116:提案
笑い続けるハルミさんを見てて思う。
素直な良い人だ。この人は信じたい。
でも、この人だけが信じられる人間でも意味は無いんだ。
町の人たちが信じられなくっちゃ、俺の思ってる作戦は上手くいかない。
信じるかどうか、ってのはこの町の人たちが、自分自身が犠牲を払っても町や生活を守れるかを見てからでいい。
他人がやってくれなくちゃあ嫌だ。
自分は権力者に睨まれたくない。
そんな奴らなら、権力者と一緒に叩き潰された方がまだいいと思うんだ。
普通の人間はそんなに心が強くないものなんだって擁護する人もいるだろうけど、なら俺だって心は強くないよ。
そんな奴らを許せるほど強くないんだ。
それが煉獄へとつながる道だとしても………
だから、覚悟してゆっくりと口を開いた。
「ハルミさんは、獣人や亜人を救いたいって言ってたよね?」
「ああ、それが?」
「そのための方法があるとしたら、どうする」
「そりゃ、やるよ!」
「ホントに?」
「ただし、確実性が欲しいね。いくら理想が高くても無駄死にする事はできんからな」
「なら、さ……。俺の話に乗らない?」
「話? さっきダメだって言ったろ? あの魔法は意味ないんだよ」
「いや、さっきの話じゃないよ。いや、さっきの話も関係あるんだけど、それだけじゃないんだ」
こうなったら、正面から話を持ち込んだ方が良いだろうと思う。
今までの話からみれば、ハルミさんと俺の狙いは一緒なんだろうからね。
「俺は、これからこの国でちょっとした騒動を起こす。
手始めは、この街だ。
理由はハルミさんと同じ。いや、俺の場合はローラとメリッサちゃん、リアムが自由に生きられる土地を手に入れたいってだけだから、ハルミさんみたいに立派なものじゃないんだけどね」
俺の宣言にポカンとなったハルミさん。それから目を輝かせる。
「御弟子さん! あんた、もしかして国でも作るつもりか!」
「いや、国って程、大げさなもんじゃないよ。ある仕事をこなしたら、その分け前で貴族になって、領地を手に入れて、そこでは誰もが自由に暮らせる様にしたいって、それだけだよ」
「はぁ~! そりゃ、俺たち自由人だって、頑張りゃあ爵位や領地が手に入らない事も無いって事になってるけど……
でもな、そりゃ、あくまで建前だ。はっきり言って夢物語だぜ!」
「夢だと思ってるから、夢物語なんだろ?」
「ぐっ!」
いつになく俺は強気だ。
自分でも信じられないけど三人の為なら何だってやってやる。
そんな気になってる。
こわくないと言えば嘘になる。でも、この世界に来て彼女たちと関わって、それでいて引き下がるなんて、そんな選択肢は今の俺の中には無い。
俺の目を見てたハルミさんが、もう一度息を呑んで質問してくる。
「なぁ、御弟子さん。あんた、あの三人の中の誰かに“本当に”に惚れてるんだな」
言えない。いいえ、三人全員です。なんて言えない。
「う、うん。まあ、ね……」
「わかった。まず、話を聞かせてもらってもいいか?」
「良いの? 俺が言うのも何だけど本当に命がけになると思うよ……」
人に押し付けるヤツは信じられないって考えた、さっきの言葉と矛盾するけど、相手が信じられれば、信じられるほど逆に巻き込むことに不安が出てくる。
だから自然とそれが声になる。
でも、そんな俺の不安を吹き飛ばすようにハルミさんは、不敵に笑う。
それから肩をすくめて、からかうように俺に言い聞かせた。
「おいおい、な~に言ってんだぁ?
