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イベント・チェンジャーズ   作者: ギリギリ男爵
10/39

サトシ

 大山おおやまさとし11歳。

 現在、祖父である大山 昇と2人暮らし。


 悟の両親は、つくばテクノポリス・事変技術研究所の職員だったが、5年前の魔者弾圧部隊の襲撃で犠牲になった。

 当時、悟は6歳。

 つくば研究都市・事変区画の敷地内にある職員用マンションの一室で、最近同居を始めた祖父の昇と、2人でおかしを食べていたところを、魔者弾圧部隊に襲撃され、拘束された。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――その後の事は、ぼんやりとしか憶えていない。

 誰かに助けられ、ここに逃げてきた。

 両親の死を知らされたのも、ここに来てしばらく経ってからだった。


 両親のいない子供は、学校の生徒の中でも悟とヤトハの2人だけ。

 “自分と同じ境遇の子供”がいる。

 その事が、悟の寂しさをまぎらわしてくれた。

 悟にとってヤトハは昔から“気になる相手”だった……。


 悟にとってヤトハは“謎”の存在だ。

 何故、こんなに気になる?

 最近、顔を見れば憎まれ口を叩いてしまう。

 そんなつもりは無いのに……



 昔は違った。俺はもっとヤトハの事を思いやっていた。

 俺はもっと“良いヤツ”のはずだった。


 この村の人々は全員、日本のつくばにいた頃からの知り合いで、武も敦も純子も香も温子 ねぇも……

 皆同じつくばテクノポリス・事変研究所の職員用マンションに住んでいたお隣さんで顔見知りだったが、ヤトハの事は誰も知らなかった。


 あの時は、大人達はこの村を“人の住める場所”にするために忙しかった。

 つくば研にバイトで来ていた大学生の夜美さんと、その時はまだ中学生だった温子姉が子供達の面倒をみてくれた。

 おもに俺達は夜美さん、ヤトハは温子姉が世話していた。

 ここに来たとき、ヤトハは“記憶喪失”とかで言葉も喋れなかった。

 何も出来ない赤ん坊の様だった。

最初、ヤトハは気持ちが悪かった。

 身体は俺と同じくらいなのに、中身は赤ん坊。

 不気味だったが、俺は怖い物見たさでちょくちょく見に行った。

 何回か見てれば慣れるもんで、俺はヤトハの遊び相手になってやった。

俺はヤトハに色々教えてやった。

 その後、村が出来て、家が出来て、畑が出来て、学校が出来て……

 俺達はそれぞれ新しい自分の家に帰った。

 そして、ヤトハは戸倉博士に引き取られた。


 それから3ヶ月後、ヤトハが学校に来た!

 “デカイ赤ん坊”のヤトハでは無く、“普通の子供”のヤトハ。

 温子姉も(その頃の学校の先生は志水さんで、まだ温子姉は生徒だったが)俺と一緒に驚いていた。

 変わればかわるモノである。

 ヤトハは、俺が教えてやった色々な事を覚えていた。

 教室で皆に挨拶した後、俺と温子姉のところまで来て「お世話になりました、ありがとうございます」と頭を下げ、「これからも、よろしくお願いいたします」と言ってニッコリ笑った。

 それは、俺が知っていた“何も出来ないヤトハ”では無かった……


 ヤトハは、すぐに皆と打ち解けて、学校に馴染んでいったが、相変わらずここに来る前の記憶は無かった。「まぁ、気にすんなよ」俺は、お互い“爺さんと二人暮らし”のよしみで そんな事を言ってやった。


 俺は、学校で一番スポーツが出来た。

 子供の中で、俺に張り合えるヤツはいなかった。

 ヤトハが来るまでは……

 俺とヤトハは“対等の友達”になった。


 その年の冬「オクトパシアンのケセラ、パサラが死んだ」と泣いていた。

 俺は始め、猫か犬の品種かと思っていたが、その後、実際のオクトパシアン“マリモ”を見たときは度肝を抜かれた。

 まさか、宇宙人だったとは!


 そして3年目、志水さんが忙しくなったので、温子姉が卒業してそのまま学校の先生になり“温子先生”になった。

 温子先生が俺たちに教えるようになってから、学校で“魔術”の授業をする事になった。

(ここに来てから3年、温子姉は秘かに魔術の練習をしてたそうだ)

 それまでも大人達は普通に魔術を使っていたそうだが、俺は知らなかった。

 随分と地味な魔術だったので、俺達はそれが魔術だとは気が付いていなかった。

(例えば、火を起こすとか、ちよっと速く走るとか、物を接合するとか、野菜を早く大きく育てるとか)

 そもそも、俺の爺さんは魔術の科学者では無く、元“大工の棟梁”だからなおさらだ。

 初めて教室で温子先生の派手な魔術を見た時は驚いたが、俺はすぐにもっと派手な凄い魔術が使えるようになった。

 やっぱり俺は天才だと思った。

 ……しかし、俺よりもっともっと凄い魔術が使えるヤツがいた。

 ヤトハだ……


 ヤトハは、次から次へと新しい魔術を覚えていった。

 他の皆は「わー、凄い! それ、どうやるの?」などとヤトハをおだてて、ちやほやと誉めそやす。

 俺は言ってやった「お前ら、プライド無いのか? 悔しく無いのかよ!?」って。


 ……思えば、スポーツで張り合っていた頃が一番楽しかった。

 お互いの力が拮抗していたからだ。

 俺は必死に頑張ったが、ヤトハとの差は開く一方だった。

 ヤトハは、戸倉博士に新しい専用の魔術服まで造ってもらっていた。


 俺はもう、ヤトハのライバルでは無くなっていた。

 1年経つ頃には、俺とヤトハは“対等の友達”では無くなっていた……


******************


 そんな事を考えながら、悟は下校途中の用水路で、カエルを眺めていた。


 カエルに向かってつぶやく。

「何だよヤトハのヤツ、あんなオッサンと仲良くしやがって。

 最初は、戦ってたじゃねぇか!

 ……しかし、ヤトハとオッサンの闘い、凄ぇ動きしてたな。

 俺もあれくらい動ければ、またヤトハと……」


 そこへ突然、ガサガサと音がして

「よぉ! 悩める少年! ……いや、恋する少年か?」

 満面に笑みを浮かべた吾妻が現れた。


「な? バッ、いきなりバカな事言ってんじゃねぇよ!

 何の用だ? 昨日の続きか!?」


「そうだ、その通りだ。

 キミは、俺との勝負を受けた。

したがって、今後あの岩がどうにかなるまで 、我々と行動を共にしてもらう」


「ふ、ふざけんな! なんで俺がテメェらなんかと!?」


「ちなみに、キミに拒否権は無い!

 保護者の大山さんには、許可をいただいている。

 熱本あたもと先生にも、了承済みだ。

 お互い、得られる情報は共有しなければ、フェアな勝負とは言えないだろ?

 今朝、俺は調査の専門家を現地に派遣した。

 そろそろ そいつが帰って来る時間だ。

 これから 対策会議を始める。

 当然、キミにも参加してもらう。

 さぁ! ついて来たまえ」


「てめっ! バカやろ、コノやろ!

 ふ、ざ、け、ん、な! はなせ! はなせぇぇ~!!」


 吾妻は、暴れる悟の首根っこをつかみ、無理矢理引きずっていった。

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