コメーティア
今回はパロディ、オマージュ(パクリ?)要素を多分に含みますので、苦手な方はご注意下さい。
「コメーティア?
温子先生は“これ”が何だか、ご存知なんですか?」
そう聞いた吾妻には、モヤモヤとした光るヒトデの様にしか見えていない。
「あ、あの、子供の頃見てたアニメのキャラクターに似てるかなって思って……」
同じモノを見ているのに、二人には同じ様には見えていなかった。
温子が、小学生の頃ハマったテレビアニメ[魔法美少女プリンセス・マギカ☆ムーン]は、当時一世を風靡した大ヒットアニメで、第一期放送期間中に隕石衝突が起こり、全52話予定のラストエピソード12話分がお蔵入り。
それが逆に人気に火をつけ、社会現象に。
結局半年後にラスト12話がテレビ放映され、その後シリーズ化が決定。
テレビシリーズ5本と劇場版3作品が作られ、外伝が漫画化や小説化もされた。
「あ、私も、詳しくは知らないんですよ」
……嘘である。
放映当時、小学生であった温子は正に直撃世代で、お小遣いの殆どはこのアニメの関連グッズ購入に注ぎ込まれ、関連書籍も可能な限り購入し、製作当時のこぼれ話から裏設定、ボツ設定、スタッフやキャストのインタビューまで読み漁り、将来の進路を“魔法使い=イベント・チェンジャー”に決定付ける程にドハマリしていた。
もし“魔法使い”がダメなら、アニメの仕事に就こうとすら思っていた。
マギカ☆ムーンの事で、知らない事は無いと言っても、過言では無いだろう。
吾妻に、自分がオタクだとは思われたく無いのか、リア充と思われたいのか、要らん見栄を張って、嘘をついている。
コメーティアは、マギカ☆ムーンに登場する小さな妖精で、彗星に乗ってマジカルスター星から地球にやって来る。
主人公に魔法の力を授けるマスコット・キャラなのだ。
彗星と魔法から関連付けて、温子がイメージしたのがコメーティアであった。
サイコダイブ中のダイバー間の思考は、精神融合を防ぐためと、プライバシー保護のためブロックされているので、記憶や知識の差異によって同じモノを見ていても、違う様に見える事は多々ある。
実はヤトハも、まだ言葉が喋れない頃に温子が寝物語に話してくれたマギカ☆ムーンのコメーティアをイメージしてビジョンを出したのだが、当然実際のコメーティアのデザインを知らないので、何となくおぼろげに、子供の落書きレベルでしかイメージ出来ていない。
悟には、なぜだかカエルが見えている。
「このままじゃ、埒があかないわ」
上のバイオ研究室でモニターを見ていた夜美によって、温子のマギカ☆ムーンの記憶だけが限定解放されると、吾妻、ヤトハ、悟にマギカ☆ムーンの記憶が一瞬でコピーされた。
この場合、コメーティアのデザインだけで良かったと思うのだが、温子の見栄などお構い無しの夜美による、“半分サービス、半分嫌がらせ”である。
「ほう、凄い!
詳しくない どころか、専門家レベルの知識ですよ、温子先生!」
吾妻が素直に感嘆の声を上げる。
「いえ~、それ程でも……」
(夜美ちゃんのヤツめぇ~! 要らん事を~!)
「ほぇ~、凄いです~……」
一瞬とはいえ、テレビシリーズ5作品、劇場版3作品を一気見し、関連書籍をほぼ読破したのと同じ+温子による思い出補正&脳内補完で美化された記憶は、オリジナルのマギカ☆ムーンではないにせよ、充分なボリュームが有り、これが生まれて初めての“アニメ初体験”のヤトハは、頭がクラクラしていた。
「なるほど! これが“コメーティア”」
アニメなど5年ぶりの悟も、かなりの衝撃を受けたが、ヤトハの手前、何とか平静を装っている。
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余談だが、後に悟とヤトハによって、学校内にもたらされたマギカ☆ムーンのお話は、子供達の間で一大ブームとなり“マギカ☆ムーンごっこ”が大流行。
ブームは過熱し、温子先生のマギカ☆ムーンの記憶を自分達にも見せろ見せろと、生徒達の署名運動にまで発展する。
結局、温子先生は、マギカ☆ムーンの記憶を生徒達にダウンロードするために、泣く泣く、再びサイコダイブする(恥ずかしいダイブスーツを着る)ハメにおちいるのであるが、それはまた別のお話。
【魔法美少女プリンセス・マギカ☆ムーン】
あらすじ:
遥か彼方の暗黒星雲から、地球征服にやって来た“宇宙秘密結社[ネメシス暗黒銀河軍団]”
それを阻止するため、光銀河のマジカルスター星から、彗星に乗って魔法の妖精コメーティアと仲間達が、地球に降り立つ。
仲間とはぐれ、ひとりぼっちになったコメーティアは、野良猫に追いかけ回され、危機一髪の処を中学2年の女の子“月乃宮小明”に助けられる。
どさくさに紛れて雇用契約を結ばされ、
ファンタジカル・アーマーを装着して
“マギカ☆ムーン”に変身してネメシスのエージェントと戦うハメになる小明の前に、
敵か味方か“ダンディー・マスク”が現れる。
第2の契約者“マギカ☆マーズ”
第3の契約者“マギカ☆マーキュリー”等、次々と集結する仲間達。
(最終的には10名の大所帯となる)
ネメシス幹部“美少年ボーイ・ブルー”との淡い恋。
そこに“美男子キッド・バサラ”が現れ、三角関係に?
