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96:イブリアッツ城まで何マイル?


 リンツに入って三日が過ぎた。

 それぞれに手分けして街中を歩いてみるけど、特に『大きな』戦争の準備をしている様な光景は何処にも見えないし、うわさ話さえ聞こえてこない。

 少なくとも、今すぐ何か、『とんでもない事』が起きるって動きが有る様には思えないんだ。


 じゃあ、軍が動く気配はまるで無いのか、って言うと、確実にそうとも言い切れないのが困る。

 日常的な練兵はきちんと行われている様で、軍が本格的な訓練をしているのは確かだ。

 もっとも、国境防衛の責任を負っているこのダニクス領の兵士が訓練もせずにブラブラしている、なんて方がよっぽどおかしいから、『これが日常の光景だよ』と言われれば、それまでなんだよなぁ。


 因みに兵舎に搬入される物資の量から考えると、すぐに動かせる人数だけでも千を下らないだろうって思う。

 適当な推定方法だけど、この方法を使って宿で仕入れていた食品の量と宿泊客の数を合わせてみると、見事に一致した。

 多分、兵数の計算も上手く行ってると思う。

 

 唯、問題は今、練兵されてる兵士達が最後に向かう先が西か、東か、って事だ。

 こいつはどうにも掴めない。

 探る方法も思い付かない。


 東なら通常の防衛任務なんだろうけど、西ならスーザへの侵攻って事になる。

 次に軍が動く前に、それが知りたいんだ。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「なあ、これ以上の情報は街中を歩き廻ったくらいじゃあ、もう手に入らないんじゃないかなぁ?」

「この街は大きさの割には人口が少ないですから、あまりうろつくと目立ってしまうのも情報集めには向きませんねぇ」

「あたしなんか、ひとりで外に出るのも難しいから、なんにも出来ないわ」

 ランプに照らされた部屋の中、俺とローラ、リアムの三人は今までの成果の確認と、明日からどう動くかって事を相談する。


 そんな中で、特に身動きが取れずに焦っていたローラがとんでもない事を言い出した。

「こうなったら、あたしが城に忍び込んでも良いわ」

 マジで心臓が跳ね上がる。

「無茶言うな!」


「あら、何で?

 そりゃ、中心部まではちょっとばかり遠いみたいだけど、闇夜に紛れりゃ何とかなるんじゃないの?」


 それを聞いてリアムも呆れた様に首を横に振る。

「ローラさんは領主が居城を持つ街に入ったことが無いから、そんな馬鹿な事が言えるんですわ」


「馬鹿とは何よ! 馬鹿とは! それにスーザだって元は領主が居たじゃない。

 領主の館ぐらいなら知らないって事は無いわよ!」


「ああ、これは馬鹿じゃなくて、『モノ知らず』なんですわね」


「なんですってぇ!」


「止めろよ、ローラ! 言いたか無いけど、ここはリアムの言う通りだぜ」


「どういう事よ?」


「ローラは貴族の主館がある街の構造を知らな過ぎるんだよ」


「スーザとは違う、って云うの?」


「あのなぁ。普通の領主の館ってのは、スーザの町長の家なんかとはまるで違うんだよ。

 中央の領主が住む区画は、家臣の居住区からも完全に独立してる。

 つまり、城壁の中にもうひとつ城が在るようなモノなんだ。

 お前さん、一人で城攻めでもするつもりかよ。

 ってか、その前に家臣団の住む区画でとっ捕まっちまうのがオチだよ!」


「えっ! で、でも確か?

 スーザのリロイさん()って、元々はリアムの家だったんじゃ……?」


 どうやらローラは、スーザの町長が住む家を一般的な領主の館のサイズだと思い込んじゃってるみたいだ。

 そりゃ、あの家は庭を含めて広くて立派だけど、あくまで一般の家と比較しての話だ。

 準男爵とそこから上を比較するのは、いくら何でも無理がある。

 俺はこの世界の事なんて、なんにも知らない。

 けど、地球の中世と同じ意味を持つ城塞都市なら、俺の考えは決して間違って無いはずだ。


 呆れを通り越して、心配になったんだろう。リアムも、やんわりと(なだ)め始めた。

「私の元の家と侯爵家では格が違い過ぎます。それに治めてる土地の規模もです。

 昼間に侯爵の居城である『イブリアッツ城』の小尖塔(スティープル)を見ている筈ですよね?

 あれでも城のごく一部分なんですよ。内部の広さなんて、もう想像も付きませんわ」


「遠すぎて、よく分かんなかったわ……」


 ローラの言葉に疲れがドッと出て、俺たちふたりは椅子からずり落ちそうになる。


「まあ、アイディアが悪いって訳じゃ無いんだ。要は今の処、侵入方法が無いってだけなんだよ」

 そういって場を治める事にしたけど、リアムが俺を見て妙な笑みを見せた。



 ヤな子だねぇ……。

 ええ、何が言いたいのか、分かってますよ。


 そう。リアムの血を飲んで以来、俺が彼女から借りる『欠片の力』はパワー、持続力共に抜群に伸びた。

 一度、軽いキスをするだけでも一日や二日は持っちゃう程だ。

 この力を使えば、風のように走りきって家臣の住居区画を抜き去り、指の力だけで城の外壁をよじ登る事だって可能だろう。


 盟約が成った以上、あの時の記憶は完全に無い筈なのに、何故かリアムはその事に気付いてるみたいだ。

 能力の成長に関しては、シンクロ効果でもあるのかなぁ?


 とにかく、ローラに言われるまでもなく、その考えには辿り着いていたし、手段も持ってはいる。

 でも、内部に侵入するのは良いにしても、その後どう動けば良いのか、まるで見当が付かない。

 城内の見取り図が有る訳でも無い。その上で下手に見つかりでもしたなら無駄な殺しまでする事にだってなりかねない。


 ピートの話が本当なら、侯爵とは敵対する必要も無いかもしれないんだ。


 だから、考える時間が欲しい。


 と云う訳で、今夜はひとまずお開きとなる。


 こうなりゃ。明日はピートを捜して見ようか……。





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