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イベント・チェンジャーズ   作者: ギリギリ男爵
20/39

真相

 チャド率いるゲリラ部隊が、ダイダ・バッタ十六世の救出に成功したとの情報は、海賊放送で瞬く間に世界中に発信された。

 “ が、遂にTOTWOを打倒するために手を組んだ”

 そのしらせに、TOTWOの世界支配に反抗する各地のゲリラ組織は狂喜乱舞して喜び、こう思う。

(自分達も、“生ける伝説”革命戦士チャドと聖人ダイダ・バッタ十六世の元で戦いたい!)

 今、世界中からゲリラやレジスタンス、そして彼らに協力しているイベント・チェンジャーズがアボダ遺跡を目指し移動していた。


 ――徐々に人数が増えていくアボダ遺跡の今後をどうするか?の話し合いが休憩に入った時、吾妻はついに塚元に“鉄”や“彼女”の事を聞いた。

 万が一、魔者弾圧で命を落としていたら……

 そう思うと、今までなかなか聞けなかったのだ。


星宮ほしみやは無事だよ。

 今もニホンにいる。

 事変高専の教師になったのは知ってるよな?」


「はい。

 5年前の、通信妨害が始まるまでは、メールや電話で連絡を取り合ってましたから……」


 吾妻の元カノ、星宮ほしみや由紀ゆきは大学卒業後、念願だった事変高専の教師になっていた。

 吾妻は赴任先から国際電話で彼女に「おめでとう」を言った事を思い出す。


「星宮はなかなか優秀な教師でな、今も事変高専の生き残った生徒達を保護しているよ。

 俺が今ここにいるのも星宮のおかげさ」


 吾妻はひとまず安堵した。


「鉄は?

 まぁ、アイツがそう簡単にどうこうなるとも思えませんが……」


「実はな……星宮は、お前に心配かけまいとしらせて無かったようだが、鉄は魔者弾圧が始まる2年前から、表向きは“行方不明”ってな事になっていてな」


「それは、いったいどういう事でしょうか?」


「星宮は、鉄が行方ゆくえをくらます直前に、鉄本人から頼まれたそうだ“吾妻を巻き込むな”と」


 吾妻は、星宮由紀からのメールに、やたらと鉄の事が多くつづられるようになったのが、魔者弾圧開始の2年前からだったのを思い出した。

(鉄と星宮が付き合うなら、それを祝福してやろう)

 当時はそう思っていたが、それが実は自分の勘違いで、鉄の行方不明を隠すためだったとしたら?

 鉄の詫びるようなメールも、何らかのトラブルに巻き込まれ「彼女を頼む」と言った自分との約束が果たせなくなった事への詫びだったとしたら?……


 吾妻は自分の足元が揺らぐような感覚を覚えた。


 塚元が続ける

「あの当時と今では、状況が違うからな。

 もう隠すことも無かろう。

 魔者弾圧以後、俺にもいろいろ分かった事もあるしな。

 だから話そう、あの時ニホンで何があったのかを……」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


5年前。

 魔者弾圧開始のその日。

 塚元は親族の葬式で統京トーキョーを離れていた。

 その帰り、名古屋を過ぎたあたりで、電車が突如停止。

 大規模停電だと分かった時、何か胸騒ぎを覚える。

 “イベント・チェンジャーの勘”で何か異常な事態がおこりつつあるのを察知し、そこから瞬動で統京へ。



 統京都内は濃い霧に包まれ、あちらこちらで火災が発生していたが、消防車や救急車の姿は見当たらない。

 急ぎ、職場である事変高専に到着した塚元が目にしたものは、破壊され無惨な瓦礫と化した校舎だった。


「何だ、これは? ……いったい何があった?」


 茫然として立ち尽くす塚元の耳に、遠くからかすかに爆発音が聞こえる。

 統京湾新埋立て地の事変高専から、爆発音のする都心に向かった塚元の目に映ったのは、奇妙な光景。

 都心全体が不自然な濃霧に覆われていた。

 日の光はさえぎられ、昼だというのに薄暗い。

 爆発音する方へに向かう間、人の姿を見かけない。

 真っ昼間の、平日の都心だと言うのに……

 その霧の中、散発的に爆発が続く。


 現場に到着した塚元は、ガスマスクを着けた完全武装の兵隊と遭遇。

 10人ほどの兵隊が、民間人と思われる人々に銃を押し付け、拘束し、護送車に詰め込んでいる最中だった。

 さらに、別の場所からも爆発音が聞こえている。


(テロリストの検挙なのか?警察?自衛隊?

 あんな軍服、見たこと無いぞ?)