マギカ☆ウラヌスの裏切り?
ダンディー・マスクは生き別れのお兄ちゃんなの?
と言ったハラハラドキドキのストーリー展開は、もう目が離せません!
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4人がマギカ☆ムーンの記憶を共有した事で、コメーティアの姿がハッキリと見える様になった。
平面のアニメ絵では無く、3Dの立体として。
「これが、コメーティア!」
物心付く前に聞いていたお話の登場人物を直に見たヤトハが、確認するように声を出す。
妖精が背中の羽根をパタパタ動かし、ふわふわ浮きながら4人を見回し
「ワタシハ、マリモ、ヨロシクネ」
と言う。
「お前はマリモじゃないだろ?
コメーティアだろ?」
悟が冷静に突っ込む。
「隕石さんは、マリモの記憶と知識を経由して話しているから、しかたないんだよ」
ヤトハが悟に説明する。
無機物の思考構造体に“個体名”という概念は存在しない。
吾妻は(見たかったのは、もっとこぅ、周りの景色とかだったんだが……まぁ、これでも良っか)と、気を取り直しコメーティアにインタビューを試みる。
「ここに堕ちる直前、何か有りましたか?
引き戻されて、凄い衝撃が有りましたが?」
「?」
吾妻の問いに妖精が首を傾げる。
「あなたは、何か目的が有ってここに来たんですか?」
温子が、吾妻のフォローをしようと質問を変えた。
この地に軟着陸したのは、この隕石の意思か?
或いはそれを誘導した、何者かがいるのか?
温子はそれを確認したかったのだが、妖精は意外な事を言い出した。
以下、温子と妖精の問答。
「ワタシタチノ、モクテキ、ハ、シンカ」
「シンカ? 進化ですか?」
「ソウ、シンカノ、タメニ、ホロボス」
「滅ぼす? 何をですか?」
「コノホシノ、スベテ」
「全て? 私達も?」
「ソウ、ホロビト、シンカハ、オナジモノ」
「滅びと、進化が同じ?」
「ソウ、ホロビヲ、イキノコルト、シンカスル」
「生き残ると進化する?」
「ソウ、ソレガ、モクテキ、デモ、ヤメロト、イワレタ」
「止めろと言われた? 誰にですか?」
「ベツノ、シネンタイ」
「シネンタイ? 思念体ですか?」
「ソウ、ソレガ、ココニイタ、ソコニモ、イル」
「どうやら、その“別の思念体”とやらが、我々人類を絶滅から救ってくれた様ですね」
吾妻が温子に語りかける。
「その思念体とは誰ですか?」
「?」
温子が、吾妻の最初の質問の答えを導こうとするが、妖精は再び首を傾げた。
……サイコダイブ制限時間の10分が近付き、ダイバースーツのカラータイマーが赤く点滅を始めた。
「そろそろ、ダイブ・オフするぞ」
吾妻の声に反応し、悟が最後の質問をする。
「教えてくれ!
俺達は、いずれ滅びるのか?」
「ホロビ、ト、シンカ、ハ、オナジモノ」
「進化ってなんだ?」
消えゆく景色の中で、コメーティアの姿をした妖精が悟にニッコリ微笑む。
「オクリモノ……」
そう言って妖精は消え、吾妻達ダイバーの意識は泉の底で実体に戻った。