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98:黒い商人、白い商人①

 出会いがあると云うなら、無理にピートを捜すことも無い。

 予定変更で、今日は商人が店を並べる中央通りに出かける事になった。


 一応、俺たちも商人って事になってるんで、それなりに商売っぽい事もしなくちゃならない。

 何も取引せずに街中をウロウロしてるだけじゃあ、それだけで怪しまれて衛兵にしょっ引かれる理由として十分すぎる。

 だからリンツに入城した初日から、きちんと取引もしている。


 取引する商品は相変わらずの塩と、それから『魔石』だ。

 塩は馬車に乗せてきた分だけだけど、選りすぐった上質の品だったので評判は上々。

 根拠地のスーザを知られる訳には行かないので、時期を見てタタンでの取引も可能だと、話を広げておいた。

 タタン出身の商人ってイメージが少しでも付けばありがたいし、何より次の商談への良い繋ぎになっている。


 さて、俺たちが用意したもう一つの商品である魔石は魔法力を封じて必要に応じて解放、使用する事が出来るすぐれもの。

 山小屋を隠す為にローラが使ったあれだ。


 こいつがあれば魔力の弱い魔法使いでも実力以上の、或いは系統の違う魔法を使いこなすことが出来る。

 そして、これは基本的に自然物じゃない。

 リバーワイズさんの様な『錬金術師』と呼ばれる魔法使いが造り出すもので、不純物の少ない鉱石に魔力を込めて魔法発動の補助に使われるって訳だ。

 今回はスーザにあるリバーワイズさんの屋敷から、ローラに頼んで低品質のものを二十個ほど見つくろってもらった。

 あと、安いアメジストに俺の魔法を込めてみたモノも三つほど。


 屋敷から持ち出したものは、ローラたちにとって売り飛ばしても問題にならない程度の粗雑品扱いだけど、流石はリバーワイズさん特製品。

 どの店に行ってもかなりの高値が付く。


 だから金額的には十分納得できる額をつけてもらってたんだけど、早々と売り払って商品がなくなったんじゃあ、この町にいる理由が無くなってしまう。

 情報収集が終わるまで、金額に納得いかないって顔をして取引を引き延ばしていた。


 でも、あまりがめついと思われると目立つ上に、どの店からも相手にされなくなってしまう。

 そろそろ半分くらいの品の商談をまとめる時期だと思って、商談相手の店へと向かった。




「おお、いらしゃいませ! 今日こそは決めて下さいましたかな?」


 ドアを開くと、店主のビラーノがにこやかな笑顔を張り付けて近づいてくる。

 その笑顔は、本当に“作ってます”ってのが丸わかりだ。

 どうにも自分の気持ちを隠せない奴らしい。


 何軒かの店を回ってみて、この店を選んだのには訳がある。


 最初、こいつはローラに対して露骨に不快感と猥雑さを交えた視線を向けた気がした。

 ついでに言うなら言葉にまで蔑む響きがあって、とても聞き流せたもんじゃない。

 

「ふ~む、デックアールヴですかぁ……」


 ムカッっときて、すぐに店を出ようと思ったんだけど、商売人がこれぐらいで気分を害するのもおかしいと思って、一回だけは我慢することにしたんだ。

 俺自身が奴隷を持ってる事になってるんだから尚更だし、どうせ、二度と来なけりゃ良いって思いもした。


 でも、そこでいきなりレヴァが出てきやがる。

【のう、リョウヘイ、少しばかり罪滅ぼしをさせてくれんか?】


 おい、なんなんだよ?


【悪い事は言わん。この男とは繋がりを持っておけ】


 はぁ、何でこんな胡散臭い奴と!


【それよ!】


 なによ?


【いやな、お主はちょっとばかり人を信用したがる悪い癖がある】


 はぁ? 何言ってんだ。お前?


 俺は簡単には人を信じない。


【そう思っているのはお主だけよ】


 テメェ、本当に消されたいらしいな。


【よ、よせ! 短慮はいかんぞ! とにかく、だ。こいつは確かに胡散臭い。

 しかし、だからこそ言っておるのだ。】


 って、どういう事だよ?


【言い方が悪かったやも知れんな。

 つまりだな、お主は信用出来る人間とだけ付き合いたがる】


 ああ、そういう言い方なら分かるよ。

 でもな、そりゃ当たり前だろ!

 好き好んで裏切られたい奴なんか居るかよ!


