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37:リアムの話とリバーワイズさんの伝説②

 リアムの美貌は生まれつきのものじゃない、って聞いた時、すこしがっかりしたのは我ながら浅ましいと思ったけど、本音だった。

 だって成形手術みたいな技術がこの世界にもあると思っちゃったんだよね。


 でも、そうじゃなかった。

 彼女の美しさは命と引き替えに手に入れた、いや、身についてしまったものだったんだ。


 どういう事か、話をまとめてみる。


 リアムの話で最初に驚いた事は、『竜甲兵を生み出したのは、リバーワイズさんだった』って言葉だった。

 いや、驚いたのはそれだけじゃない。

 最初の『竜甲兵』が生まれたのは、なんと今から二百年も前だったんだって!


 おい、おい!

 じゃあ、リバーワイズさんって最低でも二百年は生きてるって事じゃないか!


 この世界の人たちは寿命が長いんだろうか?

 それとも月日の数え方が、地球とは違うとか?


 そんな事も考えたけど話を聞けば、やっぱり、ふたつとも地球と同じだった。

 つまり、リバーワイズさんが重要人物なのは、そう云う事だった訳だ。

 少なくとも二百年以上の歳月を生きている大魔法使い。

 そして何より、この世界での最終決戦兵器である『竜甲兵』の生みの親、って訳だ。


 でも、今の彼は、唯の“流れ者の研究者”って扱いらしい。


 まず、リバーワイズさんが作り出した『竜甲兵』は最初、隣の国の属国として苦しんでいた『この国』を独立させる為に作り出された。

 乗り手(着用者、って方が正しいのかな?)も、まともな方法で選ばれたそうで、リバーワイズさん自らが選抜役をして、出来るだけ高潔な人物を選んだ。


 独立戦争はあっさりと方が付いて、この国は独立に成功した。

 また、独立後は近隣でも並ぶもののない大国になって今に至るんだそうだ。

 これも全て『竜甲兵の力』のお陰だった。

 これなら『リバーワイズ卿といえば、生きた伝説』って言葉も納得できる。


 ただ、リバーワイズさんは竜甲兵の危険性をよく分かってた様で、この物騒な代物(しろもの)の作り方を誰にも教えなかった。


 でも、スパイは身近にいた。

 大切に育てていた筈の助手が、不完全だけど竜甲兵の作り方を解読した。

 不完全、ってのは竜の筋肉や眼球と人間の動きを同調させる方法が分からなかったって事だ。


 『竜甲』そのもの、は助手も何とか作り出すことに成功したらしい。

 でも、それに人の動きを合わせることは出来なかった。

 だって、竜と人とは全く違う生き物なんだからね。

 つまり、このままだと助手の作った『竜甲』は見栄えが良いだけの“殻”だ。

 いつまで経っても『竜甲兵』にはならない。


 そこで助手は考えた。

『竜と人が違う生き物であるから、同調は起こらない。

 なら、竜と人とを同じ生き物にしてしまえば良い』


 そう、人間を竜と同じ身体に改造しようと考えたんだ。

 そして、実験を繰り返した結果、一番単純な方法に一番効果が有る事が分かった。


 竜の肉は猛毒だ。

 食べて生き延びられる奴なんか、殆どいない。

 でも、まれに生き延びる奴が出る。

 そう、三千人に一人くらいなら……。


 そして生き延びた人間は、その“神経の流れ”を竜に等しいモノにした挙げ句、様々な能力を身につける者が出る。

 大抵は怪力ぐらいだけど、それだけでも充分すぎる力だ。

 リアムの美しさも、こうして生き延びた彼女が手に入れた竜の力の“ひとつ”だった。

 美貌を手に入れた人間なんて初めての例だって事らしいけどね。



 話を戻そう。

 神経が竜と繋がった人間は竜人(ドラゴニュート)と呼ばれる人間とは全く別の生き物になったと考えられた。つまり、これこそが『竜甲兵』の最も重要なパーツになった訳だ。

 こうして『竜甲』の作り方を知った『この国』は、当然だけど問題の助手の考えた、この『竜甲兵』の作り方も軍に取り入れた。

 魔法契約で主人に逆らえない奴隷に竜の肉を食べさせて、生き残った奴隷を竜人(ドラゴニュート)、つまり『竜甲兵』に仕上げた訳だ。


 リバーワイズさんが気付いた時には全てが遅かった。

 王宮は大量の竜甲兵を揃えて、周りの国々を圧迫し始めたんだ。


 それに怒ったリバーワイズさんは、この国の王宮から離れる事にした。


 でも、王宮はそれを認めなかった。

 伝承では、王宮はリバーワイズさんが住んでいた村の人々を人質に取ったらしい。

 そこで、彼はこの国の国民としての『法を守る事』を条件に研究の旅へと出る。

 実際は、王宮に愛想が尽きたんだろう。

 その時になんか取引が有ったんだろうけど、結局、外国への侵略戦争は行われなかった。


 そうしている内に、竜甲兵の秘密は次第に外国にも漏れて、今では数に差は在っても各国が竜甲兵を持つ様になった。


 それだからか、リバーワイズさんは外国に行っても、大抵の国の王宮から丁重に扱われる。

 反面、竜甲兵の生みの親として命を狙われる事も多いらしいけどね。

 

 とにかく、こうして彼は、王宮にある程度の地位を残したままに“放浪の人”になった訳だ。

 これが、今から百七十年ほど前の事だったという。




「は~!」

 聞き終えて思わず息を吐いた。


「本当に何もご存じないのですね?」

 リアムが首を傾げて俺を見る。

 困った様な表情は、俺に疑いを持って良い物かどうか悩んでいるんだろう。

 

 こう云う時は正直に話すのが一番良いって、兄貴から習った。

「う~ん。リアムにはすぐばれちゃうだろうから、言っとくんだけどさ。

 実は俺、リバーワイズさんの弟子でも何でも無いんだよね」


「えっ!」


「いや。弟子志望ではあるんだ。でも、会った事はない」

 今、弟子を志望したのは事実だ。

 こう言っておけば、適当に誤解してくれるだろう。

 少しばかりの警戒心も残ってる自分が嫌だけど、まあ、これぐらいは見逃してもらおう。


 狙い通り、リアムは俺の事をリバーワイズさんの同郷で、この国まで弟子になるために押しかけて来た、と思い込んだようだ。

 しきりに“なるほど”と頷いている。


 けど、そこで気付いた様に顔を上げて、真剣な表情で問い掛けてきた。

 それは今後の彼女自身に関わる問題だった。


「御主人様は何故、私を盟約下に置かないのでしょうか?」


 ピートとあのボンボンの会話から分かった『盟約』という言葉。

 こいつは彼女を俺の奴隷にする事を意味している。

 ピートも、リアムの事は“俺の下に奴隷として置くように”とやけに念を押していた。

 その時の彼の表情が“理由はわかるだろ?”って感じだったんで、『なんで?』って、訊けなかったんだよなぁ。


 “さて、どうしようか”と悩んだ時、すぐ側まで近付く誰かがいる。


 顔をあげて正面を見ると、腰に手を当てて俺たちを睨み付けるローラが立っていた。





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