していなければ、ノクトモンドの超知能の全てを移植ダウンロードするのは不可能である。

 中途半端な状態で、ブラスターの支援も無く、さしものパーフェクト・ヒューマンと言えど、事変怪人を全滅させた恐るべき怪物モンスター 鉄に勝てるだろうか?

 世界各地からの報告では、血のバレンタイン作戦は ほぼ成功している様だが、もしパーフェクト・ヒューマンを失う様な事にでもなれば、それは失敗と言わねばなるまい。

 鉄の遺伝子ジェネティック配列・コードを知り尽くしているブラストン教授は、誰よりも鉄を恐れていた。


(先程、印田鳥栖本社に保管されていた血液サンプルが、何者かによって焼却処分されていた。との報告を受けが、クロガネの仕業に違いあるまい。

 そして今、ヤツ が つくばバイオ・ラボに現れたのも、きっと、ワタシの研究成果を破壊することが目的なのだ……

 そんなことはさせない!

 クロガネ、オマエの遺伝子はワタシのモノだ。

 オマエなど死んでも構わない。

 オマエの“遺伝子サンプル”さえ残れば……

 たのむぞ、パーフェクト・ヒューマン。

 クロガネを殺して、ワタシの研究を守ってくれ!)

 祈りながらモニターを見つめるブラストン教授。


 監視カメラの映像が切り替わり、鉄とパーフェクト・ヒューマンが、モニターに映し出された。


******************


 パーフェクト・ヒューマンの衝撃波に吹き飛ばされ、研究棟に全身を激突させた鉄の眠気は吹き飛んだ。

 身体からだは相変わらずダルいが、意識は覚醒した。

 建物にめり込んだ全身を引き抜いた次の瞬間、その建物が爆発。

 ドッグワァァァ~~ンン!!

 大爆発である。

 パーフェクト・ヒューマンのサイコ・ボム。

 間一髪で脱出し、地上に降り立ち片膝かたひざを着いていた鉄の頭上から、爆破されたコンクリート片やガラスの破片が降り注ぐ。


 パーフェクト・ヒューマンは上空で腰に手をあて、邪悪な笑顔で見下ろしていた。

 イベント・チェンジで重力制御は出来ない。

 鉄ですら中空で静止するなど不可能。

 それを易々とやってのけるパーフェクト・ヒューマンの人造超能力が、イベント・チェンジ以上の力で有るのは明らかだった。


 鉄は、飛行ユニット【パルス・ブースター】を腰に装着、もうもうと煙を噴き上げ上空のパーフェクト・ヒューマン目掛け飛ぶ。


くろがねげんえいりゅうマボロシ刃力拳ハリケーン!」


 くろがね幻影流げんえいりゅうは、鉄の三代前の元力士“相撲番長”こと、くろがね幻影山げんえいざんが、怪我により若くして角界を引退後に創始した、ケンカ格闘術である。

 それに、イベント・チェンジの要素を加えた、鉄人士のオリジナル技が“マボロシシリーズ”である。


 鉄が、右の拳をコークスクリュー気味に突き挙げると、渾身の気弾が渦を巻いて放たれる。


「どりゃぁぁぁぁ~~~!!」

 そこへさらに、左拳からも同じ様に渦巻きを放つと、ダブルの気流は威力をかさね“風の刃”となってパーフェクト・ヒューマンに迫る。


「サイコ・ブリザード!」

 パーフェクト・ヒューマンも負けじと右掌みぎてのひらを鉄に向け強烈な冷凍嵐で対抗。


 ハリケーンとブリザードがぶつかり合い、周囲の建物が見る見る凍り付く。

その低温の乱気流の中から、鉄が一直線にパーフェクト・ヒューマンに迫り、腰にタックルを咬ます。


くろがねマボロシがえし!」

 中空にての投げ技“マボロシがえし”にさしものパーフェクト・ヒューマンも地面に向かって一直線。


くろがねマボロシ火焔ファイアー突攻アターック!」

 すかさず追い討ちとばかり、全身に超高熱の炎を纏った鉄がパーフェクト・ヒューマンに体当り!

が、パーフェクト・ヒューマンは片手で鉄の頭を鷲掴わしづかみ「でぇやっ!」とばかりに、みぞおち目掛け見事なフォームの爪先蹴トー・キックり。

 しかし、格闘戦において鍛え抜かれた鉄に、人工子宮の培養槽から出たばかりのパーフェクト・ヒューマンの打撃が効くはずもなく、鉄はノー損傷ダメージ

 格闘戦では分が悪いと判断したパーフェクト・ヒューマンは瞬間移動テレポーテーションでその場を離脱。結果、炎となった鉄のみが地面に激突し、付近の建物が爆発。

 この間、わずか数秒。

 だが、【パルス・ブースター】は内蔵された事変燃料のエネルギーを使い果たしていた。

 元々、緊急時の移動用ツールとして試作された【パルス・ブースター】は、空中戦闘を想定していない上に、事変燃料は、統京から つくばへの移動に使ってしまったので、当然の結果である。

 

 炎の中で立ち上がった鉄の周囲がキラキラしながら凝縮、氷に包まれた。


「サイコ・フローゥズン!」

 超凍結。

 高熱の炎を纏っていた鉄を中心に、半径5mの空間が結晶状に凍り付く。

 炎は徐々に欠き消され、見る見る鉄が凍り付く。

 上空から、鉄が完全に凍り付いたのを確認したパーフェクト・ヒューマンは、態勢を整えつつ


「サイコ・ナパーァム!」

 今度は、灼熱。

 グブオォォォ~~ンン!!

