117:実験①
「バ、バッカじゃないの! ホント、あんたバッカじゃないのぉ!」
ローラが怒り狂うのは当然だ。
そして、少しでいいから落ち着いて欲しい、という俺のささやかな望みは大根も裸足で逃げ出すリアムの演技によってぶち壊しになる。
「ヨヨヨ、ご主人さま、酷ぉございます。
わたくしの身体に飽きたなら、そう言ってくだされば新しい取り組みを心がけますのに!(ニヤリ」
こんな大根、通じるはずない。
そう思ったんだけど、これが結構ローラには効果があるんだよなぁ、トホホ。
「あ、あんったって人わぁ! 取り組みって? ど、どんなプレイよ! 奴隷に何やらせてんのよぉ!?」
「ち、違う、誤解だ!」
「ええ、五回ほど(計画通り)」
リアム、恐ろしい子! って遊んでる場合じゃないわ!
「許せない! いやぁ~、信じらんない~!」
「冤罪だぁ!」
「りょーへー、エチエチだぁ~ キャハハッ!」
やめてメリッサちゃん、俺のライフはもうゼロよ!
◇ ◇ ◇
確かに、ハルミさんにお願いしていたのはローラと二人っきりになれるためのテントだけど、いくらなんでもエッ○だなんて、そんなことしないよ。
土の欠片の力を大きく引き出すためには、まあ、その、つまり、ローラと長~い『キス』をする必要があるんだけど、ローラも見られるのはいやだろうからテントを張ってもらうことにしたって訳だ。
うん、キス、キスだけ、キスだけだよ!
それ以上はしません。
神様に誓ってもいい!
「誓うんじゃないわよ!」
何故、そこで怒られるんだよぉ~
◇ ◇ ◇
「昨夜はお楽しみでしたね」
「まだ、10分しか経ってないよ!!」
ともかく必要だってことでローラには納得してもらったんだけど、もう最後まで「ムードが無い」だの「初めてなのに」だのと半泣きで責められるし、俺も“確かに!”って納得できる言葉だから、申し訳ないやら情けないやらで………
その上、テントから出てきた俺を目一杯からかうハルミさんと仲間たち。
それに対してリアムは泣いてんだか怒ってんだか分からない表情で突っ立ってる。
ローラは恥ずかしがってテントから出て来ない。
メリッサちゃんは俺の袖を引いて“次は自分だ”とか言い出す。
そんな犯罪者見たいな事できるわけないでしょ!
もう、実験いくよ。実験!
これが上手くいかないと、なんにも進まないんだからね。
このあたりは全部が自然の平野だから、どこをどういじっても誰からも文句が出ることなんかないんだろうけど、テントの東側には綺麗な花畑が広がっている。
だから、こっちはダメにしたくないなぁ。
それに比べて南側ならただの草原だし、こっちは少しぐらい土地を荒らしても気持ちとしては楽だよね。
という訳で「力」は南側に向けて発揮することにした。
土をどれくらい操れるかは、なんとなくわかるんだけど、実際にやってみないと自分も自信が持てないし、街の人達の信頼も得られないからね。
見ててくれよ。ハルミさんとそのお仲間の皆さん!
心のなかで呟くと、片膝を付いて地面にそっと右手の平を当てた。
ゴー!
凄まじい音が平野に響く。だが、それも一瞬だ。
音が収まると、俺たちの正面には、幅にして百メートル、高さは三〇メートルを楽に超える一枚の壁ができていた。
厚みもそれなりに作ったつもりだ。
これならスーザに戻って、もう一度なんらかの防衛戦をする事になっても、前のように苦労することはないだろうなんて考える。
なんにせよ、この仕上がりは満足だ。
笑顔とともに振り返ると、文字通りにあっけにとられて、口が開けっ放しになった4兄弟の理想郷の面々が呆然と立っていた。
お読みくださりありがとうございました。
次回は水曜日頃には上げたいと思います。