お弟子さんの計画が不合格なら俺は乗らないだけさ。
自由人は命の賭けどころを自分で自由に決めるから自由人なんだぜ!」
◇ ◇ ◇
翌日、俺たち4人はハルミさんを含んだ『クラン、4兄弟の理想郷』の幹部5名とともにシーアンから馬車で南へ進んだ。
翌日の昼前に小さな森を抜けて反対側の平原に出る。
ここらへんで良い、と俺が言うと馬車は止まった。
「うわ~、風が気持ちいいわねぇ~!」
馬車から跳び降りたローラが思いっきり伸びをして正面から風を受けると、美しい青い髪が後ろに流れる。
その見事なプロポーションも相まって、ちょっとした絵のようだな、と見とれていると、クランの5人も呆けたように彼女に注目している。
実はローラたちには話していないんだけど、これから「土の欠片」の実験をすることになっている。
で、ちょっと強い力がほしいので、ローラと長いキスをしなくっちゃならない。
前にリアムとキスしてるのがバレた時、凄い怒ってくれたから、多分大丈夫だとは思うんだけど、ふつうのキスですらローラが起きている時にやったこと無いんだよな。
なんて言ってお願いしようか?
それにしても、あんな可愛い子とキスできるのかな?
欠片の問題だけじゃなく、上手く行ったら最高だよなぁ
でも、逆に『嫌だ』って言われたら?
ちょっと立ち直れないかも。
いやいや、心配ないって、大丈夫大丈夫!
ふふ、俺って今、青春してるなぁ~
どこからともなくギリリ、ギリリ、と何かが軋む音がする。
おやおや、風に押されて馬車の車軸でも動いてるのかな?
なんて思ってたら、音は俺のすぐ後ろから出ているらしい。
「乳牛がそんなに良いんですか、乳牛がッ! ギリ………ギリリッ」
あああ、わかりました。なんの音かわかりました。
でも、俺は気づいていません。
俺は知りません。知らないよ~。怖いよ~。
必死でリアムのそばから離れようとするけど、身体が動かない。
頭の中がぐるぐる回ってグワングワンと音がする。
そんな音に混ざって、ふとレヴァの声が聞こえてきた。
【おいおい、それぐらいで泣きが入って大丈夫なのか?
これからお主がやることを知られたときリアムがどうなるか考えたら、もう少し気合を入れて恐怖を克服すべきであろうに、】
いやいや、陶器のような肌を持つスーパー美少女が後ろで闇落ちしかけてるんですよ。
知ってますぅ? レヴァの旦那ぁ
ブスの怒り顔も怖いけど、美人の怒り顔はもっと怖いんですよ!
その上、彼女は竜人でしょ!
アレの怒りを生身の俺が止めなくっちゃいけないんでしょうかねぇ(怒)
そんな怖いことできるわけないじゃないですか。
ええ、俺はやりませんよ。
他人がやってくれなくちゃあ嫌だ!
俺はリアムに睨まれたくない!
そう、誰か他の人がやるべきでしょ!
俺は睨まれたくないんだあああぁぁぁ!
【なあ亮平………、今のお主を見ていると、昨日、自分で言っていた
“人間として信じられないヤツ” “権力者と一緒に叩き潰されたほうがいいヤツ”
になっとるんだが気づいとるか?】
馬鹿野郎! 世の中にはなぁ!
『それはそれ! これはこれ!』
という素晴らしい言葉があるんだよぉ!
そんな風に恐怖に震えながらも俺は脳内でレヴァとの会議を繰り広げていた。
一方、流石に平原を眺めるのにも飽きたハルミさんたちは、早速テントを組み立て始める。
それを見ていたローラが不思議に思って彼らに声をかけた。
「ねぇ、ハルミさん。昼食の準備をするにしてもテントはいらないでしょ?」
「いや、昼飯じゃねぇよ」
「?」
「ちょ、ハルミさん、まだ………」
「お弟子さんとあんた、この中でこれからエッチするんだろ?」
「\(^o^)/オワタ」
お読みくださり、ありがとうございます。
週一回の更新ですが、お付き合いをよろしくお願いします。




