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28:圧倒

 馬鹿な事です!


 私は自分の身に起こった事が理解できません。

 いくら旧型とはいっても竜甲兵をひとりで倒す魔術師など聞いた事もありませんわ。

 このグレイ・ワイバーン・タイプだって、人間だけで相手をするなら最低三名の魔術師に加えて十名以上の盾兵、それに合わせて複数の剣士と弓兵の連携が必要なのですのよ!


「これではまるで……。

 そう、まるでおとぎ話に聞く、“リバーワイズ様の戦闘”そのものではないですか!」


 急いで相手から距離を取りつつ、周りを見渡します。

 どうやら、この驚きは私に限った事では無かった様ですね。

 カサンカ男爵家の嫡男であるギルタブリル、親衛隊、それにバロネット達までもが目を見開き、口を空けたままに固まっています。


 自分だけの驚きではない、と知れば少しは落ち着けました。


 竜甲兵のチェックをします。

 どうやら、連続して二発もらったようです。

 最初は振り上げた剣を、次に右手を吹き飛ばされてしまいました。

 右上腕は今や跡形も無く、その切り口が燃えさかっているだけです。

 筋肉を()めて消火に努めましょう。


 それにしても、これだけの火炎弾を無詠唱で連発、などと……。

 現実とは云え、どうにも信じられません。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 おしっ! 動きが止まった。今のうちに距離を取ろう。

 あんな剣で叩かれたら肉片も残らないところだった。

 奴らの狙いがどうだって、これで“試し”は一段落だろう。

 二発合わせても半分以下の力で充分だった。レヴァも脅かし過ぎなんだよ。


 ホッと一息ついた俺は、ここで交渉を再開する事にした。

 『竜甲兵』とか言う奴も大きく下がったが、その右腕は盛大に燃え上がってる。

 あれだけの炎が有るなら、たいまつ無しでも言葉は通じるはずだ。


 大声で中年ヒゲに呼び掛ける。

「倒してはいませんが、これではもう戦闘は無理でしょう?

 どうでしょうか。これで合格、という事にして頂けませんか?」


 狼狽(うろた)えていた中年騎士だが、“少し待て”と言ってきた。

 おいおい、待ってる間に二十秒過ぎちゃったよ。

 どっちにせよ、俺の勝ちじゃん!


 奴らは何やらひそひそと話して居たが、その時、止まっていた竜甲兵がいきなり動き始めた。

 はぁ? 戦闘続行の意志があるだって!


「げっ、何で!」

 右足を大きく上げて踏みつぶしに来た。慌てて横っ跳びに避ける。

 危機一髪だ。

「お~!」

 なんて声が上がったけど、その騎士たちが竜甲兵を止める気配は無い。


「おい、続行なのかよ!?」

 奴らからの返事は無い。竜甲兵が暴れるだけだ。

 倒れたまま足下を狙ってレヴァの炎を叩き込むが、驚いた事に後方に流れる様な三六〇度のターンで見事に避けた。


「げっ! やっぱ、速えぇ!」


 互いに下がって更に大きく距離を取る。

 奴は半身に構えると、手首の無い右腕を前に出し、爪のある左手を身体の後方に隠す。

 次に突っ込んできた時、右手を盾代わりにして左手の爪で勝負に出るつもりなのだろう。


 冷や汗が流れる。

 丁度、バレーボールのネットよりも高い位置に竜甲兵の頭がある感じだ。

 中腰になって、すぐに動ける様に構えると、常に上を見ながら闘う事になる。

 こうなると足下に狙いが付けづらい。

 あの早さを見せられた後だと、一瞬でも腕から目を離して下を見るのが恐い。

 本当は足下を見ていなくちゃいけないんだろうけど、俺ってやっぱり素人だ。

 後ろに隠された爪が怖くて、そっちに視線が釘付けになるんだよ!


「おい、レヴァ! お前が言ってた『追撃の矢』ってのは使えないのか?

 百発百中みたいな事言ってただろ!」


 あせって怒鳴る俺とは逆に、レヴァは落ち着いて(こた)えて来る。

【『追撃』の力を得るには、まだまだ貴様の経験が足りぬ。山ひとつ崩すより、人ひとりでも殺せば近付くのが早い。まあ、少なくとも千は殺してもらわんと届かんな】


「馬鹿!」


 頼りになりそうで頼りにならない奴だ、と腹が立つ!

 それに、もっと相手と距離を取りたいけど、相手は一歩でこっちの五歩分を軽く移動する。

 今、奴の十歩で俺の頭にあの爪が突き刺さる距離だと思う。

 その十歩も二秒かかるかどうかって感じだよね。

『追撃』が使えないって事なら、火炎弾で足を潰すのは無理だろう。

 とにかく、奴は一旦動き出すと無茶苦茶に動きが速い。

 さっき手首を落とせたのは、油断して正面から突っ込んできてくれたお陰だ。


 もう二度と、ああ上手くはいかないだろう、と思う。

 近付いてきた瞬間を狙って“ドカン”で中心部分の『腹』か、身体全体を狙うしか勝ち目は無さそうだ。

 あの広範囲の炎なら、ちょっと避けたぐらいじゃ、どうしようも無い。

 間違い無く消し炭だ。


 でも、そうなると相手を“殺す”事になる。


“殺す……”

 出来るのか、俺に?


 俺の迷いを読んだのか、レヴァが珍しく声を荒げた。

【アホウ! 何を迷っておる。最大の力でさっさとケリを付けろ!】


 レヴァの言うことは正しい。

 でも、人を殺すんだぞ。そんな簡単に……。


 言い訳じみてきた俺に対して、レヴァの声は冷たい。

 さっきの怒鳴り声が嘘の様だ。

【……なら、お主が死ねばよい。その後、あの娘どもがどうなるか知らんがな】


 その言葉にゾクッとなる。

 そうだ、こいつは俺を殺しに掛かってる。 

 それに俺はふたりを守らなくっちゃならない。


 そう考えると不思議と気持ちが落ち着いてくる。それから相手の目を見て声を掛けた。


「悪いね、もう手加減できないよ」

 竜甲兵の右腕の炎はとっくに消えてる。

 今の言葉は通じてないだろうね。

 でも仕方ないんだ。恨むなよ、仕掛けたのはお前なんだからな。


「分かったよ……、レヴァ。全力を、よこせ!」


【そう来なくてはな】

 詰まる様な俺の声に応えてレヴァが楽しそうに笑うと、右腕に力が集まっていくのが分かる。


 戦闘に集中する中で、後方の騎士たちの間で起きている妙な騒ぎに気付く余裕は無かった。




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