125:あっさり決着!
「……」
「やればそうなる、と聞いていても、実際に見るとスゲェな、おい!」
目の前のそれを見ても慌てることなく、黙って見据えるだけのダイバーさんは予想通りの反応と言える。
反面、ケッセルリンクさんの驚きの台詞はやっすいチンピラみたいになっている。
案外、この人の若いころって、こんな感じだったのかも。
そう思うと、少し笑える。
苦笑ってやつだ。
でも、俺の周りは苦笑どころじゃなかったみたいだ。
城壁の中、城壁の上、城壁の外、そして……、
本命の“城壁の斜め上”までもが大騒ぎになっていた。
300メートルほど向こうに現れたのは、高さ100m以上はある巨大な土の柱だ。
ただ、その上の平たい部分には伯爵軍の総大将の天幕を含めて500人以上の兵士たちが乗っかったまんまになっている。
要はテーブルマウンテンってやつだ。
壁はすべて垂直で指一本掛ける隙間もないほどツルツルに仕上げた。
下手に降りようとすれば100m真下まで真っ逆さまだ。
これじゃあシーアンを攻めるどころか、救助隊でも出して年単位の救助活動を先にしなくっちゃ話が進まない。
まったく、大笑いだよ。
遠く柱の上から、死にたくない、だの、降ろしてくれ、だのと悲鳴のような声が聞こえるけど、あれってあのブルドッグじゃねーの?
声になんか聞き覚えあるんだけど(( ´艸`)
伯爵軍本陣の中には高所を取ったからには、と弓を持ち出す強者もいたけど、軽く揺らしてやったら、二度とやらなくなった。
それどころか、下の兵たちに手紙でも落としたのか残った兵士たちが城門前で米つきバッタみたいに頭を下げてくる。
「弓矢一本も使わずに勝負が決まっちゃったねぇ」
ジャンがそう言うと、隣にいたルッツがボソリと呟く。
「リョーヘイの魔法を見た後じゃ、自分が魔法使いだって言いにくくなるよなぁ」
ハルミさんが慰めるようにルッツの肩を抱いて笑った。
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伯爵軍の一部はテーブルの頂上に放置して、残りの軍には引き上げてもらう。
ただし輜重隊だけは下に残って食料を補給してもらうことにした。
100メートルも巻き上げるのは大変だろうけど、頑張ってもらうしかない。
後は、あっちの責任だ。
その一方で、マイエル伯爵と再度交渉に入る。
最初は「何を馬鹿な!」とか言ってたらしい伯爵だけど、現地に来てびっくら仰天!
挙句に、伯爵が見ている目の前でテーブルマウンテンを50メートルほど上下させるとあっさり白旗を上げた。
ケッセルリンクさんが、輜重隊の人たちに金を握らせた上で伯爵が来たら、
「次は領都でこれをやると豪語してました」
と言うように指示してあったらしい。
真っ青な顔をして足はガタガタ震えてるのに、
「いや、何やら不幸な誤解があったようだ。どうかね、もう一度話し合いをしてみないか?」
と見栄を張って平気な振りで交渉してきたのには、感心を通り越して怖くなったぐらいだ。
貴族って、ここまでやらないと生き残れないんだろうかねぇ。
でも、ケッセルリンクさんもダイバーさんも、ここで引く訳にはいかない。
俺の力を盾に完全独立をもぎ取った。
しかも、シーアンと言う町の伯爵領からの独立だけじゃない。
なんと商業ギルドと自由人ギルドが完全に国から独立した自由勢力としてシーアンを拠点にするという宣言までしてしまったのだ。
これって国にまで喧嘩打ってるよね。
でも、結局は反乱を「本物」にするのが、ダニクス辺境伯(侯爵)との約束だ。
それに従うなら、ここであの宣言をするのも良いかもしれない。
という訳で、シーアンを失ったマイエル伯爵を証人として商業ギルドと自由人ギルドの合同民会を開く。
参加者300人を超えるこの会議で、ルルイエが行った宣言はこの後、国中に大きな衝撃を与えることになった。
曰く、
『都市、シーアンは王都において女王陛下の即位を妨げ、国政を恣にするミュゼーゼンベリア公爵の王都からの退去を要請する』
さて、いよいよ本格的な戦いの始まりだね。
お読みいただきありがとうございました。