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103:黒い商人、白い商人⑥


「彼女達はみんな綺麗な身体です。

 俺はともかく彼女達に無礼な事を言うのは止めて下さい」


 本音を言えば怒鳴り飛ばしたかったけど、せっかくローラが話をまとめてくれた直後じゃあ、そうも行かない。


 確かに酔っぱらい相手に丁寧な口調が何処まで通じるか分からない。

 けど、このおっさんが精霊が言ってた混乱を引き起こす人物のひとりって可能性もある。

 ここは下手に出て様子見が正しい。

 間違ってるかもしれないけど、いきなりぶつかり合うよりマシだろうって我慢した。



「グニッツ! リョウヘイさんの言う通りだ。無礼はよさんか!」

 会頭が怒鳴ると、グニッツと呼ばれた酔っぱらいは肩を竦めて身体全体を木製の椅子の背もたれに投げ出すように、ドッカと腰を下ろす。


「閣下。 失礼ですけど、あの人って閣下の護衛なんですよね?

 あんなに酔っぱらってて役に立つんですか?」

 小声で語りかけたつもりだけど、グニッツはどうやら相当に耳が良かったらしい。

 怒鳴り返される。


「なんだぁ!? 気に掛かるなら今、『そこの会頭』に襲い掛かってみな!

 俺の腕が確かかどうか、すぐ分かるぞ!」


「そんな事、考えてませんよ!」

 思わず怒鳴り返すけど、会頭が間に割ってはいる。


「重ね重ね済まない。

 いや、君が何らかの武器を隠し持っていて私を害するつもりなら、どうあっても私は助からん。その後からでもこいつが動いたなら、それでも大したものだろうよ」


「は?」


「言った通りだよ。こいつは役立たずだ」

 投げ捨てるように会頭は言って、相手にするなとばかりに俺の肩を抱くとグニッツに背を向けさせる。


「まあ、失礼は勘弁してくれ。護衛としては役立たずだが、この街では重要なパートナーでな。

 どうしてもこの場に必要な奴なんだよ」


「はぁ……」


「閣下、そいつはひでぇ」

 背中にグニッツの不満げな声が飛んでくるけど会頭は一顧だにしない。


「事実だろ!」


「まあ、な。 なあ閣下、それはそうと、俺もその小僧と話したい。

 いいか?」


「彼は好まんだろうよ」


「さて、それはどうかな?」


 挑発されてるのは分かったけど、俺だって少しは言いたいこともある。

 だから、思わず声に出した。

「じゃあ、さっきの返事を聞かせて貰いたいですね」


「は?」


「俺はローラ達に謝るように、と言った筈ですが?」


「……、いやだ、と言ったら?」


「……」


「いや、済まない。少々、酔いが回って悪ふざけが過ぎた。勘弁してくれ」


 絶妙のタイミングだった。

 今、俺は“なら死んでもらおうか!”って口にしようとしてた。

 実際、本気で殺しても良いって思ったぐらいだ。


 でも、おれがそう思った途端、グニッツはギリギリで言葉を翻す。

 見事に肩すかしを食らった俺に、レヴァから忠告が入った。


【ふむ。 此奴、おもしろいな。朝方のビラーノは小物だが、このふたりは違う。

 特に今はこの男だ。気を抜くなよ、亮平!】


 おう、言われるまでもねぇ。


「で、何で俺と話したいんですかね?」


「まあまあ、これからきちんと詫びる。もう腹を立てんでくれ」

 そう言って、グニッツはグラスとデキャンタを持ったままソファに移ると、会頭のすぐ側に腰を下ろして深々と頭を下げた。


「まず約束通り、お嬢さん方にお詫びしよう。

 ちょっとばかり巫山戯(ふざけ)過ぎたようだ。『そっちの会頭』じゃなく、危うく俺の方が殺される処だったな」

 なんだか、一々ひっかかる物言いをするけど、何だろう?


 悩む俺を尻目にグニッツは俺の方にグラスを差し出した。

「やるか?」


「いや、俺は酒は……」


「なんだ、下戸か? もったいないな」

 そう言ってグイと飲み干す。

 それから、もう一度ローラ達を見ると妙な事を言って来た。


「なあ、お嬢さん方。他の領内も悪く無いだろうが、この街に腰を据える気はないか?」


「えっ!」

 三人の声が揃うと、グニッツは畳み掛けてくる。


「どうだい、あんたらの御主人様に一声掛けてもらえんかね?

 この小僧、お嬢さん方の言葉ひとつで道を決めちまう気もしないでもないんだが。

 それとも、こいつは俺の読み違いかな?」


 いや、読み違い処かドンピシャだぜ。

 あんた、一体何者だよ……。





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