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48:みんなでお風呂! ①

「御主人様、お風呂にご一緒しません?」

 

 思い切って声を掛けてみましたけど、御主人様の反応はどうでしょうか?


「お、お風呂? リ、リアムと!?」


 あ、マズイですわ。御主人様の声、ひどく上擦っています。

 やっぱり図々しかったでしょうか?

 御主人様はギルタブリルなんかとは違うんですから、失礼になっちゃったかもしれません。

 ここは、きちんとお詫びしないと……。


 ううん、やっぱり駄目です!

 昨日のローラさんの反応! アレはマズイ!

 早めに手を打たなくっちゃ、ですわ!

 こうなれば、少しばかりズルさせてもらいます。お許し下さい御主人様!

「だ、駄目でしょうか……。いえ、その、お背中を流させて頂くのも良いかと思いましたが……。

 そうですよね。奴隷と同じ風呂なんて、何と失礼な事を言ってしまったのでしょう。

 すいません……」

 そう言って少し悲しげに俯いてみせると、飛び跳ねるような反応が返ってきました。


「いやいや、すいません事など一切ないです!

 もう、大歓迎です!

 すぐ行こう! さあ、行こう! それ、行こう!」


「うしっ! 掛かったぁ!」

 あら! 思わず小さなガッツポーズが出てしまいましたわ!


「は?」


「あ、いえ、何でもありません」



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 リアムが消えてから、何か嫌な感じがする……。

 うなじがチリチリしてる。

 これは何かヤバイ事態が身近に迫っている時に感じる感覚。

 でも、先日の襲撃の時みたいな命に関わるモノじゃない。

 なんって言えば良いんだろう。


 そう……、あえて言うなら……『盗人(ぬすっと)の気配』ね。


 ふと、肩をつつかれて振り向くと、メリッサが不思議そうな顔であたしを見ている。

「お姉ちゃん。どうしましたですか? なんか、とってもむずかしい顔してますですよ?」

「ううん、何でもないわ。あ、そうだ! ねえ、メリッサ。そろそろ、お風呂に入ろうか?」

「はい! ここのお風呂とっても大きくて良いお風呂です!」

「そうね。この町、小さいけど泉源があるから、お湯だけは気持ちいいのよねぇ。

 山の家も悪く無いけど、お風呂だけはここが一番ね!

 そういえば、明日は“こっちのお(うち)”の様子も見に帰ろうか?」


 山の家はあくまで隠れ家だ。

 本来のあたし達の家はこの町の北側にある。城壁の影になりにくく、日当たりの良い広い庭に囲まれた家。

 お父さんの研究室も兼ねた、大好きな“あの家”に帰らなかったのには理由(わけ)がある。

 唯、メリッサもその理由には気付いていたようで、はっきり拒絶してきた。


「それは、いいです! これから北に行くですから、今帰るとお家から出たく無くなっちゃいます」

「あいつに遠慮しなくても良いのよ?」

「ううん。今はリョーヘイと一緒にいる事が一番です。困らせちゃいけないです」


 前は年相応に我が侭も言う子だったのに、リョウヘイに助けられてから、ここのところ、やけに聞き分けが良くなった。

 いや、あいつに関する事について聞き分けが良い、とでも言った方が良いのかな?

 もしかして、この子……。


 ま、まさかね……。


 やだ! あたし、今、冷や汗が出てる見たいだわ。さっぱり洗い流さなくっちゃ!

「まあ、とにかくお風呂よ! お風呂!」

「ハイです!」


 準備を済ませて、下に降りる。

 と、何故か顔を真っ赤にした宿の娘さんが、風呂場の方から早足で厨房に向かっていく。

 奴隷のあたし達にも、嫌な顔一つ見せずに普通のお客さんみたいに扱ってくれる子だから、声も掛けやすい子なのよねぇ。

 まあ、リョウヘイが宿をここに決めた理由が、それだったんだけどね。


 それにしても、あの表情は何だろう? さっきの“嫌な感覚”を思い出した。


「ねえ。あの~、ソーニャちゃん、だったっけ?」

 呼び掛けると、彼女は何故か慌てたように振り返る。


 それから、あたしの顔を見て更に顔を真っ赤にすると、しどろもどろに喋り出した。

「あ、魔術師様と剣士様なら先にお風呂に行かれました。

 一番南側が混浴です。昨日から御客様は皆様だけですので、ごゆっくりどうぞ!」


 それだけ言って大きく一礼すると、あとは飛ぶように消え去った。


「は?」

 あの子、今、なんて言ったの?




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