 結晶状に凍り付いていた鉄もろとも地面に巨大な火柱が噴き上がる。


 極低温から超高温の超常攻撃。

 パーフェクト・ヒューマンは、どうやら自分の超能力を鉄に見せ付けたいらしい。


 火柱は30秒間噴き上げ続けた。

 鉄を中心に半径5mの地面は真っ黒に炭化し周囲の建物は炎上していた。


 鉄は死んだのか?

 ――否!

 鉄は生存していた。

 しかし、かなりのダメージを負ったのも事実。

 かろうじて立ち上がり、上空のパーフェクト・ヒューマンを見上げる


 結構フラついている鉄に対して、パーフェクト・ヒューマンは余裕よゆう綽綽しゃくしゃく片手を腰に、ドヤ顔でポーズを決め、鉄を見下みくだしていた。


「おいおい、まさかあの程度でダメージを受けたわけじゃないだろうね?

 今のは、ほんの挨拶程度だよ?

 君は“最強のイベント・チェンジャー”なんだろ?

 いくら私が、新時代の“神”だからって、もう少しは楽しませてくれないと……」


「ペラペラペラペラ良くしゃべる神様だな。

 てめぇは喋りの神様か?

 お笑い芸人でも目指せよ。

 ノーパンで、人の頭の上で偉そうにしやがって……間抜けで結構笑えるぜ!」


 鉄は、考える。

 パルス・ブースターが使えない今、空を自由に飛ぶ能力を持つパーフェクト・ヒューマンに、空中戦を挑むのは得策では無い。

 イベント・チェンジに、空を飛ぶ術は無い。

 圧縮空気で跳躍ジャンプするだけの“虚空瞬動”では、勝てない。

 では、どうするか?

 パーフェクト・ヒューマンを地面に降ろし、地上戦に持ち込まなければ……


 鉄は、挑発を続ける。

露出狂ヘンタイか?

 女が、大股広げてふんぞり返ってんじゃねぇよ。

 “恥知らず”とは、まさにこの事だよな?

 アダムとイブだって、ちゃんと前を隠してたぜ?

 “神”のあんたがそれじゃあ“新世界”とやらも、たかが知れてるな。

 何だったら、俺の自慢のイチモツも見せてやろうか?」


 鉄の挑発に、パーフェクト・ヒューマンは少しうつむき、スーと地上に降り立つ。

「失敬。

 この身体からだが女性で有るのを失念していたよ。

 君のイチモツを見るのも、遠慮しておこう。

 私としても本意では無いのだが、技術的な問題でね。

 ホムンクルスは女性しか生み出せないのだ」


 本来、ノクトモンドに性別の概念は無い。

 性別を気にするのは、思考の移植ダウンロードが完全では無いからだ。


人格なかみは男なのか?

 だけど本当は、女の肉体からだになって喜んでるんじゃないのか?

 ヘンタイの神様さんとしてはよ?」

 鉄の挑発は続く。


「……下品な男だな。

 君の様な下劣な人間が“最強のイベント・チェンジャー”とは……

 しょせん“道具”に頼らなければ“力”を使えない、まがいものか……」


「“道具”を使うから人間なんだぜ?

 道具を使わない力なんざ、ケダモノと同じだ」


「何とでも言えば良い。

 しょせんは、負け犬の遠吠え。

 ……そろそろ飽きてきたのでね、死んで貰うよ。

 新世界の神である超知能ノクトモンド直々にとどめをさしてもらえるんだ、満足して死にたまえ」


 パーフェクト・ヒューマンは右手人指し指を天に掲げ叫んだ。


「サイコ・エレキネシスゥ~!」


 致死量の高電圧の膜が鉄の周囲を取り囲み、一気に収縮する。

 しかし、鉄を死に至らしめ、消滅するはずの高電圧の玉は、その場に止まっていた。

「成る程。

 確かに、こいつはスゲェ!さすが神様」


 鉄は、パーフェクト・ヒューマンを挑発しつつ、自分の周囲に絶縁フィールドを形成していた。

 その事にパーフェクト・ヒューマンは気付いていなかった。

 何故ならば、パーフェクト・ヒューマンが地面に降り立った瞬間から、幾重にも精神防壁を張り巡らせて、事象変換術式の隠蔽工作を展開していたからだ。


 実はこの時、パーフェクト・ヒューマンのサイコ・エネルギーはかなり消耗していた。

 原因は鉄のファイアー・アタックから離脱するために行った瞬間移動テレポーテーション

 瞬間移動テレポーテーションは、慣れない内はかなりのサイコ・エネルギーを必要とするが、知識だけで経験の無いパーフェクト・ヒューマンはその事に気付かず、また、自分のサイコ・エネルギーや集中力が消耗している自覚も無かった。