 拘束されている人の顔を良く見てみれば、どれもこれも見知った顔だった。

 皆、事象変換技術に関係する人達である。

 そして、何人かは血を流して地面に横になりピクリとも動かない。

 塚元は、襲撃されている建物を見て気が付いた。


(ここは、事変関連の行政執行部のビルだよな?)

 そして声を荒げ

「おい! コレは何だ?お前ら何やってんだ!?」


 ダダダダダ!

 塚元の声に、一人の兵隊が反射的に銃撃してきた。

 いきなりの発砲で、左肩と左太ももを負傷したが、咄嗟に防御結界を張り銃撃を防ぎつつ、自らに治癒術をかける。


「いたぞ! “魔者デーモン”だ!」


(デーモン?俺の事か? ……もしかしてイベント・チェンジャーの事を言ってるのか?)


 塚元はその兵士を見つめる。

 ガスマスクで表情は分からないが、兵士は外国人で、しかも、かなり怯えているように見える。


 兵士の声に反応して、霧の中から4~5mの“巨人”が現れる。

 隕石衝突後に、災害復興のために開発された油圧式の“作業”とは明らかに違う、滑らかな動きで、塚元の眼前に立ちはだかる。

 それは、TOTWOが世界征服のために秘かに開発していた“対人・対物戦闘機動装甲歩兵ブラスターMB-AWT1型”

 ブラスターの振り上げられた右腕が、塚元目掛け降り下ろされる!

 ブラスターの右腕は“防御結界”を難無くすり抜け、その腕に塚元は掴まれた。


(防御結界を、素通りだと!?)


 ブラスターに捕らえられた塚元が脱出をはかるが、イベント・チェンジが発動しない。


(この兵器には、イベント・チェンジを無効化する仕掛でもあるのか?)


 ブラスターの右腕に力がこもる!

 塚元が、握り潰される覚悟を決めた時、ブラスターの後ろから、スーツ姿の金髪碧眼の美青年が現れ、声をかけた。


「おいおい、殺しちゃマズいよ?

 キミ達“魔者デーモン弾圧部隊”は、ちょっと殺し過ぎだよねぇ。  ……少し洗脳が効き過ぎたかな?

 えっと、この“魔者デーモン”には、いくつか聞きたい事があるんだ。

 生かしておいてくれたまえ」

 そう言う金髪碧眼の美青年。


 始めて見る顔のはずだが、塚元にはその青年のしゃべり方や仕草に、見覚えを感じる。


「……ブラストン教授?」


 塚元は事変高専の指導教官になる前、芹田晴彦博士の助手をしていた。

その当時、北米から共同研究の名目でやって来たブラストン教授の身の回りの世話をして、教授とは親しくしていたのだ。

 しかし、教授は当時、すでに60歳を越えていたはず……

 今、目の前にいる若者は、ブラストン教授の息子か何かなのか?


 塚元の呼びかけに、青年は「チッ」と舌打ちして

「せっかく遺伝子レベルで顔や身体を改良し、若返ってるというのに……なぜ分かる?

 イベント・チェンジャーってヤツらは何かと“勘”が鋭いな……

 ひさしぶりだね塚元君。

 いかにも私はブライアン・ブラストンだ。

 しかし、今は“アダム・アドニス”と名を変えていてね……」

 

「大変です! ブラストン教授!」


「だから、アダム・アドニスだと言って……」

 無線機を抱えた兵士が、ブラストン教授に駆け寄り、何やら耳打ちすると

「なん……だと?」


 ブラストン教授の顔面は蒼白になり

「その男は生かして拘束しておけ!

 塚元君、キミには後で話がある。

 私は急用ができた」

と言って、急いで指揮車輌に乗り込み、何処かへ行ってしまった。


 残された兵隊達が撤収の準備を始め、塚元はブラスターの腕から護送車に移される隙をいて隠し持っていたスマホを操作し拘束を破る。

 瞬動で逃げようとしたが、左太ももの傷が完治しておらず、けつまづいてしまった。


 ダダダダダ!

 兵士達の銃撃を防御結界で防ぎ、イベント・チェンジで応戦。

 そうしている間にも、トレーラーに積まれていたブラスターに操縦士オペレーターが乗り込み、再起動を始めている。


(あの人型兵器には、イベント・チェンジが効かない。

 護送車に捕らわれている他の連中の救出は無理か……)


