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55:塩

「凄い雨だねぇ……」

「ハイです……」


 この屋敷に腰を据えて三日経つ。

 ローラとメリッサちゃんの本当の家。つまりリバーワイズさんの邸宅だ。

 二階建てのこの家は、山の隠れ家をひとまわり大きくした建物で、研究室まで付いた見事な造りだ。


 宿屋を引き払って直ぐさま降り始めた雨は、そのまま続いて今日も止む気配が無い。

 夏場でも雨が3日目ともなれば、流石に冷え込んできたので暖炉に少しの火を入れる。

 ふかふかの絨毯に寝転んでダラッとするのも悪く無い。


 それから、やることもないので、今はみんなでトランプなんかやって楽しんでいる。

 う~ん、まさかこの世界にもトランプがあったとは……。


「あ、ババ引いちゃいました!」

「リアム、言っちゃダメだろ……」

「ちょっと、リョーヘイ! あんたリアムに甘すぎない!?」

「メリッサもそう思うのです!」

「いや、これは、ルールの問題で……」



 さて、先週から石切場を総動員した結果、一部を残して二メートルそこそこの高さしか無かった町の塀は、今では全体が四メートル程度にまで高さを増した。

 それにあわせて幅も厚くなって、防御力はばっちりだ。


 かなりの重労働だったけど、町の人たちも総出で頑張った。

 何せ、俺が「力」を使って岩をたたき割ってしまえば、後は形を整えるだけだから、石材は直ぐさま揃う。

 後はしっかりと積み上げるだけだった。


 その仕事の合間に開かれた町の会合で、俺は奴隷化されている亜人達への公的な扱いを求めた。


 給料を少しでも払って欲しかったし、後、彼らがある程度自由に買い物を楽しむ権利を認めて欲しかったんだ。

 メリッサちゃんが自由に買い物にも出られない町なんて、面白くもなんとも無いもんね。


 今、この町は王国の庇護から外れている。

 なら、法律だって完全に守る義務は無いだろう、って理屈だ。


 少しぐらい反対されるかと思ったけど、町長は

「なるほど!」

 と、素直に納得してくれた。

 やっぱり悪い人では無いようでほっとする。

 会合も、教会の件が俺の仕業だって薄々感じてたみたいで、こっちでも話はすんなり通った。


 それが決まって、“さあ明日は買い物に出かけよう”って言ってたんだけど、この雨じゃあねぇ。


 と、ドアをノックする音がする。

 リアムが出ると、そこには町長がいた。

 傘の滴を切って屋敷の中に入ってくるなり、まくし立てて来る。


「魔術師殿。エライ事になりました! 何とかなりませんでしょうか?」


 なあ、町長さん。

 あんた、俺を便利屋か何かと勘違いしてないか?

 それも無料の? 


 使いっ走りはゴメンだよ。

 って、言いたかったんだけど、話を聞いて慌てた。

 なるほど、こりゃ大問題だ!


 塩が無い……。


 この町は内陸部にあるから塩は輸送に頼ってるんだけど、それが途切れちゃったらしい。

 戦争の影響は結構大きくなってきた様だ。

 カサンカ領全体で不足して、値段は高騰してるって聞いて冷や汗がでる。

 マズイ……。

 塩無しでは人間は生きていけないんだよ。


「どうします?」

「いや、どうするって……」


 頭を抱える俺たちに向けて、ローラが妙な視線を送ってくる。


「どしたの? 俺の顔になんか付いてる?」

「いや、あんた、あの塩どこで手に入れたのよ?」

「あの塩?」

「あんた最初に会った時、鞄一杯に詰め込んでたでしょ?」

「……あっ!」


「どうしました?」

 町長が首を傾げるが、それどころじゃない俺は声が裏返ってしまう。


「オレ、オオガネモチニナッタゾ!」

「多分、そうね……」





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