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17:捕虜になった! ②

 身振り手振りで「料理を食べる間だけ」という条件でロープをほどいて貰う。

 まあ、聞くだけならレヴァが教えてくれるから分かるんだけど、怪しまれても困るので時間を掛けてテーブルに着く。

 メリッサちゃんが俺の隣に座りたがったけど、お姉ちゃんに引っ張られて結局、彼女らふたりは対面に座った。


 肉は焼き櫛から外され、一口大に切られて出されている。

 テーブルナイフの習慣が無い世界らしく、あるのは木製のスプーンと二股のフォークだけ。

 つまり、家長が肉を切り分ける権利を持つ中世式の食卓という事になる。

 中世のイングランドでは騎士同士で囲む食卓は戦場に等しい騒ぎであったため、トラブルを避ける意味で肉を切り分けるナイフを持つのは家主(ホスト)ひとりにした、と本で読んだ記憶がある。

 その風習が入る前にはメシの取り合いで腕が落ちただの指が飛んだだのは良く見られる光景だったらしい。


 こえーよ!


 さて、ここでも木製のスプーンはともかく、剣の達人なら金属製のフォークだって武器にしようと思えば出来るのかもしれない。

 だから“これは良いの?”という意味でフォークを指さしたら、お姉ちゃんは大型ナイフの刃先をこっちに向けてきた。

 下手な事を考えるな、という警告なのは目を見れば判る。

 黙ってうなずく。


 それからふたりは両手を胸元で合わせて何やら言葉を発している。

 どうやら食前のお祈り。


 メリッサちゃんは小さな手を顔の前で手をしっかりと握り絞め、お姉ちゃんも同じく、って!

 おい、おい、お姉ちゃんが顔の前で手を組むと腕が自然と胸元を締め上げる事になる。

 寄せて上げて、凄い!

 凶悪な光景だ! これを食事の度に見る事が出来るのか!

 良かった! 死んで本当に良かった!


 おっと、お姉ちゃんは気配に敏感だ。

 あんまりガン見はまずい。


 それに素直な気持ちでこの光景をみれば、何だかアメリカの開拓民みたいで、ちょっと感動する。

 やっぱり“いただきます”の文化があるって良いよね。

 そう思いながら同じ動作をする俺。

 目を開いたメリッサちゃんが俺を見て、またにっこりと笑った。



 塩があるだけで食事がこんなに美味くなるとは思わなかった。

 ハーブや少しばかりだけど胡椒も入っているんだろうか。香りもしっかりとしてて、今までの肉だけの味とはまるで別物。

 でも、やっぱりよく味わってみるとやっぱり雑な料理なんだよね。

 煮込んだ肉の“あく抜き”も甘い。

 せっかく鍋のあるところまでこれたんだから、俺もあれを使った料理をしてみたいと思う。


 こう見えても俺も料理は嫌いじゃない。

 いや、引きこもってからは全くやってないが、中学生の始め頃までは母親の手伝いもする良い子だった。

 炒め物やスープぐらいは任せられていた時期もあったんだ。


 また、家族を思い出す。

 なんだか嫌になる。もう忘れよう。


 さて、食後は引っ立てられて、空き部屋に連れてこられた。

 鍵を掛けて閉じ込められる。

 ロープよりはマシだけど、何というか、話が出来ないのは辛い。


 これじゃあ、いつまで経っても人との信頼関係が作れないじゃないか。


 悩むなぁ。


 と、レヴァが出て来る。

【ふむ、この部屋には封印魔法がなされておるな】


 おい、お前! 最初の話と違って呼ばれずとも出て来る様になったな。


【まあ、そう細かい事を言うな。何より、お主、言葉を覚えなくてはならんのだろ?】


 まあ、そうだけど?

 話相手が居ないんじゃ、どうしようも無いだろ。


【そこの暖炉に火を着けろ】


 言われた通りに暖炉に薪を組み上げて火を着ける。

 炎が安定するまでの間に、レヴァに質問した。


 なあ、さっき言ってた“封印魔法”って何だ?


【かなり高度な魔法でな。それを(ほどこ)された室内で魔法は使えん上に、物理的な破壊もほぼ不可能だ】


 へえ~、つまり脱走防止、安全確保ってわけね。

 あれ? でも、ほれ! 火、着いてるじゃん。


【我の力を押さえる程の術者など、今、この大陸中を捜しても五指に充たぬ。

 あと少しばかりでも力が増せば、もう押さえ切れる者などおらぬよ。

 とは言え、ここの施術をした者も中々の奴だな。褒める範疇(はんちゅう)に入れてやっても良い】


 なんかヤバイ事言ってるよ、こいつ。

 あんまり育てない方がいいね。


 そんな俺の考えなど知らず、レヴァは自慢げに言葉を続けていく。

【さて、炎の中を見よ!】


 言われて素直に炎を覗き込むと、ぼんやりとした画像が次第にはっきりとして来る。

 さっきまで縛られていたキッチン兼リビングの様だ。

 かまどの方からふたりを見ている事になる。

 成る程、かまどに残った火がここの炎と繋がっているって訳か。


 テーブルに向かい合って、メリッサちゃんとお姉ちゃんのふたりが何やら話込んでしている。

 ふむふむ、成る程、俺と何処でどう知り合ったのか、って話か。


「あれ? おい、レヴァ! 俺、何でふたりの言葉が分かるんだよ!」


【お主は今、我の炎を通して奴らの話を聞いている】


「そうだね。それで?」


【つまり、我の心の一部を読んでいる訳だ】


「あ、なーるほど。つまり、中継してもらう時に翻訳もくっついて来る訳だ」


【そうなるな】


 それを聞いてふと気付く。

「じゃあ、逆も出来るんじゃないのかよ?」


【お主の考えを伝える訳か? う~む、出来るかな?

 出来るにせよ、今の我の力では実際の炎が側に無ければ難しかろうなぁ】


「今の? じゃあ、もっと力が付けば?」


【恐らくだが、息をするより容易く言葉など通じさせて見せるわ】


 げっ!

 何だか、ヤバイ……。

 言葉を自由に使うためには、こいつを育てなくっちゃならないのか?


【お主、我の力が大きくなる事を危ぶんでいるな】


「分かるのか!」


【それぐらいは、な。

 だがな、我の力がどれ程大きくなろうとも、我は自分では力を使えぬよ】


「は? いや、だって今、お前、勝手に動いてるじゃん?」


【それはお主が“言葉”を望んだからであって、お主が望むからこそ我は力を奮える。

 そうでなければ我は無力なままの存在よ】


 ほ~、と俺は安心したのだが、かなり後になってレヴァの言葉の意味をもう少し考えて置くべきだったと後悔する事になる。





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