「塚元先生、こっちです!」

 ふいに塚元の耳に女の声が聞こえた。

 見ると、ビルの陰から手招きしている。

 それは、塚元の後輩若手教師。

 かつては塚元の教え子の中の1人。

 そして、吾妻の元カノ星宮ほしみや由紀ゆきだった……





 塚元は、星宮の助けで地下鉄の構内に逃げ込み、地下道を通って瓦礫と化した事変高専に戻ってきた。

 空はもう暗くなっている。

 崩壊した校舎の中で、塚元が星宮に訊ねる。

「ここも、あの軍隊と人型兵器にやられたんだな?」


「はい……授業中、校舎に突然ミサイルが撃ち込まれて」


「何人犠牲になった?」


「教師は……生き残ったのは私だけです。

 生徒が……さ、36に……ん……」

 星宮は泣き崩れた。


 今年度の事変高専は1クラス10人、1学年に5クラスの四年制なので、生き残りは164人。


「生徒達は今どこに?」

 星宮が泣き止むのを待って、塚元が聞いた。


「シンキバの地下施設です」


 シンキバ地下施設は、元は大昔の大日本帝国時代に建造された地下軍事基地跡。

 それを、芹田晴彦博士が私的に日本政府から借り受け、タレント業と出版や発明や特許で稼いだ私財を全て注ぎ込み、実験研究施設に造り替えた、事象変換技術開発初期の秘密実験研究所。

(ティベルト・魔神石採掘場の地下施設は、ここを模倣して建造された)


 国立の正式な事変研が設立されてからは“倉庫替わり”として使われ、有事の際の食料や生活用品の備蓄もあり、300人位なら、余裕で収容出来るスペースがあった。


 事変高専体育館の用具室に、シンキバ地下施設に繋がる地下通路の秘密の入口があり、生徒達はそこから避難させた。

 避難誘導は星宮に任され、残った事変高専の教師は、襲撃者を引き付けるオトリ役として最後まで戦い全滅。

 事変高専教師陣は、イベント・チェンジャーを育成するのが目的で、実技指導教官の塚元や事変高専出身で教師になった星宮以外は、事象変換研究者と同じく事変力適性値はさほど高くなかった。

 全滅は覚悟の上だったのだ……


「私は生徒達を避難させた後、生き残った人がいないかと戻ってきたんです。

 そしたら、塚元先生が瞬動で駆け出すのを見て、後を追いかけました」


「おかげで命拾いしたよ。ありがとう」


「塚元先生が生きていて、本当に……良かった……」


 星宮が、また泣き出した……





 夜の内にシンキバ地下施設に移動した方が良いだろうと、塚元と星宮は地下通路の入口がある体育館に向かう。

 塚元が、電灯替わりしようとスマホを取り出すと、塚元のスマホは機能を停止していた。

 良く見ると、左上が欠けている。

 最初の銃撃を受け、肩と太ももを負傷した時に、このスマホにも弾が当たっていたようだ。


(良く今まで作動してたな……)

 塚元は、自分のスマホに感謝し、懐にしまう。


 瓦礫と化した事変高専の資料室で、代わりのイベント・コンバーターを探し、かろうじて使えそうなバトン型の初期型試作機を見つける。


「塚元先生……それ、操作が難しくて、誰も使えないって聞いてますけど?」

 星宮が心配そうに塚元に言うと


「スマホと同じさ。

 てのひらから思考波を入力する。

 ただ、初期型で補助機能が付いて無い。

 だから、頭に直接着けるヘッドマウントタイプより集中力が必要になるんだ。

 だが、慣れれば結構使えるぞ?

 芹田博士がコレを造った時、俺は制作を手伝った。

 コイツの外観は、俺がデザインしたんだ」


 塚元は、懐かしそうに、そしてちょっと自慢気に、初期型試作 事象変換器イベント・コンバーターを握りしめた。





体育館用具室の秘密の入口は、事変力に反応して開く仕組みなので、襲撃者がここから浸入する心配は無さそうだ。

 地下通路に下り、シンキバ地下施設までは歩いて行く。


 歩きながら、塚元がつぶやいていた。

「……さっきのビルに事変高専。

 事象変換技術関係者を狙ったテロか?

 しかし、テロにしては警察も治安維持部隊も動かないのはおかしい。

 そして、あの都内全体を覆う霧……

 まず間違いなく、人工の霧だろうな。

 あれだけの騒ぎに、野次馬すら見当たら無かった。

 ブラストン教授は“洗脳”がどうとか言ってたが……それにしても、規模がデカ過ぎる。

 もしかして“2年前の事件”と何か関係あるのか?」


 ほとんど独り言の様につぶやいていた塚元だが、最後の言葉はハッキリと星宮に話しかけていた。


 2年前の事件とは、事象変換技術関係者の間では有名な“鉄 冤罪・失踪事件”である。

(鉄と親しかった星宮は、何か事情を知っているはず)

 塚元はそう確信していたが、今まで気をつかって、あえて聞かずにいたのだ。


 しばらく黙っていた星宮が語り出す。

「鉄君からは、皆を巻き込みたくないから黙っていてくれと頼まれていたんです。

 塚元先生は“メギストシィ”って知ってますか?」


「メギスト……都市伝説に出てくるアレか?」


「そうです“秘密結社メギストシィ”」

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