 そのため、会話に気をとられ、自分が鉄の事象変換術式の空間内に閉じ込められたのに気が付いていなかったのだ。

 そして、鉄は次にパーフェクト・ヒューマンが電撃系の超能力をつ事も読んでいた。

 パーフェクト・ヒューマンの、おのれの超能力を見せ付けたいかの様な攻撃のバリエーション。

 属性としての風、氷、火、と来て次は地か雷。

 地はどちらかと言えば防御寄りの属性。

 ならば、とどめの攻撃は電撃系で来るに違いない、と。


「“父親”として、子供の躾はちゃんとしないとな」


 鉄がニヤリと微笑わらうと、右手掌の上で高電圧の塊が式神タマの姿に変わる。

 上空に逃げようとしたパーフェクト・ヒューマンだったが、浮かび上がろうにも防御結界シールドバリアが頭上に張られている。

 これも、鉄はあらかじめ仕込んでいた。


「サ、サイコ・シールドォ!」


 パーフェクト・ヒューマンが咄嗟に防衛フィールドを張るよりも速く、鉄は式神タマ〈電撃version〉を放っていた。


「……」パタリ。


 自分が作り出した高電圧に頭部を焼かれ、パーフェクト・ヒューマンは悲鳴も上げず倒れた。


 その姿は、幼い少女の姿に戻っていた。


(“超知能”なんつーから、激ムズのクイズでも出されるのかと内心ヒヤヒヤだったぜ……)


 鉄は立ち入り禁止の生体研究区画一帯を完全に破壊し、念のためオクトパウスやパーフェクト・ヒューマンの研究設備を爆破し、研究資料は燃やし尽くした。


 目的を果たし、立ち去ろうとした鉄だったが、何故か気になりパーフェクト・ヒューマンの少女の元へ戻ってきた。

 いくらかサイコシールドで防衛出来ていたのか、電撃による頭部の損傷は然程さほどでも無さそうである。

 呼吸は止まっているが、まだ死んでいるわけでは無さそうだ。

 鉄は少女の頭に手を置き走査サーチする。

 電撃によるショックでノクトモンドの意識は完全に消去リセットされ、脳の中には意識が何も無かった。

 やはり、不完全な移植ダウンロードでノクトモンドの意識が完全に定着していなかったのだ。


 蜂女を治療した事で、脳の構造をそれなりに理解出来る様になっていた鉄が、損傷部分を修復してやると、少女は蘇生した。


「……しょうがねぇな、こいつも送っといてやるか」


 片腕で少女をかかえ、転移ゲートに向かう鉄の背後から、ブライアン・ブラストン率いるブラスターの大軍団が迫りつつあった……


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それで、鉄はどうなったんですか!?」


「そこで鉄の消息は途絶えている。

 何が有ったか分からんが、つくばテクノポリスは、広範囲に渡って粉微塵に吹き飛んでいたしな。

 俺も色々調べたが、鉄のその後の足取りは掴めなかった……」

 吾妻の質問に塚元が苦々しく答える。


 アボダ寺院内の多聞珈琲出張店にて、吾妻、滝、戸倉博士が塚元の話を聞いていた。


 塚元は魔者弾圧後の5年間、シンキバ地下施設に潜伏し、生き残った教え子達を星宮と共に保護しつつ、メギストシィの情報を調べていたらしい。


 鉄のつくばでの一件は、当時その場にいたメギストシィの研究員を見付け出し、締め上げて情報を吐かせた上で、後に塚元自ら、廃墟と化したつくばテクノポリス跡地に赴き、サイコメトリーした結果分かった事であるらしかった。


「ワシ等をこっちに逃がした後、そんな事になっとったとは……」

 戸倉博士が感慨深げにつぶく。


 

「皆さん、式典のリハーサルが始まりますよ」

 戸倉博士の付き添いと、悟のサポートのために山から降りて来ていたヤトハが吾妻達を呼びに来た。


 アボダ寺院には全世界から反抗勢力が集結し、その規模は現在5千人に達している。

 今日は決起集会のリハーサルで、戸倉博士もアボダ寺院に降りて来ていたのだ。

 その中には生き残ったイベント・チェンジャーズ208人も含まれていたが、鉄の姿は無かった。


 吾妻は、ヤトハの顔をマジマジと見詰め

(パーフェクト・ヒューマン……か。

 確かに、良く見れば、鉄の面影が有るな)


 そう思いながらコーヒーを飲み干し、席を起った。

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