【だがな、世の中、悪党の傍にこそ重要な情報と云うものは集まるものぞ!】


「!」

 ちょっとびっくりする。

 なるほど、言われてみりゃそうだ。

 まっとうに生きてる人間が儲け話やヤバい話に関わるなんてことはそう在るもんじゃない。


「なるほど。さっきの件はともかく、そこは確かにお前の言う通りだな」


【悪党をも振り回せる程にならんと、我を扱うなど無理ぞ!】


 お前、消されたくないだけだろ……。


【まあ、それもあるが、いずれ取り込むにしても、お主にはまだまだ大きくなってもらわねばならんのでなぁ】


 おや? 正面から乗っ取り宣言かよ。


【騙さなければ、食われても不満はないのだろ?】

 久々にふてぶてしい声を出すけど、こう云うのは嫌いじゃない。


 ほう、分かってきたじゃねぇか。

 そうだよ。正面からの勝負で負けるってんなら、そん時は恨みっこなしで食われてやるよ。


【ククッ……。やはり、な。 では、消えるぞ】


 まったく、こいつは!

 とも思うけど、(しお)らし過ぎるレヴァってのも、奴には似合わない。

 どうせ、また暫くはつきあう事に決めたんだから、これで良い、と思う事にした。


 ともかく、そう言った訳で、この怪しさ満点のおっさんと取引を続ける事にしたって訳だ。




 三度目の訪問ともなると、ビラーノのローラに対する目つきも少しばかり穏やかになった気がする。

 まあ、腹の探り合いばっかりは疲れるから、今日だけは話がスムーズに進むのは結構なことだ。


 前日、『一晩考えさせて欲しい』って言った値段で、手持ちの魔石の半分を引き取ってもらう。

 それからサービスって事で、俺が造った魔石も一つ付けてやると、びっくりした顔で俺を見てきた。

「これは……! かなりの『力』が(こも)った“炎の魔石”と見ましたが?」


 言われるだろうと思ってたんで、言い訳に準備していた言葉で誤魔化す。

「こいつは在る人が造った試作品でね。

 効果がでかいのは確認済だけど、一般的に使い勝手が良いものかどうかは自信が無いらしいんだ。

 次に作るときの為に、使ったお客さんに感想を聞いておいて欲しいって事で、今回はサービスだよ」


 実は、こいつにはちょっとした罠が仕掛けてある。

 俺に敵対しなければ問題ないけど、もし、こいつを俺に向ける事になれば痛い目に会うことになる。

 万が一を考えて、こいつを出来るだけ大量にダニクスに買ってもらいたかった。

 やつらがこいつを抱えてスーザに攻め込む事があれば、最高だ。


 強力な炎の魔石なんて、自由人か軍隊以外ではそうそう必要になるはずが無い。

 それも数を揃えるとなれば、この街での最終引き取り手は絶対に侯爵だ。

 今回、情報が得られなくても闘う準備だけは進めておきたかった。


 結果、罠にはまった侯爵が怒り狂って、こいつが侯爵から狙われる事になったとしても、知ったこっちゃない。

 別に恨みは無いけど、欲に溺れりゃ痛い目に逢うのは仕方ないだろ。

 商売ってのは勉強だぜ。


 何より、せっかくここまで来たんだ。

 出来るだけの事はやってスーザに帰りたい。


「う~ん。これは凄い……」

「へぇ、分かるの?」

「そりゃあ、私も少しは魔力がありますからね。

 読み取り程度の事が出来なければ、魔石の取引なんかしません」


「なるほど、そう言やぁそうだね。こりゃ失礼」

「ちょっとお訊ねしたいんですが、この魔石を造った方を紹介していただく訳には?」

「いや~。企業秘密って奴だから、こいつばかりはちょっとねぇ」

「そうですね。失礼しました。とは云え……」

 魔石を見つめたままビラーノは何やら考えていたが、思い切った様に口を開く。


「あの、これを作製した方は、当然ですが錬金術師ですよね?」

「うん。いや、錬金術師って程に専門にしてる訳じゃ無かった、と思うけど?」


 適当に相手をして架空の人物を造っていくと、妙に食いついてくる。

「自由人ですか? もしかして攻撃や回復を中心に魔石を造っておられるので?」

 ちょっと悩んだけど、こいつは自分の出来る範囲の話をした方が良さそうだ。

「どうかな? そういう魔石も苦手じゃないんだろうけど、いろんな素材そのものを造る方が得意だと思うよ」


 俺の言葉の何に反応したんだろうか? ビラーノの目がはっきりと輝いた。

「なら、後程もう一度お会いできませんでしょうか?!」

「なんで?」

「いや、ちょっとご相談がありまして」


 真剣な表情だ。


 情報が不足してる今、何が突破口になるか分からない。

 こいつの表情から見て、レヴァの言葉は“当たり”だったかもしれないな、なんて思う。


 再会の約束をして別れた。





ちょっとミスがあって、直しを入れます。

レヴァとの会話で、


 俺は人を信じない。

 そう、今までも、これからも、だ。


と云う台詞が在りましたけど、これだと初期の天使のアドバイスと矛盾してしまいます。

そこで、


>俺は「簡単には」人を信じない。


と直させてもらいます。

主人公の性格にふらつきがあるのは、作者が設定を甘いまま発進させた為です。

失礼いたしました。


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