121:開戦前
反乱が始まってから10日が過ぎた。
城門の上に立つ俺たちの目の前には伯爵軍約3000が布陣している。
方陣というやつで、後方には天幕が張られて、連絡用らしい馬がウロウロと行き交っている。
ここまでは兵力以外は予想通りの展開だ。
兵力も多いと言っても誤差の範疇は超えていないと思う。
さて、これからどうしようか?
ハルミさんと商業ギルドの話し合いはトントン拍子に進んだ。
商業ギルドのお偉いさんたちも戦力についての目処が立った事が分かると、ルルイエとの会談からミュゼーゼンベリア公爵家がバックに付いたと勘違いしたこともあって、あっという間に反乱へのゴーサインが出た。
いや、公爵家はなんも関係ないんだけど、まあ、いいか。
別に騙したわけじゃない。
あっちが勝手に勘違いしてるだけだからね。
話し合いのためという名目で代官の下に出向いた商業ギルドと自由人ギルドの面々は、あっという間に代官役所を制圧し、その日のうちに都市シーアンの自治宣言を出した。
代官は地下牢に放り込まれ伯爵との交渉材料になっている。
最初は戸惑っていた街の人達だけど、今のところ輸送ルートは確保されていることや税金が大幅に下がることを知らされて、反乱3日目頃までには大方が落ち着いた。
結局は彼ら自身が反乱を起こした訳じゃないし、万が一失敗しても自分たちは罰せられないと思ってるから呑気なものだ。
これじゃ、ギルドの人達だけが貧乏くじじゃないか。
そんな感じのことを俺が言うと、ハルミさんが笑った。
「んなわけね~だろ! 商業ギルドの連中はこの上もない儲け話になるから掛けに出たんだよ。
別に困窮する市民を見て義憤に駆られたって訳じゃないんだぜ」
「というと?」
問いかけると、正面のハルミさんではなく後ろに居たピートが答える。
「お弟子殿は都市伯という言葉を知っているか?」
「都市博覧会のこと?」
「? 多分、違うのでは? 別名を城伯というのだが、本当に知らないようだな。
要するに、自治都市の長は伯爵として扱われるのさ。それが都市伯だな」
「でも、それって王が認めないといけないんだろ?」
「今は王権が動かない状態だから実質がモノを言うな。とにかく実際に都市を制圧したら伯爵として扱われる。それに税も自由にとって良い。
周辺の土地で都市に付随すると認めさせた農村からもだが、当然そこからも税は入ってくる」
「へぇ~」
気の抜けた返事しか出来ない俺だけど、次の説明ではその本当の意味が理解できて驚きの声が出る。。
「このあたりだけで30ヶ村はある。村から一度の税収を得るだけで5千の兵を平時なら2年は養える」
「すげぇ!」
アホみたいに驚く俺を可哀想な奴と思ったのか、4兄弟の理想郷の参謀役のジャンが丁寧に後を継いでくれる。
「もしこれで勝てば、都市伯に就くのは武力を押さえてるあんたかハルミさんってことになるんだろうけど、商業ギルドは税収を管理することでモノの値段をコントロールすることができるし、その中で今とは比べ物にならんくらいデカい利益を得ることになるって訳だ」
「えっ? 俺が、なんだって?」
とりあえず商業ギルドの話は分かったんだけど、今聞いた話にちょっと聞き捨てならない部分があって、それどころじゃなくなったぞ。
「いや、あんたが居なけりゃ、こんな戦、出来っこないんだから、あんたも伯爵候補なのは当たり前だろ。
それにもともと子爵様だって聞いてるから、あんたがなった方が無理がないんじゃない?
でも、あんたひとりで街を維持なんて出来こないんだから、ハルミの奴にも良い役職に付けてくれよ。なんてったって俺たちの大将んだんからさ!」
「あ、ああっ、ピート! あんた、何余計なこと話しちゃってんの!」
「いや、お弟子殿が子爵だと言う話は、誰にもしたことがないな」
「んじゃ、誰が?! おい、ジャンさん。あんた誰からその話、聞いたんだ?」
「あ~、言わんとダメか?」
言葉と一緒に、ジャンは視線を城壁の上できゃいきゃい言っている3人娘に向ける。
「いや、いいよ。今のでわかった」
恐らくローラかリアムだ。多分、リアムだろうな。
嬉々として言いふらしてる姿が目に浮かぶ。
これからは言いふらさないように注意しとかないとなぁ……
とか何とか言ってるうちに、相手方の軍使が城門前に出てきた。
こっちはハルミさんと、あのおじさんは商業ギルドの偉い人だとか言ってたな。
なんか、口上の交換が始まったぞ。
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