41:リバーワイズさん帰らず④
渋るメリッサちゃんとリアムを隣の部屋に移して話は再開された。
リバーワイズさんは今、本当に危険な状態に在った。
具体的に捕まった、って訳じゃ無いんだけど、敵に追い詰められて一部屋に籠城中らしい。
「誰に捕まったの?」
ローラの問いにお手上げだとの声が帰ってきた。
『こうして捕まってみると多分の予想は付いて来たんだが、まあ、何にせよ厄介な相手だなぁ』
そこは話せない、って感じで誤魔化してきたリバーワイズさん。
自分が死んだ後、敵討ちなんて考えない様にして欲しいからだと言ってきた。
死ぬ事まで考えているなら、やっぱり脱出は無理なんだろうか?
気になってついつい横から口が出る。
「脱出、出来ないんですか?」
『場所も、また問題でね』
「場所?」
『聞いて驚け! 今な、空の上だ』
そう言って卿が豪快に笑うとローラが本当に驚いた声を出す。
「もしかして、伝説の『天空城』に!」
『おお、本当にあるとは俺も思わなかったからな。もうビックリだよ!』
「今、どうやって通信してるの?」
『適当に通信してたら繋がった。多分だが、こいつは常に位置を変えてる。
今、家の真上辺りを飛んでるんだろうな。
だから、もう暫くしたら、この会話も通じなくなる。そういう訳だ』
「じゃあ、五年って?」
『奴の攻撃、というか嫌がらせを凌いで、生命活動を最低限に抑える。
その間に魔力を溜めて“ドカン”と開放させる。それで脱出だ。上手くいけば二年でも成功するな』
「誰かは知らないけど、相手も何を考えてくるか分かんないわよ」
『まあ、そう言えばそうだが、今はこれしか思い付かん。とにかくお互いに生き延びよう』
「助けに行くわ!」
『無茶言うな! さっきも言っただろ。ヤバイ奴だって』
「だって……」
『必ず帰る。まずはお前達が生き延びてくれんと俺が帰る意味がない。頼む』
「分かった……」
通信はそこで途切れた。
水晶球の光が途切れると、緊張が途切れたのかローラが床に座り込んで泣き出した。
色々あってもう限界だったんだろう。
今までの気丈さが嘘みたいだ。
思わず肩を抱いたら、泣きながらしがみついて来る。
もの凄い力で締め付けられるけど、痛いなんて言えない。
そっと背中に手を回すと、何だか彼女をあやすみたいになってしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
部屋に戻ってこれからの事を考える。
リバーワイズさんの指輪が手に入った事で、俺がこの世界で生きるための身分は保障された。
でも、これからが大変だ。
ローラ、メリッサちゃん、リアムの三人を守らなくっちゃならない。
リーラとメリッサちゃんは当然だが、実はリアムも、もう人間として認められる存在じゃないんだそうだ。
彼女は元々は人間の奴隷だから、自分で自分を買い戻す事が出来る。
でも、普通の人間の奴隷ならそこで自由民になれるけど、彼女は違う。
竜甲兵を野放しには出来ない。
だから、あくまで自分で主人を選ぶ権利を手に入れるだけだ。
それも主人は平民じゃあ駄目。
あくまで貴族の持ち物にならなくっちゃいけない。
リバーワイズさんも貴族扱いだそうだから、そこは問題無いけど、さて今後どうすれば良いのやら、だ。
その事を考えると、町に出る必要があるとしか思えない。
やっぱり、シーアンとか云う街まで行くしかないかなぁ。
ハルミさんを頼ろう。
ドアがノックされてリアムが現れる。
昼食が出来たと言われて、リビングに向かう。
腹が減っては戦は出来ぬ、だ。
しっかり食べてから、これからの事を話し合う。
結局、シーアンに向かうにしても、一度は代官領に降りなくっちゃならない。
気が重いなぁ、と言う俺を見て、リアムが、
「大丈夫です! 私にお任せ下さい」
と言ってきた。
そう言えば、その街はもとはリアムのお父さんが治める街だった。
まあ、何とかなるだろう。
今は考えても仕方ないね。




