85:水と精霊①
昼前にリアムの見張りを交代して、水くみにでる。
ローラも部屋を出て、メリッサちゃんの相手をしてる。
ずっと放ったらかしってのも可哀想だから、ふたりして食器を洗ったり洗濯をしたりして時間を潰してもらう事にした。
ローラがリアム寝かしつけて大分経つけど、まるで起き上がる気配は無いし、万が一のことを考えてベッドに縛り付けてある。
今、ローラとふたり、部屋を開けても大丈夫だろう。
メリッサちゃんには『風邪が移るといけないから』と言って、リアムの部屋に入るのを禁じた。
少し不満気だったけど、最後は素直に頷く。
それから、俺が水をくみに行くって言うと、
『ひとりじゃ大変だから、お手伝いするのです』って言ってくれる。
でも、今回はひとりにならなくっちゃいけなかったので、さっき言った雑用をお願いした。
「いってらっしゃい、なのです」
玄関に立って手を振って見送られた。そばにはローラまで並んでいる。
一瞬、なんだか仕事に出かける父親になった気分。
……わるくない。
客屋から出ると村の外に向かって歩く。
村長に教えてもらった通りに少し行くと、大きめの岩場があって大量の水が湧き出ていた。
岩場の脇の方には大きな隙間があって、そこから常に川に向かって水は流れ続けている。
まるで淀みが無い凄く綺麗な水だ。透明を通り越して空の色を反射して碧く光る。
一口飲んでみる。見た目以上に冷たくて美味い。
こりゃ、次はメリッサちゃんも連れてこなくっちゃ!
そんな事を考えながら、岩溜りの真ん中に桶をつけて引き上げる。
それで、あっさり水くみは終わった。
さて、ここからが本番だ。
レヴァ、いるか?
問い掛けると、いつもの様にレヴァが脳内に現れた。
【何事ぞ?】
いや、何事、って……。
お前の言う通りになっちまったのは知ってるだろ?
これからどうしようか、って相談だよ。
【ほう? 我が貴様の道筋を決めろと?】
そこまで言ってないよ! 只、助言が欲しいんだ……。
少し気弱な声になったのは拙かったかな、って思ったんだけど、意外な事にレヴァは妙に好意的な反応を見せる。
【成る程、我を頼るか?】
あれ、こいつ、何だか上機嫌じゃね?
う~ん。今までの言動を考えると、結構おだてに弱いタイプなのかな?
まあ、それはそれで在りがたいけど……。
早速、持ち上げてみる。
「いやぁ、全く参ってるよ。
でも、お前の忠告がなかったらもっとヤバイ事になってただろうね。
そこは感謝してるぜ」
【ふむ、実に良い態度よ。結構な事だ!
無論、我とてすぐにどうこう出来る訳では無い。だが、少しばかり良い話ならしてやれるぞ】
「良い話? なに?」
【今、この岩溜りに宿る『水の精霊』と少しばかり話をしてみた】
「精霊! そんなの居るのかよ!」
【おい、その様な事を口にするな。精霊は信じる者の心で生命力を維持しておる。
信じない者が増えれば、その力は弱まり、最後には消える。
反面、信じて頼れば、時に力を貸し与えてくれるものよ】
俄に信じられる話じゃ無いって思ったけど、魔法の在る世界なんだ。
何よりレヴァみたいな存在が居る以上、精霊ぐらい居てもおかしくないじゃないか。
確かに、『何を今更』って話だよなぁ。
「わかった。俺が悪かった」
【うむ、分かれば良い。
さて、その精霊共だが、昨日の貴様等の騒ぎを聞きつけて、皆、あきれかえっておる】
「呆れてる? なんで?」
【リアムの後悔など、何の意味も無いと云う事よ】
「そりゃ、今更後悔したって、しょうがないけど。人間なんだぜ!」
レヴァの言葉には、凄く腹立たしくなる。
人間とは違う精神構造なんだろうけど、こうもデリカシーのない事を言われたくない。
と、レヴァが何やら困惑した波長を送ってきた。
【リョウヘイ。お主、何やら勘違いをしておるな】
「勘違い?」
【あれらはリアムの行為に係わらず、皆、死ぬ定めであったのよ】
「な、何だって! そりゃ、どういうこった!」




