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86:水と精霊②


「なあ、リアムの行為と村の全滅とが関係ないって、どういう事だよ?」


【リョウヘイ。お主、この村が再興された理由についてリアムが何と言ったか、覚えておるか?】


「? え~っと、確か……」


 そう、確か、洪水があって地形が変わった。

 それで、戦略的な価値も……。


 え? 地形が変わるほどの洪水……?


「あっ!」


【ようやっと気付いたか。ま、そう云う事よ】


 そうか……。

 もしリアムが村人を殺さなかったとしても、元から在った村は洪水に押し流されて、確実に滅んでいたって訳かよ。


 でもな、レヴァ。それとこれとは関係ないんだ……。

 実際に手を下したかどうか、それが彼女にとっての問題だ。

 分かってもらえるかどうか知らないけど、ともかく説明はしなくっちゃいけない。


「レヴァ、リアムを気遣ってるのかも知れないけど、その理屈は通らないんだ」

 苦々しく吐き出された俺の声だけど、レヴァにとっては気にならないらしい。

 それどころか『心底不思議だ?』とばかりに疑問まで返して来る。


【何故だ?】


「問題は、彼女があか……、いや、子どもを直接殺したって事なんだよ!」


【しかし、仮にあの娘が拒否出来たにせよ。結局は別の戦奴が手を下しておったろう?】


「そういう問題じゃないんだって! やっぱり、お前に人の心は分からないかなぁ……」


【かもしれんな。だがな、今の話、別段、リアムの為のものでは無いぞ】


「どういう事だよ?」


【分からんか。いや、分からぬ振りをしているだけ、と言うべきかな。

 クククッ……】

 最後は、言葉に被せるように冷酷な笑い声を響かせていくレヴァ。

 いつにも増して不気味だ。


 嫌な予感がする。

「ああ、分からねぇよ!」

 強気の言葉をぶつけて身構えたけど、次の奴の言葉は俺の心の障壁をあっさりと突破して、奥深くへと突き刺さった。


【なら、言ってやろう!

 お主、前の村の生き残りが“ひとりも居ない”と聞いて、実は安堵しておるだろ?】


「!」


 心臓を鷲掴みにされた気分だ。

 気付いて居たけど、知らない振りをしていた事を指摘されて、頭が真っ白になる。


 そう……。リアムの告白は確かにショックだった。

 でも、その後、俺は確かに“こう”も思ったんだ。


 村人が皆殺しになってて“良かった”……って。


 生き残りが居なければ、リアムを(かたき)と追い狙う奴も居ないって事だ。

 それは“リアムの不幸”の中でも、唯一の『幸運な事だった』って思って……しまったんだ。


 俺は、何てことを考えるんだ!

 人として、最低、じゃないか……・。


 愕然とする俺の心にレヴァの声が入り込んでくる。

【それの何が悪い……】


「……」


【なあ、それの何が悪い?

 見も知らぬ死んだ他人より、今生きている仲間を優先させるのは、人として当たり前の事だろうに】


 優しく語りかけるその声は、静かに、静かに、俺の中に入り込んでくる。

 そうして、俺の思考は緩やかにレヴァに重なっていく。


【「ああ、そうだ。悪く無い。リアムは悪く無い。だから……、俺も悪く無い」】


「【そうだ。あの娘(リアム)は、戦奴として操られていたに過ぎない。

 なら、今後の厄介事は無いに限る】」


【うむ、良く分かってきたようだな。

 もう一度、言うぞ。あの村の住民が全て死んだ事は“良い事”だ。わかるな?】


「【ああ、良い事だ。どうせ、ほっといても洪水でみんな死んだ……】」


【うむ。ならば、どうだ? 今度はリアムの秘密を知る者を“消す”というのは?】


「消す?」


【うむ。ローラよ。あの娘、何処でこの事を口にするか、分からんぞ】


「つまり、ローラを……」


【そうよ、まずは殺せ! そして、その血を啜れ!

 すれば、『土の欠片』も完全に“貴様”の中に収まる。実に一挙両得の事よ、なぁ】


「なるほど……」


【よし、分かったか。なら歩け】


「ああ……」


 水桶を放って、くるりと向きを変える。

 足は村に向かって進む。

 俺の中でレヴァが、ゆるやかに笑う。

 俺も同じように笑う。


 それから……



「滅!」


【ぎゃああああああああああああぁぁ!! き、貴様ぁ~! 意識が……!】


「ったりめぇだろうが!」


 頭を一振りして、意識を集中させる。

 それから、静かに、冷静に俺の怒りを奴に向かって送り込んだ。

 無軌道な怒りは奴が有利になる。

 絶対に自分を見失っちゃあいけない。


 禁呪:『滅』

 この禁呪は『禁』の上位に位置する。

 余程のことが無ければ使っちゃいけないって、天使から言われてたけど、今以上に必要な時も無いだろって思う。


 俺の怒りは、今MAX状態なんだからな。

 一応、気持ちを押さえて、ゆっくりと喋るけど、語尾はどうしても荒くなった。

「甘く見るなよ!

 こう云う時にテメェが親切に声を掛けてくる。これぐらい怪しいことがあるかぁ!」


【た、頼む! 我が悪かった! その『禁呪』は厳しすぎる。

 流石の我と言えど、連発されては堪らん。もう、二度と騙さぬ故、収めてくれ……】


「ふざけるな……。よりにもよって、俺にローラを殺させようとは、な。

 ほんっと、舐められたもんだよ……」


【た、頼む! 今度だけ。今度だけは見逃してくれ!】


「ふざけるな!」


 確かに今、レヴァを失うのは痛いかも知れない。

 敵地に潜入する中で、戦力はいくらでも必要だから。


 けど、今回の事で確信した。


 こいつを中に置いておく方がよっぽど危険だ!

 何より、滅する呪文を与えられたって事は、『欠片』を集めた後、消し去っても良いって事だろう。

 今後の旅では、『力』と『土』を使えば良い。


 もう、こんな危険な奴は用済みだ。

 決めた!

 こいつは、ここで消す!


 レヴァの絶望が俺の中に流れ込んでくる。

 それを感じて少しばかり哀れに思うけど、怯んじゃいけない。決めたんだ!


 大きく息を吸い込む。

「レヴァ。残念だけど、ここでお別れだ……」


 と、その時だ。耳元に不思議な声が響く。

 深く高さのある洞窟の奥。天井から落ちて来た一滴が岩の上で跳ね、清んだ水音が広がっていく。

 そんな光景を呼び起こす、透き通った美しい声。


『力ある御方。どうか、どうか主様を許して差し上げて下さい……』


 ふと見まわすと、俺の周りで宙を舞う無数の小さな光。


「なんだ、こりゃ?」


 続いて、芳醇な水の香りが俺を包んだ。





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