43:町へ
翌日、旅に出る準備を終えて、早速丘を降りる。
「もう、帰ってこれないですか?」
「大丈夫! お父さんを助けたら、またみんなでここで楽しく暮らしましょ!」
ローラはそう言うと、林の入り口に小さな宝石を埋めた。
「何、それ?」
「お父さんの力を封じた魔石よ」
「へ~! で、それを使うとどうなるの?」
「一日ぐらいで、周りの植物が育って林を濃くしてくれるわ。
帰って来るまで、人が近寄らないようにする為の用心ね」
「ほ~!」
こうして一昨日からの事を思い出すと、リバーワイズさんの魔法はやっぱり凄い!
俺の魔法なんていくら強くたって、結局は『燃やす』ことしか出来ない。
あとは精々、条件付での映像の転送ぐらいか。
本物の“チート”ってのは、実はああいった能力の事を言うんだろうなぁ、なんて思ってると、レヴァが出てきた。
【ふん。あの程度のもの、『“土”と“風”の欠片』が揃えば我にとて容易いわ】
何? お前もしかして、すねてんの?
【ば、馬鹿を言うな! お主が我を軽んじるから、少しばかり教育してやっただけよ!
それにな、新たな『欠片』が手に入るのは以外と早いようだぞ】
え、マジかよ! レヴァ! どこでどんな力が手に入るんだよ!
【今、それを話しても、お主は“良し”とは言うまいよ。
時を待って話させてもらおう。我とて早く力を揃えたいのは山々だが、お主の承諾無しでは、どうしようも無いでな】
なんか、気になる言い方だね。
【まあ、そう焦るな。人と出会う内には『欠片』のありかも、すぐに知る事になろう】
だから時を待て、って事か?
【分かってくれるか?】
まあ、今すぐ、何か必要って訳じゃ無いからね。
でも、出来るだけ早く教えてくれよ。
俺の死んだ後の事が掛かってんだからさぁ。
【死後、死後、と……。なあ、お主……】
何だよ?
【いや、なんでもないわ】
そう言ってレヴァは消える。
なんだか溜息を吐かれた気がしてちょっと不愉快になった。
なんだ、あいつ!
ともかく、丘を下った。
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しばらく行くと町が見える。
まだ丘を下りきる前だから、遠くまで見渡せた。
「町の名はスーザ。代官領で一番南に当たります。村から昇格したばかりの町です」
そう言ってリアムが町について、細々と教えてくれた。
ふと、ローラとメリッサちゃんを見る。
人間を警戒しているって事だったんで、どんな反応を示すか気に掛かったんだ。
でも、意外な事にメリッサちゃんは、
「みんな良い人ばかりなのですよ~」
と楽観的だ。
反面、ローラの方は、やっぱりというか、何とも言えない複雑な顔付きだ。
「なあ、ローラ。あの町ってヤバイの?」
俺の問いに少し迷った様子だったけど、渋々とローラは口を開く。
「ううん。メリッサの言う通りよ。確かにあの町の人たちは良い人が多いわ。
でも、やっぱり亜人、つまり獣人や妖精種の奴隷がいない訳じゃないの。
勿論、余所に比べればずっと良い扱いを受けてるし、滅多なことで傷つけられる事も無いわ。
唯ね。やっぱり奴隷が居るってだけで、あまり気持ちは良くないのよね……」
「ああ、なるほど……」
嫌な予想が当たったなぁ、と思う。
こうなると何を話して良いのか分からなくなって黙り込んだ。
更に歩く。
遠目にも町がはっきりと見えるようになった時、誰もが同時に気付いた。
「焦げ臭い……」
リアムのその言葉に併せたかのように、町のあちこちから煙が上がり、近付くにつれて低い石垣の向こうから聞こえる怒声と悲鳴がはっきりしてくる。
何かが起きている事は間違い無い!
俺たちは顔を見合わせると、近くの林まで一気に走った。




