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36:リアムの話とリバーワイズさんの伝説①

「私の家も元は貴族でした」

 リアムの第一声に、俺は素直に驚いてしまい、思わず声が出る。

「へ~、そりゃ凄い!」

「いえ、貴族と言っても、準男爵家(バロネッティア)です」

「ああ、昨日の馬鹿ぐらいの(ランク)か……。あ、変な意味じゃないよ。

 気を悪くしたらゴメン……」


 そう言って少し頭を下げると、リアムはクスッと笑って嬉しそうに答えた。

「いえ、気を悪くするなんて、そんな事はありません。

 でも、やっぱりリバーワイズ様のお弟子様だけあって、御主人様も卿と同じような方なんですね」

「へ? どういう事?」

「リバーワイズ様は身分に拘らず、誰に対してもお礼や謝罪を普通になさる方ですよね。

 やはり御主人様も、その様に教育されたのでしょうか?

 私なんて最初はリバーワイズ様の事を“変わった人だなぁ”って思ってたんですよ」

 そう言ってリアムはもう一度、声を出さずに微笑む。

 真っ白な頬に傷とは違う赤みが差して、一瞬ドキリとする程に綺麗だ。


「ああ、うん。うん、そうだね……」

 俺は、あいまいに(うなづ)いて同意する振りをする。

 どうやら、この世界の身分制度はかなり強固なようだ。

 気を付けないといけない。

 昨日は、力の有る人間の身内だと言って騙し通せて助かった。


 リバーワイズさんとかが帰ってきたら、本当に弟子入りを頼んだ方が良さそうだと思う。


 そう考える内にもリアムの話は続いた。

 彼女の父親は準男爵だが、元は、かなりの大きさの農地を経営していた単なる豪農だったそうだ。

 それも、もう“村”と行っても良い規模の農園だ。

 その上、商売も上手くいっていたので、毎年結構な額の税を納めていたとか。


 ある年に、この土地の領主、つまり伯爵からの推薦で準男爵の位を受け取る事になった。

 急なことだったので驚いたそうだが、上手くいけば最後には男爵、更に功績があれば子爵ぐらいにまでは成り上がれる。

 そうなれば、既に私有地を持っているリアムのお父さんは、土地持ちの領主として国王に面会できる程の地方領主になる事は確実だ。


 当然、この話には喜んで跳び付いた。

 丁度、リアムが生まれて少し経ってたこともあって、“子どものために”って気持ちも大きかったらしい。


 ところが、こいつが悪質な罠だったんだ。

 計画を立てたのは、さっきのデブガキの父親にあたるカサンカ男爵。

 爵位はあるが領地を持たずに給金で生活する貴族。つまり宮廷貴族って奴だ。

 奴の場合は、伯爵の部下だったんで「官僚貴族」って言うべきなのかな。


 それはともかく、リアムのお父さんは、その罠に見事に引っかかっちまったんだ。


 最初の五年は何事も無く過ぎた。


 処が、リアムが九歳の時、つまり今から五年前に(いくさ)が起きた。

 辺境伯の“ダニクス”ってのが内乱を起こしたんだ。

 あっ! リアムはそいつのことを『侯爵』って呼んでるんだけど、何でも『辺境伯』ってのは国境防衛の重責があるんで、普通の伯爵より一段ランクが高い『侯爵』扱いなんだって。

 だからダニクスは伯爵だけど、侯爵。


 何だかややこしいから、ここからは『ダニクス侯爵』で行こう。


 それはともかく、ダニクス侯爵の反乱は、ほとんど『乱心』と言って良いほどの行為だったんで、庶民は誰もが驚いたみたいなんだけど、貴族連中はとっくに迎え撃つ準備を整えてたらしい。


 この話が出た時、リアムのお父さんも首を傾げていたとか。


 そんな中で、事件は起きた。

 どうも侯爵の反乱が起きるのを知っていたらしい伯爵は、カサンカ男爵に命じてスパイの摘発に乗り出した。

 そして、その網に掛かったのがリアムのお父さんだった。

 つまり、リアムの家。ファランギール準男爵家は王家に対する反逆者となった。

 リアムの父母は処刑され、莫大な財産は反逆者の摘発に成功した伯爵に、その殆どが報償として下される事になった。


 そしてリアムは奴隷に落とされた。



 ここまで聞いて、俺はちょっと疑問が湧いたので聞いてみる。

「ねえ、不思議なんだけどさ。リアムって、その、もの凄く綺麗だよね。

 なのに、なんで戦わされてんの?」


 妙な言い方だけど、早い話、これだけ綺麗な子なら変な店に売られたり、奴隷は奴隷でも『夜用の奴隷』にされそうなものだ、って事ぐらいは俺だって気付く。

 リアムの事を考えると“聞くのは良くない”って思ったんだけど、この世界での情報は少しでも欲しかった。

 だから、

「話したくなければ、良いんだけど、さ」

 って言い訳みたいに付け加える。


 そしたら、リアムは一瞬、妙な顔をして聞き返して来る。

「あの? 失礼ですが、もしかして御主人様は『竜甲兵』の作り方を御存知ないのでしょうか?」


「うん。 あ~、俺、余所者なんだよね」


「はあ、竜甲の無い国も有るんですね」


 不思議だ、と言う様な顔付きは変わらなかったけど、リアムは特に嫌がる事もなく、彼女が『戦奴』になった理由を教えてくれる。


 でもそれは、俺の予想を超える凄まじい話だったんだ。





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