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88:再会


 精霊の言葉通り、夕方に来客があった。

 俺たちの馬車の隣に、同じくらいのサイズの馬車が止まる。

 御者台で手綱を握る男の顔は、逆光の夕日に照らされて見えないけど、隣に座っていた男が降りてきた。


 村長だ。


「実は、先程ふたり組の商人が村を通りかかりまして、今宵の宿を求めています。

 どうか、一晩の同居をお願いできますでしょうか?」

 そう言って頭を下げる。

 最初の襲撃での引け目が有る上に、宿代まで受け取っているので初対面の時と違って随分と腰が低い。


 そこで悪戯心が湧いた俺は、村長を軽くからかう。

「へぇ、今回は誰も襲い掛からなかったんですか?」


 一瞬渋い顔をした村長だが、受け流すことにしたようだ。

「まあ、おかげさまで村の連中も良い勉強をさせて頂きましたから、これからは旅の方とも上手くやってくれるでしょう。

 元々、男爵様がこの家を造る資金を出して下さったのは、軍を寝泊まりさせる為のものでしたが、我々に取っては商人の方がありがたいですからね」


 なるほど、と俺が頷いて苦笑を返すと、村長もようやくホッとした顔立ちになった。

 それから後の男に向かって声をかける。


「先客も了承しました。どうぞ」


 声に反応して幌の奥から、もう一人が現れる。

 そうして降り立ったのは若い男女の二人連れ。男の方は長身で二メートルを超えている気がする。

『商人にしてはデカイね』

 そう言おうとした俺の喉は動きを止めた。

 引きつった顔を村長に見られてたけど、どうやら相手の身体の大きさに驚いているって思われたみたいだ。


 あと、相手の男も俺を見て“ギョッ”とした顔をしたけど、それも一瞬だ。

 お互い、村長に気付かれちゃあマズイって事は確かだ。

 息を合わせて初対面の振りをすると、握手と共ににこやかに挨拶を交わした。



 ふたりを客屋に招き入れ、村長が引き上げるのを確かめる。

 それからドアを閉めて、しっかりと鍵を掛けた。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「驚いたな! まさか、こんな処でお弟子殿に出会うとは!」


「そりゃ、こっちの台詞だよ! 大体、その格好は何なんだよ。ピート!」


 そう、今は行商人と名乗り、姿もそれに劣らぬ服装で指輪やネックレスで下品に身を飾る大男。

 それは山小屋で俺たちを襲った男爵の息子の従騎士、ピート・マックラガンだった。


 彼は信用出来ると思うんだけど、なにせ主君が、あのデブガキだからなぁ。

 さて、どうしよう?

 でも、精霊は『今夜、リアムに心配る者が現れる』と言っていた。

 それは彼に間違いは無い。

 使い潰されるリアムの将来を心配して、俺に彼女を預けた当の本人なんだからね。


 悩む俺の顔付きに気付いたのか、ピートは先回りをして話を進めてくれる。


「ギルタブリルや男爵との関係を心配しているなら、それは問題無いな。

 カサンカ家との契約は先月で切れた。今の俺は単純に“流れの騎士”と云うだけの存在だ」


 なるほど、騎士は主君を選ぶことが出来る。

 契約期間を過ぎれば、戦場を放置して引き上げても不名誉にはならない。

 だからカサンカ家との契約期間が終わったってのは良い話だ。

 でも、


「最後の“流れの騎士”ってのは、嘘だね」

 と、断言する。


 その言葉に目を丸くしてピートは俺を見つめてきた。

「ほう、お弟子殿は何故そう思うのかな?」

「何故もなにも、その騎士様が何でわざわざ商人の振りなんかしなくっちゃいけないのさ?」


 指摘すると、ピートは照れた様に頭を掻いた。

「いや、そこは聞かんでもらえるとありがたい。

 まあ、半分はお弟子殿の見抜いた通り、今の仕事に関係がある」


「つまり流れの騎士ってのは」


「うむ、すまぬ嘘だ。だが、悪意はないぞ。

 それに、この格好そのものに実益もあってなぁ」


「?」


「アホな山賊が引っ掛かってくれる」


「あんた、山賊相手に“追い剥ぎ”やってんのかよ!」


「そ、その言い方は酷い……。え~っと、そう! 悪党退治だ!」


 どうやら、ピートの悪趣味な飾り付けは、宝石を見せびらかすことで、山賊を呼び寄せてから叩きのめす、という見かけ以上の悪趣味さを狙っての事だったらしい。

 それにしても、山賊の規模が大きかったなら無事じゃ済まない。

 いくら何でも無茶が過ぎるんじゃないの、って言おうとした処で、横から声が割り込んできた。

 

「いえ、ご主人は山賊狩りを楽しんでおられます」


 声の主はピートに従っていた女の子だ。

 年齢は俺より少し幼めで、十二~十三才ってとこかな?

 短めの銀髪。

 この世界には似合わない加工レベルのツーポイント眼鏡がよく似合う。

 その下の瞳はハーフグレー。少しだけ青み掛かってミステリアスですらある。

 瞳に合わせたかのような薄めの青い服も相まって清潔感を通り過ぎて、透明感さえ漂って来る。

 美少女なのは間違い無いけど、一つ間違えると存在そのものを失いそうな危うさまで感じられた。


 その寡黙な雰囲気通りに一言だけ発すると、またも黙り込んでしまう。


 ちょっと気まずくなったところで、俺の悪い癖が出た。

 素直な感想を言ってしまう。

「……ピート。どうやら、お連れさんにはあまり信用されて無いみたいだね」


「いや、そうじゃなくて、だな!」


「ま、それはともかく」


「話、聞け! あと、ルルイエ! お前、いきなり裏切るんじゃない!」


 ピート……。今はそれどころじゃないんだ。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「何ってこった。そんな事になってたのか……」


「すまないね。信用してもらったのに……」


 ようやくリアムの『今』を話し終えると、互いに黙り込んでしまう事になった。


 ローラはリアムの見張りに入った。

 メリッサちゃんは、寡黙なルルイエに向かって、何やら一生懸命話しかけている。

 ルルイエは無口だけど、無愛想って訳じゃ無い。

 メリッサちゃんが何か話す度に、優しく微笑んで頷く。

 メリッサちゃんは、それだけで上機嫌になって更に楽しそうに話を続けていく。


 俺たちはそれを横目で見ながら、声を潜めたまま話しを再開する。

 このまま黙っててもどうにもならないんだ。

 情報を交換するうちに何かヒントが見つかるかもしれない。


「何か、忘れさせる方法は無いかな?」

「う~ん。とは言ってもなぁ……」

 どうやらピートも、リアムの過去については知らなかったらしい。

 でも、流石に『戦奴』である以上、悲惨な過去があっただろうとは気付いて居たようだ。

 それに関わるような、言葉を口にする。


「戦奴である以上、何らかの過去はあると思ってたよ。

 まあ、だからこその『盟約』でもあるんだが……。

 そいつが効かないとなると、こりゃ、お手上げだよなぁ」


 え?


 今、ピートは何って言った。

 盟約に何の効果があるって?


 今のリアムの状態って、実は俺に責任があったって事にならないか?





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