63:これから③
考えてみりゃ、そうだ。
前回、あっさり撃退された連中が、全く同じ兵力や装備でやってくるはずもない。
これぐらいは考えておくべきだった。
でも、山の中とは違って『竜甲兵』を持つ山賊なんて偽装できるはずも無い、って甘い考えがあった事も確かだ。
また、あれとやり合う事になるとはね。
けど、今回は手加減無しだ。
ローラのことを考えたなら、やりたかないけど殺すしかない。
いつの間にか俺も腹を括ってる。
何度か魔獣と戦う内に、命のやりとりが身についちゃったのかもしれない。
この世界で生きるのに悪い事じゃないって信じたいね。
そんな風に自分を納得させていると、ひょいと出て来る奴がいる。
【亮平、前と同じと思うなよ】
レヴァ、か。
どういう事だよ? 前回はリアムを殺さない様に戦ったから苦戦したんだ。
お前の力なら、あれくらい軽いだろ?
【無論! と言いたいが、残念ながら前回現れた“エサ”とはモノが違う様よなぁ】
お前の“ドゴーン”でも無理なのか?
【なあ、その“ドゴーン”とやら、もう少しマシな呼び名は無いのか?】
うっ……。か、考えとくよ……。
それはとにかく、前回の奴と今回のはどう違うって言うんだよ?
【我が語るよりも、リアムに聞く方が早かろうよ】
言われてリアムに向き直る。
「なあ、リアム……」
「はい」
「あのさ、前回、リアムが乗ってたと云うか、身に付けてた竜甲と今回の奴は違うと思うかい?」
俺の問い掛けに、リアムの眉根が曇る。
それから、渋々ながらも頷くと、今回近付いている竜甲について説明を始めてくれた。
「前回、私が装着した竜甲は灰色小翼竜型といって、最も戦闘力の無い、あえて言うなら“練習用”に近い甲体です」
「あれが!」
「倉庫に放置されていたモノを引っ張り出して来たんです。
あの時、ギルタブリルは父親であるカサンカ男爵に無断で兵を出したようですから」
「じゃあ、本式はどんな、」
その答を聞く必要は無かった。
塀の上に立った誰からもはっきりと見える位置まで近付いてきた山賊達。
その最前列に荷車が押し出される。
すぐに荷車から幌がどけられると、そこには真っ黒な竜甲兵が横たわっていた。
息を呑む塀の上の守備兵の前で、シュー、と不気味な音と共に、それはゆっくりと動き出す。
ズシン、と音を立てて片足が荷車から地に降りる。
重量感たっぷりに立ち上がった巨体には紅く輝く二つの瞳を持つ竜の頭部。
その視線は塀の高さにほぼ同じだ。
誰もが睨まれている様に感じたんだろう。
塀の上で町の男達の悲鳴が上がる。
『竜甲兵だ!』
『な、なんでこんな小さな町相手に?』
『降参だ! もう、降参するぞ!』
みんなが騒ぐのも分かる。
見るからに凶悪なフォルムは、一発で戦意を挫くには充分すぎるものだ。
リアムが着ていたものより一回りはデカイ竜甲兵は、左肩のごついショルダーガードが目立つ。
その上、胸、腕、足、腿と全てのサイズが違う。
前回の竜甲と比べると、まるで陸上選手とプロレスラーの違いだ。
相手を睨み付けながらもリアムの言葉は続く。
「リンディウムⅡ《地竜二型》
あれが一般的な型になります。
スピードはグレイにやや劣りますが、それを補って余りあるパワーと装甲があります。
何より……」
ここで、リアムの声が詰まった。
「何より、何だい?」
「リンディウムⅡは火炎系魔法を前提に設計されています。
ですから、通常の火炎弾では手に負えません。
焼くことはまず不可能か、と……」
思わず顔が引きつってしまったのをローラに見られたみたいだ。
「じゃあ、どうするの?」
一瞬だけだけど不安げに、でもすぐに声を張る。
「……もし、ダメなら、はっきり言って!
あたしを差し出せば取引材料にはなるんでしょ?
でも、リアムとメリッサは逃がしてあげてよね」
ローラの言葉に二重に驚く。
「狙われてるの、知ってたのか!?」
「あんたねぇ、あれだけ切羽詰まった顔で人に抱きついて来て、バレて無いとでも思ってんの?」
はぁ~、と息を吐いてあきれ顔を見せてるけど、唇は真っ白だ。
無理してるのははっきり分かった。
だから、もう一度抱き寄せる。
「俺は嘘は吐かないよ。絶対、守る!」
「ば、馬鹿! 人前でなにやってんのよ!」
「いいじゃん」
一度リアムに抱きつかれたんで、もう気になら無くなっちゃったみたいだ。
側ではそのリアムが『キィー!』と声を出してハンカチを噛んでるけど、お前は古いメロドラマか!
まあ、それはともかくとして、ふたりともレヴァの本当の力を知らないから、こんなに不安になるんだ。
難しいとは言ってたけど、無理って訳じゃ無い、って信じるぞ。
だろ、レヴァ?
【ふん。気付いたか】
お前の言い方は回りくどいんだよ。
で、結局、俺はどうすりゃ良いんだよ。
【リアムの言う通り、炎の熱は奴の中までは通じまいよ。だがな、】
あの破壊力は通じる、だろ?
【うむ。しかし、それこそ『力の芯』を『装着者』に向けてまともに喰らわさなくてはならんぞ。
前回のように、部分的に切る事も難しいだろうな。
もう少しマシな剣でもあれば良かったのだろうが、あのなまくらでは、な】
言うなよ……。
結局、また“超”接近戦って事になる訳だ。
あ~あ、ホント、少しは楽に勝たせてくれよな!




