118:実験②
「こりゃ、凄いな」
ハルミさんが素直に褒めてくれると、他の4兄弟の理想郷の面々も揃って大きく頷く。
と言ってもまだスタートラインに立っただけで、ここからシーアン乗っ取りに参加してくれるように説得していかなくちゃならない。
楽観的に考えるなら、代官であるザハクを追い出したところで懲罰にやってくる軍隊は最大でも伯爵が率いる二千人ほどだ。
王国は中央が全く動いていない仮死状態なのは今では誰もが知りつつある公然の秘密だ。
自由人たちが街の自治権を求めて立ち上がった場合、勝ち目は十分にある。
だけど、この壁一枚で二千人と戦えるかどうかは別の話だと考えているのだろう。
そのうちの一人、参謀役だというマッシュルームカットのジャンがいくつか質問があるというので答える。
いかにも頭脳派って感じの外見をしたジャンは、メガネの中央をクイッと上げて俺を見据えた。
「一瞬で作り上げたのは凄いけど、これで魔力が枯渇するなんてことは?」
「無いよ。あと百枚だって作って見せる」
「他に何ができる」
「あの壁を破壊できるファイヤーボールだね」
「あの壁は、ファイヤーボール程度で崩れるほど脆いのか?」
どうやら、レヴァのファイヤーボールをそこら辺の魔術師の攻撃と同程度だと思ってるらしい。
これには、ちょっとイラっときた。
「ふざけんな! なら、あんたらで攻撃してみりゃいいだろ!」
メンバーのひとりに魔術師がいることは先に聞いていた。
実際にやってもらうほうが、わかりやすくていいと思う。
「ルッツ、出番だぞ!」
ハルミさんが、そう言うと名前を呼ばれたルッツが壁に向かって呪文を詠唱し始めた。
それを聞いていてひとつだけ思うことがある。
俺は詠唱がなくて良かった。
いくらなんでも恥ずかしすぎる。
というのも、
「大気に潜む火の精霊よ。その姿を現し力を示せ。
従えし猛き炎の矢を我に与え、威を持って敵を穿て!
ファイヤーボール!!」
これですよ。これ!
聞いてる方がなんか顔真っ赤になりそうです。
なんだっけ、こういうの? 共感性羞恥っていうんだっけ?
で、けっこう速い部類に入ると思う肝心の炎の矢の方だけど。
とりあえずはまっすぐ飛んでいって壁に突き刺さり、大爆発を起こす。
土壁にあたったせいかな、まずまず派手に煙が立ち上った。
「どうだ?!」
少しばかり自信なさげにルッツが確認のためのセリフを吐く。
でも、やった本人が一番わかってるんだろうな。
潰した手応え、まるで無かったって……
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